永倉の言葉に、青葉は短く考え込む
そして口を開いた
『二人は一階の待機をお願いします。直に斎藤・原田両組長が、四国屋から応援に来る筈です』
「青葉は?」
『まず中庭の平助を回収してきます。
その後二階の沖田組長と合流します…中庭までの支援、永倉組長お願い出来ますか?』
永倉は力強く頷き、笑みを浮かべる
「おう!任せておけってっ!!」
青葉は永倉から近藤に視線を移す
『局長。暫しこの場をお願いします』
「うむ、二人共気を付けろよ!」
***
戦場と化した池田屋を駆ける影一つ
新撰組の羽織を羽織った青葉である
彼は途中で永倉と別れ、目当ての人物を探して疾走していた
走るその先に、彼が探していた人物の姿を捉える
『平助っ!』
探し出した平助の額からは、とめどなく鮮血が流れていた
「青葉っ!?何でっ!?」
彼の表情と声色に、困惑の色が浮かぶ
息も絶え絶えで、呼吸も乱れている
青葉はゆっくりと、平助と対峙する浪士に視線を向けた
黙したまま彼は、一部の隙のない瞳で青葉を見詰めている
『ほぉ…』
つい青葉は感心の息を漏らす
対峙している彼が刀を握らず、素手で戦ってたからだ
『…平助、永倉と合流しろ』
抜刀しつつ、彼は平助を己の背に隠す
その言葉に平助は目を見開く
「なっ!?だけどっ!!」
『…出血多量で死にたいのか、お前は』
低い声色で青葉は、反論してくる平助を嗜める
すると対峙していた浪士が、静かに拳を下ろす
「…私には、貴方と戦う理由がない」
『…我等が退く(しりぞく)ならば、そちらも退いてくれると?』
「ええ、無闇に命を奪うつもりはありません」
それに平助が噛み付いた
「俺らには理由があるんだってのっ!!」
平助を直ぐに止めた青葉は、目を細めて口を開く
その瞳は鋭く鋭利な光を秘めて
『…長州に与する者、ではなさそうだ。無闇に命を奪いたくないのは、此方とて同様…何れ貴方とは剣を交えたいものです』
「ええ…いずれ」
浪士はそう言うと、背を向けて去って行った
「まち…やがれっ!!」
立ち去る浪士を、追いかけようとした平助だが
血溜りに足を取られ、転倒してしまう
「畜生…畜生…」
『ったく…』
譫言めいた口調で平助は、何度も悪態をつく
それに青葉は苦笑を隠せなかった
素早く刀を納めた青葉は、懐から手拭い取り出す
平助の額の傷口に手拭いを宛がい、血止めをする
更に持ってきていた己の額当てを使い、手拭いの上から圧迫した
だが平助はその間に、意識を飛ばしてしまう
手当てが済んだ彼を背負い、青葉は小走りで廊下を走る
暫くしない内に、青葉は永倉と合流出来た
「青葉、無事だったか!…平助っ!?」
永倉に背負っていた平助を預け、青葉は永倉の負傷した手の処置にかかった
彼の手も負傷していたのだ
『平助の傷は、幸い骨で止まっています。俺の額当てで圧迫させてますんで、外さない様に。入口に出して、頭を高くして絶対安静』
「分かった…手、ありがとな。それと新八でいいぜ、敬語もいらねぇよ」
mae tugi
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