テラスの窓から生ぬるい風が再び入ってきて、ゆらゆらとカーテンが揺れる。
彼女はどうやらクーラーが苦手なようで、「だってここは避暑地でしょう」と言って空調をつけたがらない。
昼過ぎまではつけていたのだが、日が落ちはじめてからは、寒いと言われて切られてしまった。


いくら風があるとはいえ、脱水症状をおこされては困る。と思って顔をのぞくが、汗一つかかずに、くうくうと寝入っている。

寝顔がよく似合う女だと思った。
もちろん、十六という浅い人生経験の中で、女の寝顔を見たことなど数えるくらいにしかないのだが。

つるりとした陶器のような肌は真っ白で、雪深い地方に住む故のものだろう。
頬に添えられた手も、その指先までもが冷たい雪の色をしていて、爪だけが淡く、桃色に色づいている。

彼女の体は、どこまでが白く、また、他に色づいている部分はどこなのだろうか。と想像しかけて、やめた。
それは、とても罪なことに思えたからだ。

今日も部屋着にしているであろう浴衣を着ていて、寝苦しかったのだろう、胸元や脚のあたりの袷が少し肌蹴ている。
浴衣の深い臙脂と、その隙間からのぞく白い肌のコントラストは目に毒であったが、私はその様子を"可愛らしい"とも感じていた。
とても、妙齢の女性に向けてつかう言葉ではない。しかし、なぜだろうか、そう思わずにはいられないのだ。


こうして、それこそ穴が開くほど見ていたのだが、眠っていても視線は感じるのか、何度か身動ぎした後に、彼女は目覚めてしまった。

起き上がったかと思えば、なぜかぐしゃぐしゃと髪をかき混ぜ、後悔したように「眠ってしまった」と呻く。

「寝るつもりではなかったのか」
「少し横になろうとしただけでした」
「そのわりには、こちらが何をしても気持ち良さそうにぐうすか寝入っていたな」
「それは、何をされても良い相手だったからでは?」

流し目でそう言われては、返す言葉がない。「また、負けてしまった」と言って降参のポーズをとる。というか、恥ずかしいな全く。

暑さのせいではなく顔が赤くなるのを感じていたら、彼女は、袷を整えながら
「それで、わたしは何をされてしまったのですか?」と、問う。

「何もするわけないだろう。君のSSに殺される」半眼で睨みつけながらそう返せば、彼女は笑いながら

「蜂熊ですか?彼は、なにもしませんよ。むしろわたしが怒られてしまうでしょうね」と言った。


その声が少し掠れていたので、水の入ったグラスを差し出す。
彼女は、ありがとう、と言って受け取って、そのとき、少し、手が触れた。熱い。眠っていた子供の手だ。

「見た目によらず、体温が高いんだな」
「子供体温って、よく言われます」

ふうん、と何ともないように返したが、体温が分かってしまうほど彼女の近くにいる者がいるのか。と、考えずにはいられなかった。


 

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