目を覚ますと、客室のソファーの上だった。
部屋の主を探せば、バスルームから水音が。
「そうだ、」
昨晩は、バスタブで意識を飛ばした彼女を引きずり出したのに疲れて、そのまま彼女の使う客室で眠ってしまったのだ。
しかも、ソファーで。おかげで若干、体が痛い。
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
水の注がれたグラスを持った付き人が、不機嫌そうに入ってきた。
「なまえ様は、本日お買い物に出られます」
「そうか」
「もちろん、蜻蛉様もご一緒に」
「そうか。…んん?」
知らない間に、一緒に買い物に行くことになっていた。
「なまえ様の仕度に今しばらくお時間をいただきますので、それまで、この蜂熊がお相手を務めましょう」
「私にも仕度があるのだが」
「少し、昔話をしましょう」
「貴様、私のことが嫌いだろう」
冗談混じりにそう言えば、感情のない瞳で「それは、貴方では」と返される。
「いけ好かん奴だとは思っているが、嫌いというほどでもない」
「それは、本当に?」
「何を、」
「貴方は、本当は私のことを殺したいほど憎んでいるのでは?前の世で、彼女を散々甚振り、トラウマを植え付けたこの私を…」
「なんの話を、いや、そうか。貴様は…」
ここまで言われて、ようやく合点がいった。
ときどき浮き上がる、記憶の断片。
おそらく、私が彼らと出会うのは二回目なのだ。
「何故そのようなことを私に話す?」
「ただの暇潰しですよ。まあ、あとはいつかはまるパズルのピースです。君は聡い子だから、時が来れば気が付くはずだ」
"君"とは、随分下に見られたものだ。
「意味の分からんことを言う奴だな。なかなかのドS!」
「なんだか、思ったよりも疲れるな…」
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