「!」


大学の正門横の柱に石田三成さんが立っていた。
昨日はかけてなかった眼鏡をかけて、本を読んでいる。

私は昨日の今日で早くに襲撃を受けるとは思ってもみなかったために不意討ちによる動揺でその場で固まった。
門まであと数十歩。
ていうか、な、なんでここがわかったんだろう。


こっそりと近寄りながら、昨日はちゃんと見れなかった石田三成さんの全身を、チャンスとばかりに盗み見た。
細長い。とりあえず細長い。
そして全てが整い、美しい均整を描いている。
鷹のような鋭い目が、野性的な部分も覗かせるのに、身なりはきちんとしてさっぱりと綺麗だから、知的で優雅にも見える。
彼が人の目を引くのだということは、さっきから女の子達がちょくちょく振り返って彼を二、三度盗み見ていることから伺える。
あんなにかっこいい人が、眼鏡をかけて読書してたら、そりゃあ目が行くよなぁ。
と思いつつも、そんな自分も彼をぼーっと見つめていたことに気づいて慌てた。


「……あの、石田さん……?」
「なん…………………!?おっ、お前は……!?」
「えっ?」


意を決して話しかけてみたら、こっちが最初に驚いていたというのに石田さんはもっと驚いてしまった。
き、傷つくな……!
なんだ、わたしに用があったんじゃないのか……ちょっぴり恥ずかしい。


「……ここの大学生だったのか?」
「はい。石田さんはどうして……」
「俺もここの大学に通っている」
「そうなんですか!?」
「ああ。三回生だ」
「私は一回生なんです」


案外近くにいたことにとても驚いた。
前世で知り合った者と来世でも同じように知り合うという法則でもあるのだろうか。

しかし話していてわかった。
石田さんには『石田三成』の境界ギリギリの危うさがない。ピリピリと神経をはりつめて生きていたあの男とは違うものがある。


「会いに行くなどと言ってしまったが、連絡先を聞くのを忘れたことを家に帰って思い出て」
「ああ、やっぱりそうでしたよね」
「あのときは……動揺、してしまい」


石田さんは照れたように目線を反らした。
どぎまぎと心臓が動いていしまうのは条件反射である。
本当に、こんなかっこいい人が世の中にいるんだな、とも感心する。
そして、石田さんに聞こうと思っていたことも、少し会話を交わして落ち着いたら思い出した。


「あの、石田さん」
「なんだ」
「石田さんは……記憶を持っているんですか」
「……持っている」
「……」
「『石田三成』の記憶がある。お前は『石田三成』の、恋人、だった女によく似ている」
「たぶん、その人は『私』なんでしょうね」


目の前にいるのは、やっぱり『石田三成』の生まれ変わりなんだ。
と思ったら安心した。
妙な安心感だ。初対面にも近い人に感じる安心感ではないよなあ変だなあと自分でも思うが、でも、不思議とすっ、と落ち着いた。


「わたし、も、あります……でも、記憶と言えるほどには頭の中に残ってないんです、断片的な映像みたいなものがあるだけで」
「……そうなのか?」
「はい。でも、私嬉しいです石田さんに会えて。今まで同じような人、出会ったことなかったから」


石田三成さん。
素敵な出会いをした。
あの時たまたま出会えて本当によかった。


「……三成と呼んでくれ」
「え?」
「いや……その、その顔で名字で呼ばれると……違和感がある」
「……み……三成、さん?」
「……ああ、」


やっぱりその方がいい、とあんまりにも優しく柔らかく微笑むものだから、私は何も言えなくなってしまった。

2010/12/12/Sun

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