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千鶴は、戸口側に立っている青年を見やる

彼女からの視線に気づいた青年は、口元を上げながら口を開く



『逃走不可能と、彼女の性別は分かっていました。何より嫁入り前の女子に、傷を付けるのは性に合わないのでね』



きっぱりと言い切ると、青年は千鶴に視線を合わせる様に屈む



『状況が状況だ、全てを話すんだ。千鶴、それが君に今出来る事だ』



彼の言葉に、千鶴は力強く頷く

彼女は幹部に向き合い、順序よく説明した


――元々の住まいは江戸

――連絡の途絶えてしまった蘭方医である父・雪村綱道を探しに京に来た事を


ここで千鶴の父が、新選組と関わっていた事が判明



『(あの件と関わりがある…みたいだな。質が悪い)』



青年が内心で思案していると、会話は進んで、新選組が彼女を保護する事になった

そこで青年がふと気付いた様に、口を開く



『千鶴の処遇はどうするんです?』



安堵していた千鶴の表情が、一気に歪む

幹部達の表情も、些か芳しくない


新撰組は京都守護職、そして男所帯だ

そんな中に女子である、千鶴の処遇をどうするかが最大の問題となるだろう



『俺としては…』



此処で青年から提案が出された



『個人的には千鶴を、局長・副長・総長の御三方誰かの、小姓を推薦します』

「その理由は何だ?」



斎藤の問いに、青年は続ける



『特殊な事情だ、平隊士に伏せる必要がある。

組織上層部の小姓なら、仮に問題が起きたとしても、幹部のあんたらよりは有利に事が運べる』



幹部達は少し思案して、皆納得した表情を見せた



『隊士として扱うのは不可能だ。見た所、脾力(びりょく)が弱い。よって辿り着く答えが小姓な訳、納得出来ました?』

「…近藤さん、頼めるか?」



暫く悩んだ末、土方は近藤を指名する

近藤はそれに驚いて、目を瞬かせた



「俺が、か?」

『総大将の小姓なら、俺も賛成』



青年も土方の考えに、頷く

近藤は千鶴に向き直る



「雪村君、俺なんかで良いかね?」

「はい、喜んで!」



彼女の笑みを見て、青年は安堵



「んで。次はお前だ」



土方の冷ややかな声に、皆の視線が青年に注がれる

浅く溜め息を漏らしながら、青年は重い口を開いた



『俺は青葉 紫苑。生まれも育ちも北国』



彼は虚言を、すらすらと並べる


それもそうだ。事実を述べた所で、彼等がソレを信じると保証出来ない

寧ろ真実を話した所で、信じる訳がないのだ



『十歳位で両親と死別。それから生きる為に、何でもやってきましたね』

「うわっ…」



藤堂は聞くなり、顔を歪ませた

室内の空気が重々しくなる中で、青年…青葉は淡々と語る



『剣術は我流です。使えないと御陀仏ですから』

「こいつの剣の腕には、目を置いても損はないかと」

「本当か、斎藤?」

「こいつは【失敗】を、いとも簡単に斬り捨てた」



彼の報告に、土方と沖田は納得する様に頷く

その他幹部は驚きでしばし固まる



『俺としては、ここで働きたいんだが?』



青葉の言葉に驚きつつも、山南が問うた



「隊士としてなら申し分ないでしょう…ですが、何故?」

『千鶴が気に入った、それだけ』



彼の台詞に更に驚く幹部達



「は?」

「それだけ、かよ?」

『タダ飯喰らい嫌いなんで、食わせてくれるなら何でもやりますよ』

「…どうする、トシ?」



流石の近藤も困惑している、土方がより悩んで出した答えは――



「…しゃあねぇ、採用だ」

『…おや?』



本人自身すんなり通るとは思ってなかったらしく、僅かに表情を崩す



「…ただし、暫くは様子を見る。それ次第では出て行って貰うから、覚悟しろ」

『了解…ん?千鶴と同室で良いのか俺?』



青葉の台詞に、皆が凍りつく



「い…いっかーんっ!」




僅かに頬を染めた近藤が唐突に叫ぶ

面倒臭そうに青葉は、髪をかきあげる



『…俺としては、何処でも良いんだが…』

「…そうだ、トシの隣の部屋が開いていたな?」

「おい、近藤さんっ!?」

「それは良いですね、土方さんの側なら安心ですよ」



当の本人を差し置いて、話がどんどん進んでいく


ちらりと青葉は横を見やる、そこには不機嫌な土方の姿



「…てめぇら…」

『…良いのか…これで?』



浅葱の者達 完

***
【脾力 びりょく】…腕力のこと


10.03.28.執筆
11.11.11.編集・移転

mae tugi