私には前世の記憶がある、ということを今まで誰にも言ったことはないのは、こんな可笑しな戯れ言など誰も信じてくれるはずがないと幼いながらにわかっていたからである。
自分にしかわからない、しかし自分でも訳のわからない記憶の映像を、他人に説明したところで理解してくれるはずなどない。


前世の『私』は、『戦国武将』と恋仲であったようだ。
『戦国武将』が果たして本当に戦国武将なのかは計りかねるが、しかし『私』の生活風景を見ている限り、戦国時代と断定するに不足はないと思う。
だから、『私』は『戦国武将』と恋仲であった。

『私』は城でいつも戦地に赴いた彼の帰りを祈りながらただ待っていた。
1日の4分の1を祈りに捧げる『私』に、他にやることはなかったのかとぼんやり思いを馳せてみる。しかし『私』にはその祈りが、とても大切だったらしい。

『戦国武将』は常に眉間に皺を寄せ、眼光を光らせ、ぴりぴりと何かを警戒していた。
そのくせ馬鹿正直に真っ直ぐにしか生きられなくて、世間を上手く立ち回るやり方を知らなくて、よく他人と衝突していた。

そんな彼は『私』を心底愛していたらしい。
不器用で愚直な愛し方であったが、『私』はそんな彼を、同じように、こちらは包み込むような寛容で温かな愛を以て愛していた。


『戦国武将』の名が皆目検討がつかないのが残念である。
わたしの持っている前世の記憶など、所詮断片的な映像でしかなく、全てを覚えているわけではないのだ。
だがもしかしたら歴史にわたしの名が刻まれているかもしれないと思ったら、まだ気分はいい。

そう、前世の記憶など抱えて、良いことなんてちっとももないのだ。
夢でたまに見る『私』の記憶が苦しみ、その上少しでも感情的になってしまうと、寝起きは酷いし1日中頭痛に悩まされる。
今と過去がごちゃごちゃになって訳のわからなくなることがある。
前世の記憶が急にフラッシュバックして気絶することもある。

第一に誰にも相談できないことがとても辛い。




2010/12/05/Sun



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