それから瞬く間に終戦した

鈴々音が単騎掛けしたのが、一番の勝因だろう


なんせ手綱を持たずに馬を操り、六振りの刀を自在巧みに振るうのだ

松前藩にとっては、脅威そのものだろう



松前藩が落ちた事に、隊士達は歓喜に沸く

だが土方だけは、納得いかない表情を浮かべていた



「(…あの光は間違いなく婆裟羅だ…それに六刀流とか聞こえたぞ…まさか!)」



そう。彼はまだ鈴々音が合流した事を知らない

そして僅かな情報のみで、彼女が合流しているのではないかと感付いていた



「あ!土方さん!」



土方の心中を知ってか知らずか

平助が彼の前方で、明るく手を降る


それを見た土方はふっと、悶々としていた思いが軽くなったのを覚えた



「無事だったか、平助」

「もっちろん、当然!土方さんも無事で良かった!」



無垢な平助の笑みに釣られて、彼にも僅かに笑みが宿る


鈴々音と別れてから彼にとって平助は、心を支えてくれる存在だった


その無垢な笑顔と真っ直ぐな性格が

荒んでいた土方の心を、癒していたのだ


山南が仙台で、平助を生かしたのは

彼の未来の為でもあり、この先の土方の心を支え、癒すだろう


平助なら出来る、そう踏んだからだ



「土方さん、土方さん!オレ、凄い人と会ったよっ!」



目をキラキラと輝かせてはしゃぐ平助に、土方は首を傾げる



「凄い、人だ?」

「土方さん、きっと吃驚するよ!オレすっげぇ嬉しいよ、また一緒に居られるんだもんっ!!」

「………」



平助の半端無いはしゃぎ様に、土方は目を細めた

そして次の瞬間、彼の考えが核心に変わる



『……トシ』



鈴鳴る様な、美しい音色

そして土方が最も聞き慣れた声色が、彼の名を呼ぶ


肩を僅かに震わせながら、土方はゆっくりと振り返る



そこには紛れも無く、仙台で別れた…鈴々音の姿があった



「…紫苑…」



――…だが



「っっ!!」

「いいっ!?#name3#姉ぇぇ!?」



目を見開く彼の頬を鈴々音は、思い切り殴った

その勢いで土方は後方に吹き飛んでしまう



『あー、スッキリした…』

「…紫苑…てめぇ…何しやがるっ!」



口内を切ったのか。土方は口から、僅かに血を流す



『何って…てめぇの胸に聞けよ』

「っ!」



彼を振り返った鈴々音の瞳は、冷え冷えとしていた

それに土方だけでなく、平助までも身震いする



その瞳は今まで見た事ない程、冷酷で

宿す光は歪み、僅かに闇を孕んでいた


それに気負いしたか、平助は小さく息を呑む

その音が嫌に辺りに響く



『負傷者がかなり出てるな。手当してくっから、トシから榎本さんに話しておけ。当分手が空かん』



鈴々音は言い捨てると上着を翻し、踵を返す

そして負傷者の手当に取り掛かった



残された二人は彼女の背中を、呆然と眺める



「……土方さん……」

「……くそっ!」



彼は舌打ちを漏らし、口元の血を乱暴に拭う

その表情は苦痛に満ちている



土方は鈴々音を守る為に、敢えて自身から遠ざけた

それは彼自身にも、それは苦痛の選択

苦痛でも…彼女の身を心より案じた故の結果


だがどうだ?

鈴々音は土方の意志に反し、最北の蝦夷にまで足を運んで来た


しかも彼女の瞳には、見た事のない、歪んだ光が宿っているではないか



この様な結果など、彼は望んでいなかった

例え自身が苦痛を味わってでも、土方は鈴々音に幸せになって欲しかったのだ



「あの…馬鹿野郎っ!」

「…土方さん…」



唇を噛み締める土方を、平助は今にも泣きそうな表情で見つめる

そして彼は背後で負傷者の手当に没頭している、自身の義姉に視線を移す



「(土方さんと#name3#姉…昔みたいな感じに、戻ってくれないのかなぁ…あの頃の…二人に…)」



平助の脳裏に過ぎったのは、二人が互いに笑いながら寄り添う姿


うっすらと瞳に、輝くものを浮かべながら

平助は二人の険悪な雰囲気が早く収まる様にと、必死に願うしか出来なかった



蒼竜、飛来 完

………………………………………
最終章、原作ルート9章開始!

出だしは原作で千鶴が蝦夷に来る前、松前藩を陥落させる所を捏造
…夢主合流には何故か、戦闘シーンが似合う(笑

11.09.08.執筆
...編集・移転

mae tugi