其の百

明治一年 十一月


蝦夷の地では、大きな戦いが勃発していた

土方達が松前藩を陥落させようとしていたのだ



松前藩は最北の地に存在し

彼等が蝦夷地で活動する為には、真っ先に手中に収めなければならなかった


だが松前藩も黙ってはいない

彼等も土方達に対抗すべく剣を取り、瞬く間に大戦となった



*****



「っ!」



兵力的には完全に土方達が上、だが戦況は彼等が僅かに不利



「人数的には、オレ達が上なのに何で!?」

「恐らく彼等は…死を覚悟して、戦っているのでしょう」

「それはオレ達だって同じだっつーの!」



表情を崩しながら、平助は刀を振るう


仙台で山南に命を救われた平助は、土方に同行し

土方を支えるべく、彼なりに奮闘していた


平助の隣には、似た様な表情を浮かべた島田が、兵を斬り裂く

島田も平助同様に、土方に同行

以降。隊を支えるべく、彼も奮闘していた



二人の遥か前方では土方が鬼神の如く、刀を振るっている



「っ!(#name3#姉だったら…この状況をどうしただろ…)」



平助の脳裏に浮かんだのは、彼が実姉と慕う女性(ひと)



――…その剣の腕前は、新政府軍・旧幕府軍共に知れ渡り、【新選組の独眼竜】との二つ名が付く程


――…軍師としての才は、土方とも引けを取らず


――…その卓越した医療知識は、数々の負傷者を救い


――…その気さくな性格は、隊士達の寄り所でもあった



そんな隊の中心人物であった、彼女はいない

土方が安否を気遣い、わざと危険から遠ざけたのだ



「っ!」



鉛の弾丸が、雨の様に降り注ぐ

周囲の隊士達がこぞって、鮮血を流して倒れる



「っ…ちっしょうっ!!」



負けられないのはどちらも同じ

平助が前方の銃撃舞台へと、切り込もうとした


――…その時だった



HELL DRAGON!
Burst Mode!!

(ヘルドラゴン バーストモード)



聞き慣れた声と共に、空が切り裂かれた

複数の、青白い竜を形作った稲妻が、戦場を駆け巡る


気付いた時には銃撃部隊は勿論の事、戦場に居た松前藩の武士達が倒れていた


パカリパカリと

平助の背後で、蹄が鳴り響く


慌てて振り向いた平助は、その光景に自身の目を疑う



『よぉ、平助。無事で何より』

「……#name3#姉っ!?」



そこには見事な白馬に跨がった、青葉の姿

……そう、居る筈のない彼女がそこに居た



『詳しい説明は後だ。島田、無事か?』

「は、はいっ!」



青葉に呼ばれた島田はついつい、姿勢を正す



『島田は負傷者を連れて退避、平助はその補佐に入れ。相手は松前藩か…』

「#name3#姉はどうすんの?」

『このまま単騎掛けする。この戦力なら、他愛ない』



鼻で笑う彼女の手元には、既に本気の象徴とも言える六振りの刀が握られていた

それを見た二人は、言葉を無くす



『それと大鳥さんを見掛けたら、俺が合流した事と兵を後退するように伝えてくれ。

……松前藩は、俺一人で落とす』



そう言うと彼女は目を細め、戦場を見やる

彼女が纏う雰囲気は新選組隊士のものではなく、戦国武将のもの


その雰囲気に身震いした二人は、彼女へ敬礼する



「「了解!」」

『頼んだよ、二人共』



駆け出した二人の背後を見送ると、彼女はそっと白馬に優しい視線を投げた



『…もう少し、頑張ってくれ、な?』



彼女の言葉に応える様に、白馬は声高に遠吠えを上げる

それに満足げに笑みを漏らした彼女は、視線を戦場へと移す


大きく深呼吸すると彼女は、強く白馬の腹を蹴り上げた



『新選組の独眼竜
伊達 #name3#!
推して参るっ!』


mae tugi