「えっ!?かなでちゃんを暫く預かってるっ!?」
「………ああ」
四代目がはなまるにやってきた、かなでちゃんと一緒に
そして彼が語った驚愕の事実に、僕達は言葉を無くした
「…理由を、聞き出す事が出来なかった…」
「…四代目…」
唯さんは四代目に理由を告げず、ただかなでちゃんを預かってくれ…と懇願したらしい
それでも…唯さんは何故?疑問と不安が渦巻く
「携帯繋がらねぇの?」
「…アイツ、着信拒否にしてやがるんだよ…」
「うぅむ…用意周到ですね」
よく考えてみれば、僕達は唯さんの事をあまり…いや、殆ど知らない
どこで生まれ育ったのか、かなでちゃんの事とか、考えたらきりがない位に。それに気付かなかったのは恐らく、彼女が僕達に馴染み過ぎていたからだろう
側にいるのが当たり前で
一緒にいてもおかしくない位に
「あんな表情する唯は、初めて見た…」
「四代目…」
「信じてみようじゃないか」
不意に聞き慣れた声音が降ってきた
振り向くとそこには、アリスの姿があった……ってええっ!?
「…アリ、ス?」
「彼女は理由も無しに動く程、愚鈍ではないだろう?何かしらの、込み入った事情があって…それにあの子を巻き込みたくなかったんじゃないかな?」
部屋の外に出るのをあれほど嫌がるあのアリスが、この場所にいる事さえ驚きなのに。何故か唯さんを知っている様な口振りで
いや違う
アリスは知っているんだ。唯さんが四代目にかなでちゃんを預けた、その理由を
「…アリス…てめぇ、何か知ってやがるな?」
「済まないね、四代目」
鋭い狼の様な四代目の睨み付けに、アリスは怯む事なく言葉を紡ぐ
そして彼女から告げられた言葉に、僕達は再度驚愕する事となる
「彼女の依頼がある、これ以上僕は口を出さないし、依頼されても手伝わない」
「依頼?唯さんからの?」
「ああ。彼女が何故姿を消したか、それは彼女の過去が起因している。勿論僕がそれを、知らない訳がないだろう。だから彼女は敢えて僕に依頼した、君達に情報を提供しないでくれ…という依頼をね」
「なん、だ…と?」
唯さんが、まさかアリスにそんな依頼を…彼女の過去に一体何があるというのだろう?
不安が更に募る僕達に、アリスは再び言葉を投げた
「用意周到な彼女の事だ、時期に連絡が来るさ。それよりも君達が目下優先ですべき事は、唯の愛娘を守る事」
「かなで、を?」
そうだ
四代目の元には、唯さんの娘であるかなでちゃんが預けられてる
「四代目、君は彼女に…唯に託されたんだよ。彼女の宝の守り手に…信頼されてるじゃないかい?」
「……何も言わなかったがな」
「それこそ、四代目なら託せると思えたからこそだろう?でなければ彼女の宝である愛娘を、君に預けたりはしない」
「……………」
確かに言われてみれば、唯さんはかなでを目に入れても痛くない程に溺愛してる。躾は別だ、と以前言っていたが
そのかなでちゃんを四代目に預ける事は、同時に彼を信じているからこそ
「大丈夫。彼女は、唯は必ず帰ってくる」
そう断言したアリスには、どこか確信めいた雰囲気があった
「だから僕達は僕達の、出来うる限りの事を為すべきだ」
狼の苦難
…唯、僕に出来うる限りの事はした
後は君次第だよ
13.04.11.
mae tugi