「こんな時間にお昼寝してしまって、今夜眠れなかったらどうしましょう」
そう言いながらも、さして困った風ではなく、肩をぐるぐる回して固まった身体を解している。

「私が付き合おう!何がしたい?」と、勇んで立候補をすれば、彼女は頬杖をついて、
「何ならさせていただけるのでしょう」と、笑う。子供だと思って見くびられているのだろう。
「人生ゲーム、大富豪、UNO、なんでもあるぞ」と、指折り数えれば、やはり、
「まあ、素敵」と、笑う。

「寝かせるつもりはありませんよ」
「望むところだ」

鼻で笑ってやれば、彼女は楽しそうに、
「では夕食後、またこの部屋に集まりましょう」と言った。


これで、良いのだと思う。
なぜならば、実際、自分はまだ子供だ。ここで背伸びをして何になる。
だから、今はまだこの"子供扱い"を受け入れていればいいのだ。

いやしかし、私は何を目指しているのだろうな。

首を傾げたところで、彼女の腹の虫が鳴った。

「たくさん頭をつかったので、お腹が空きました」
「今日の夕食は何だろうな」
「ここのご飯はいつも美味しいです。昨日のビーフシチューは素晴らしかった」
「あんなに喜んでもらえるなんて、と料理長が泣いていたぞ」
「それは話を盛っているでしょう」

彼女はそうやって笑うが、本当の話だ。

「嘘ではない。ここの者は、日頃の感謝はすれど味には慣れてしまっているし、いつも来る許嫁殿なんかは、そもそもほとんど食事を摂らんのだ」
「許嫁とは、白鬼院の?」
「ああ。…よく知っているな」

返事をしてから、そう思った。母か誰かが話したのだろうか。
彼女はといえば、「ええ、ええ。そうでしたか、そうでしたね」と、感慨深げに頷いている。と思えば、

「あ!」

と、突然声をあげた。

「なんだ、」と、驚きつつも問えば、
「書き方とお習字をしなくては」と、独り言のように言う。

まさか、私が字が下手なのを思って…。

「いよいよ、家庭教師らしくなってきたな」
「とんでもない。わたしが勝手にやらせていただいているだけですよ」


結局、彼女は客人としてもてなされる身分のはずが、滞在時間の大半を、私の面倒をみることに費やしている。
これが彼女のしたいことなのだろうか。


「というか、数学もまだ終わっていませんよ」
「応用は、いい。あれはおまけだ」
「そういうところで点を稼いでおいた方が、ウケがいいんですよ」
「意外と、せこい考えもするんだな」
「真面目なので、出されたものはすべてやらなければ気がすまない性分なのです」

 

- ナノ -