「なまえちゃんはどうしてるのよ」
「今生ではもう会えんぞ。あいつはイレギュラーな存在だったからな」
「どういうこと?」
「あいつと縁があったのは私だけということだ!うらやましいか!」
「…凍らす」
「ふはははは!生まれ変わっても、貴様はドS!」
「お店で暴れないでね〜」


「で、無事なの?」
「昨年、旧帝大を卒業し、今は何処かで教師をしている」
「なんでそんなこと知ってるのよ」
「家同士が懇意にしていてな。しかし、詳しいことは知らん。私があいつに会えたのは一度きりだった」
「ふうん。じゃあ、記憶持ちかどうかも分かんないのね」
「いや、あるはずだ」
「はあ?それで、心配にならないわけ」
「なまえには今、自分の生活があり、自分の力で生きている。私が介入すべきことは無い」
「…案外、あっさりしてんのね」
「不満そうだな」
「別に。なまえちゃんのお御足が恋しいだけよ」



高校に上がって最初の夏休み、屋敷に、昔親交の深かった家の子供が遊びに来た。

私としては、海に山に予定が目白押しで、初日から出掛けたかったのだが、「坊っちゃんにも仲良くしていただかないと」という大人の事情で家に押し留められてしまった。
実際に彼女らが来たのは、それから四、五日経ってからだったが、一度出掛けたら帰らない私の癖を、家の者はよく見抜いていたようだ。

屋敷に訪れたのは、件の家の子供である女と、その付き人の青年であった。

一目見たときから、ああ、なまえだ。と思った。そして、名も知らぬ隣の彼には嫌悪感を抱いた。


私は彼女をよく知っていた。しかし、その時はなぜ知っているかはよく分からず、いや、そもそもよくよく考えてみれば彼女の"何を"知っているかすら、分かっていなかった。

久しぶりに再会した彼女は、綺麗な"女"になっており、あのとき死なずに行き長らえていれば、このように育ったのか。と思うとなんとも感慨深いかった。が、それと同時に「はて、"あのとき"とは?」と疑問に思う自分もいた。


あの頃の自分は彼女に関する記憶だけが抜け落ちており、思い出せそうで思い出せない歯痒さに苛まれていた。
記憶持ちの彼女たちにも、こちらが混乱するようなことばかりを言われてずいぶん振り回されたものだったが、まあ、それも今となっては昔の話か。

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