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夜の帳が屯所を包む

土方は自室で、報告書を睨んでいた



「…青葉 紫苑は、存在しねぇ…か」



そう呟いた彼は、視線のみ隣室に向ける


青葉を受け入れて数日

土方は彼の身元を、監察方に調べさせていた


結果は――



【その様な人物は
日ノ本に存在しない】



頭痛を覚え、土方は頭を抱える

不意に、隣から襖を軽く叩く音が響く



『起きてるかい?副長さん』

「…何だ」



半目で襖を睨みつつ、土方は返答を返す

声の主ははそんな彼の想いを知って知らずか、淡々と続けた



『少し話がしたい、良いかい?』

「…入れ」



僅かに躊躇したが、土方は入室を促す


襖が静かに開き、真っ青な着流しを纏った青葉が、部屋に足を踏み入れた


そして土方を見るなり、ニタリと笑む



『調べても素性、出ねぇだろ?』



開口一番、青葉は飄々と言ってのける

そして土方の眼前にまで来ると、堂々と胡座をかく



「てめぇ…一体何者だ?」



そんな彼の振舞いに青筋を立て、土方は冷え冷えとした声音で問う

ついでに眉間に深い皺まで刻んでいる



『何者ってもねぇ…俺自身が此処にいるのが、信じられねえってのに』



そんな彼に対し、青葉苦笑しながら頬をかく

その声音は何処か、戸惑いの色が見え隠れしていた



「…どういう、意味だ?」

『とりあえず、幾つか確認したい事あんだけど…』



青葉は土方にそう言うと、幾つか質問を投げ掛けた

幾つか土方に質問した後、彼は暫し考え込む


そして己が考えを、眼前の土方に話した



*****



「…んな話…信じられねぇぞ?」

『そりゃそうだ、俺も信じられねぇしな。有り得ねぇし。だがそれが、一番筋が通ってんだよ』



仏頂面で呟く土方、対する青葉も肩をすかせている



「…方法は?」

『分かってたら、此処にいねぇ』

「…だよな」



即答してきた青葉に、土方は表情を歪ませた



『まぁ、暫く世話になるぜ』



苦笑を浮かべながら、青葉は緩い所作で立ち上がる

それを土方が制した



「待て。この話を知ってるのは俺だけか?」

『…実は千鶴に、ちょいと零しちまった』

「…おい…」



表情を険しくさせる土方に、青葉は口元を引き攣らせる

だが彼は、すぐに軽く溜息を漏らす



「…まぁ良い。雪村に話して損はないだろう。同性がいて、あいつも安心するだろうしな」



彼の台詞に、青葉の表情が凍り付く


一見、青葉は好青年

だが土方が指摘した通り、性別は女性であった


しかしながら。彼女の整った顔立ちと雰囲気からは、誰しも青葉が女性とは察する事は出来なかった


………土方を除いて



『…気付いてたのか?』



そんなに意外だったのか、青葉は今だ目を見開いたまま



「見事な男装だな。端から見りゃ、誰も気付かねぇよ」



彼女の反応を見ながら土方は、口元を上げて薄く笑みを浮かべている

すると彼女から、感心の息が漏れた



『…初対面で俺の性別を女と気付いたのは、お前が初めてだ。説明面倒だから、伏せてくれ』

「…面倒って、お前…」



呆れ返っていた土方だったが、思い付いたかの様に口を開く



「そういやお前、結構な立場にいたんじゃねぇか?」

『あぁ、上っちゃ上か。実際は前線に出て指揮したり、書類片付けたりしてたな』



それを聞いた瞬間、土方の瞳が妖しく光った

青葉は眉を僅かに潜める



「…書類片付けんの、手伝え」

『…言うと思った』



帳の会合 完

***
通称、土方と夢主の密会(笑)
この話、15分足らずで出来ました…この2人は動かし易くて良い…



10.03.29.執筆
11.11.12.編集・移転

mae tugi



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