― 青葉編 ―
時は千鶴と山崎が土方隊と合流すべく、屯所を出立する前に遡る
山南の命を受けた青葉は、急いで身支度を整えていた
此処に着いた頃に彼女が着ていた戦装束は、殆どが使用不可能
防具で唯一使用可能なのは、特注で作った軽量・薄手・頑丈な鎖帷子(くさりかたびら)位だ
鎖帷子の上に着物を着付け、浅葱色の羽織を羽織る
己の刀を腰に差し、応急処置道具が入った布袋を、腰に下げて準備は整った
因みに青葉は額当ては使わない
が。今回は何があるか分からない為、懐に入れてある
支度が整った青葉は、屯所前に既に準備が整っている山崎と千鶴に合流した
『さて、急ぐか。二人共、俺の事は土方に言うなよ?余計な心配かけたくねぇ』
「…分かった。雪村君の事は任せてくれ」
屯所の入口で、三人は言葉を交わす
『いいかい千鶴。山崎を信じて、己の成すべき事を、成し遂げる事』
「はい、兄さん…ご無事で」
涙ぐむ千鶴の頭を、青葉は乱暴に撫でる
彼女を安心させるかの様に、穏やかな笑みを讃えて
『またな』
そう言うと青葉は颯爽と、池田屋へと駆け出す
その姿は既に見えず
「…速い…」
「…監察方に欲しい逸材だ」
青葉の余りの俊足に
二人は暫しその場に、立ち尽くしていた
*****
『(ちっ!やっぱ池田屋が本命かっ!!)』
疾走する青葉は内心毒づく
『(常に池田屋で会合してた長州連中が、【常識的】に古高捕縛後、池田屋を使用しねぇのが妥当だ。…相当頭の切れる奴がいるみてぇだな)』
日頃池田屋を使っていた長州
足が付いた今、普通は別の所で会合をすると思うのが普通だろう
だが敢えて池田屋で会合をするという事は、逆にその考えを逆手に取ったという事だ
そうこう思案している内に、青葉は池田屋に辿り着く
息も切れてない彼は周りを見渡す、討ち入って間もない様だ
『(【伊達軍一の韋駄天】の渾名は、伊達じゃないってな)』
池田屋の中から、白刃がぶつかり合う音が響く
正面に入ろうとした青葉だったが、その足を何故か裏手に向ける
池田屋の裏手には傷付き、地に伏している隊士達の姿があった
彼等の姿を捉えるなり、青葉の目が細まる
『(…血の強い匂いがすると思ったら、Bingoか…しかも一人はかなりの深手だな)』
池田屋の裏手から漂った強い血臭で、青葉は負傷者がいると判断
しかも目視だけで、彼等の傷の度合いを見切る
『山南総長の命により、馳せ参じた。傷の手当てをしよう』
「俺達より奥沢を見てやってくれ!傷が深いんだっ!!」
隊士の一人が、横たわる隊士を指差しながら叫ぶ
直ぐ様青葉は奥沢に駆け寄り、手当てを施し始めた
『…お前らは?』
「俺は安藤、こっちは新田だ」
彼等の名を聞きつつ、手を動かしながら彼は口を開く
『俺は青葉だ。まず奥沢だが、深手過ぎる。ここでは応急処置しか出来ない』
「そんなっ!?」
『話は最後まで聞け。四国屋の方には伝令が行ってるから、直に応援が来る。それまで持てばいい』
青葉の言葉に、安藤と新田は胸を撫で下ろす
『奥沢の処理が済み次第、池田屋入口に運ぶ。お前らの処置も施す、応援が来るまでお前等二人でここはもつな?』
迷いの無い彼の問いに、二人は力強く頷いた
裏手隊士の処置が済んだ青葉は、今度こそ池田屋正面から突入した
「青葉っ!?」
彼の登場に、一階にいた近藤と永倉は目を見開く
それもそうだろう
青葉は屯所にいる筈なのだから
「青葉君、どうして君が此処にっ!?」
『山南総長からの命により、四国屋からの応援が来るまでの、繋ぎとして参上致しました』
驚く二人に対して、青葉は冷静な返答を返す
しかも周囲の浪士と剣を交えながら
『裏手の隊士三名が負傷、応急処置を施しました。こちらは?』
「二階に総司、中庭に平助がいる」
mae tugi
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