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ほぼ恒例になっている、平助と永倉のおかずの取り合いが勃発

見兼ねた原田が、苦笑を交えながら口を開いた



「千鶴、青葉。毎回毎回、こんなんですまないな」

「…慣れましたから」

『…同じく』



苦笑しか浮かべられない二人



「慣れとは怖しい物だな…このおかず、俺が頂く」

『ほれ、千鶴。ちゃんと食っとけ』



あの斎藤さえ、争奪戦に参加しているから驚きだ…実に恐ろし、食欲

気付くといつの間にか、千鶴の膳には、おかずの山が出来上がっている



「わ…ありがとう、兄さん」

「…すげ、どっから…」

「お、俺のおかずがねぇー!」


「…新八っあんのおかず、殆どないや…」



永倉の空に近い膳を、平助はまじましと凝視する



「…なるほどな…」



原田は顔を引き攣らせつつ、納得した


実は青葉の左隣が千鶴、右隣が永倉

永倉に気付かれない内に、彼はおかずをちょろまかしてたのだ



「…いいのかな?」

「気にしたら負けだ。自分の飯は自分で守れ」

「は、はいっ!」



久々の大人数の食卓に、自然に千鶴の頬が緩む

不意に青葉が箸を止め、戸口に視線を投げる



「兄さん?」



すると広間に井上が入ってきた



「ちょっといいかい、皆」



いつも穏やかな井上、だがその瞳の光は真剣なもので

何か深刻な話だろう、と簡易に推測がつく



「大阪にいる土方さんから、手紙が届いてな。山南さんが、隊務中に重傷を負ったらしい」

「えっ!?」



皆が息を呑む


先に発言したのは青葉だった



『山南さんの容体は?』

「相当の深手で、傷は左腕の事だ。剣を握るのは難しいが、命に別状は無いらしい」

「良かった…!」



千鶴は安堵するが、青葉を含む皆は押し黙る

井上は近藤と話があるそうで、部屋を後にした



「刀は片腕で容易に扱えるものではない。最悪山南さんは、二度と真剣を握れまい」



沈黙を破ったのは、斎藤の冷静な言葉

青葉も頷き、千鶴へ説明を促す



『片腕だけでも刀は扱える…が。威力半減どころか、鍔ぜり合いになったら確実に負ける』

「…はい」



事の重大さに気付いた千鶴は、顔を俯く



「薬でも何でも、使って貰うしかないですね」



溜息混じりで沖田が言うと、永倉が窘めた



「総司。幹部が【新撰組】入りして、どうするんだよ?」



この会話に、青葉は眉間に皺を刻む



『(…【失敗】【薬】【新撰組入り】…全てあの件に関係してんな)』

「新撰組は新撰組ですよね?」



首を傾げながら千鶴は問いかける

平助が彼女へ口を開く前に、先手が打たれた



『悪いが千鶴。近藤さんに、お茶を届けてやってくれねぇか?』

「え、あ、はい…?」



二言三言確認を取ると、千鶴は足音を起てて、広間を後にした

完全に千鶴が広間から離れたのを確認すると、青葉は長くて重い溜息を吐き出す



『…平助、お前…何言おうとした?』

「えっ?」

『お前が今、千鶴に言おうとした事は
【俺と千鶴が踏み込んではいけない領域】の話だろう?』



斎藤も頷いて、彼に続いて口を開く



「青葉の気転が無ければ、危ない所だったぞ平助」

「う…」



二人に言いくるめられ、平助は表情を歪ませながら口ごもる



『…平助、特にお前は気をつけろ。根が素直過ぎる分、危なっかしい…』



宥める様に平助に諭すと、緩い動作で立ち上がる

それを沖田が制した



「待って。君は…何処まで、気付いているの?」



刹那

部屋の空気が凍った


ただ青葉は相変わらず、飄々とした表情で―



『…さぁな。だが千鶴を踏み込ませるつもりはない』



彼はそこで、一旦言葉を区切る

そして複雑な優しい笑みを浮かべて、続けた



『あいつは…優し過ぎるからな』



そう言い切ると青葉は、部屋を後にした



大阪からの通知 完


10.03.30.執筆
11.11.15.編集・移転



mae tugi



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