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原田の【良い女】、鈴々音の【長所】というその言葉に、千鶴は気恥ずかくなって俯いてしまう


その後も、三人はゆったりとした足取りで屯所周りを散歩した



『月が出てないのは、幸いでしたね』



夜空を見上げる鈴々音が、ポツリと呟いた



「確かにな。お陰で土方さん達に見つからずに、こうやって屯所を抜け出せたしな」



原田も鈴々音同様に夜空を見上げながら、肯定の言葉を漏らした

そして視線を千鶴と鈴々音に向けた



「…折角京に来たんだし、名所でも案内してやれりゃいいんだが」

『気持ちだけ受け取っておきます、騒ぎになると面倒ですし。久々に身体を動かせて、外の空気が吸えただけで十分です。なぁ千鶴?』

「…うん」



原田の言葉を遮る様に、鈴々音は言葉を紡いだ





散歩を終え、建物の中へ戻ろうとした時



「…左之。何処かに出掛けていたのか?」



入口の方から聞こえてくる声に、千鶴は身を竦めた

原田は咄嗟に、声の主である斎藤から覆い隠す様に立ちはだかる



「ちょっとな、夜の散歩だ。お前は巡察から戻ってきた所か?」

「ああ。最近、浪士達が妙な動きを見せているという報告を受けた」



斎藤は少々表情を険しくさせて続けた



「近々、何か起こるかも知れん。左之もなるべく一人で出歩かぬよう、気を付けた方が良い」



そう言うと斎藤はそのまま歩き去って行った



「ふぅ…危ねぇ危ねぇ。油断大敵ってとこだな…ん?おい、鈴々音はどうした?」

「あれ?」



二人が周囲を見渡すも、鈴々音の姿がない



『こっち』



不意に聞こえた声の方に視線を向けた二人は、目を見開く

鈴々音姿は塀の屋根の上にあったからだ



「…いつの間に…」

『本気で焦った…中に戻りましょうや』



隊士達に見つからずに、無事千鶴の部屋に戻る事が出来た三人



「…いきなり連れ出したりしちまって、すまなかったな」

「いえ…気を遣って下さってありがとうございました」

『てか何で俺まで一緒なのかが、分からないんですが?』



原田に御礼を言う千鶴に対し、鈴々音は疑問を投げ付ける



「…最近お前、土方さんの手伝いばっかしてて休んでねぇだろ?」

『…確かに』



苦笑を漏らす原田に、鈴々音は気まずい表情を浮かべる



「…土方さんは【鬼副長】って隊士共から言われてるけどよ、ああ見えて以外と苦労人でな」



鈴々音から視線を縁側に向けた原田は、しみじみとした口調で漏らす



「その分頭が切れて、細かい事にまで良く気が付く。理不尽な事は絶対しねぇ人だ」



原田の言葉に、鈴々音は静かに頷く



「そんな土方さんがお前を此処に飼い殺しにしてるのにゃ、何か理由があるはずだ」



彼は表情を消し、千鶴を見ながら言葉を紡ぐ



「…ただし、もしお前が勝手な真似をしたら。あの人はとことん冷酷な判断を下すだろう」

『それが土方さんだ』



今まで沈黙していた鈴々音が口を開いた



『生真面目で一番仲間思いなのが土方さんだ、とんでもなく不器用過ぎるけどな。まぁ、悪い方には転ばねぇよ』

「…鈴々音、何故詳しい?」



呆然とする二人に、鈴々音は肩をすくめた



『…そりゃあれだけ手伝ってりゃ、嫌でも分かりますって』



鈴々音の言葉を聞き、納得してしまう原田と千鶴

その後二人は挨拶もそこそこに、彼女の部屋を後にした


不安だった千鶴の心

二人の気遣いで、どこか暖かく感じた



星の下で 完



***
随想録左之助恋情想起壱
…忘却イベントそのA&難産話…千鶴が逆ハー的になりつつあるが…予定にはなかった、なぁ

10...執筆
11.10.23.移転


mae tugi