「そんなものは、実践に決まっているだろう。机上の空論は、役立たずの代名詞だ」私は、はっきりと答える。

「では、机上と実践、どちらが先に生まれたと思いますか」
「それは、…難しいな」意地悪な問いだと思い、眉を寄せた。

「難しいです。鶏と卵ですね。机上から実践が生まれ、実践から机上が生まれ、その二つは相互に作用しあっている」
「その心は?」
「どちらも大切!」

狡くないか、と反論したい気持ちもあるが、私もおそらく、心の底では分かっていたのだろう。どこか納得する気持ちもあった。
しかし、それとこれとは話が別である。

「だが、つまらんものはつまらん」そう独り言ちれば、
「昨日見たペルセウス流星群ですけど、英雄ペルセウスのお話はご存知ですか?」と。

「その、ペルセウスというのは何だ」
ここまでくると、もう、分からないことがあったときに彼女に問うことは恥ずかしくなくなっていて、
そもそも、今まで自分が無知を恥だと感じていたことすら気が付かなかったし、そして、そんな気付きよりも、知りたいという気持ちが今は勝っていた。


「ペルセウス座の元になった、ギリシャ神話に登場する英雄です」
「…星に話がついているのか?」
「星座の多くは、ギリシャ神話が元になっています」
「そのペルセウスは強いのか?」
もう、質問攻めである。
しかし、予習をしたと言うことだけはあり、彼女は私の問いにすらすらと答えてくれる。

「ええ、とっても。あのメドューサを倒し、王女アンドロメダも救ったとされています」
「メドューサは、聞いたことがあるな…」
「髪が蛇の」
「見ると固まってしまうやつか!」
「そうです、よくご存知で」
「確か、そんな映画を見たことがある」

気付けば、ご飯などはそっちのけだ。
その上、彼女はとうとうプレートを端に寄せ、本を広げだす。

「有名なので、たくさん絵にもなっているのですよ」
「これは、何の場面だ?」

こちらもプレートを脇へやり、身を乗り出して本を見れば、彼女は、ふふ、と笑った。

「楽しそうじゃないですか。今日は昨日の復習と、絵画のお勉強をしましょう」

あまりにも優しげに笑いかけられて、気恥ずかしさから思わず「君が教えてくれるからだ」と、更に恥ずかしい言い訳をしてしまい、

「今のはお上手です。どきっとしました」と拍手をされた。

そんな、墓穴を堀りつつも幸せな午後。

 

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