少年よ大志を抱け!


つい最近まであんなに暑かった残暑と呼んでいいのかも分からない残暑もすっかり消え失せ、代わりに秋本番に近いほどの肌寒さを感じ始める。
夏休みを終えた学生たちは、またこれから長い勉学に身を投じることになるのだが、夏休み前とは違い皆ワイシャツの姿にカーディガンやセーター、ベストなど思い思いの防寒対策をして後期授業が始まる学校へと登校していた。

「あんなに暑かったのに・・・どうしちゃったんだろうね〜?」

「今話題の地球温暖化のせいだろ。」

ベージュ色のカーディガンをワイシャツの上から羽織っている伊作の問いに留三郎は欠伸を噛み殺しながら答える。
家が近いということもあり、二人は毎朝一緒に登校するのが日課になっている。日課というのもなんだか変な話で、二人は幼い頃からずっと一緒に育ってきた為にそれはもはや当然のことになっていた。

「だったら留さん、僕の為に地球温暖化止める発明してよ!工学部志望でしょ?」

「あのな、伊作さん・・・。いくら俺が工学部志望だからって地球温暖化止めるのなんか無理に決まってんだろ。」

寒いのが嫌いな伊作にとって地球温暖化により寒くなるのは致命的だった。
そんな伊作の非現実的な提案に留三郎は呆れたように溜息を吐いて相手の頭を小突く。
他愛ない話をして、ふざけあいながら高校への道を歩いていれば前に見知った後ろ姿を見つける。

「あ!あれ、文次郎たちじゃない?」

伊作の指差す方向には、クラスこそ別ではあるものの二人の幼なじみである文次郎と仙蔵の姿があった。

「二人ともおはよ〜!!」

朝から元気だな、と思う留三郎をよそ目に伊作は前を歩く文次郎達に駆け寄る。
留三郎は、ふと嫌な予感がしたが時既に遅く文次郎達が振り返った手前で盛大に伊作がコケる様を見ることになった。

「・・・はよ。」

「留三郎!!お前、ちったぁ伊作に注意するように言え!このバカタレィ!!!!」

「ッんだと!?この年齢詐欺野郎!!」

この二人の喧嘩も毎度のことである。そんな様を横目に仙蔵は、伊作を助け起こしてホコリを払ってやる。
なんだかんだと一番伊作のことを気にかけて、可愛がっているのはこの男だろう。

「いててて・・・有難う、仙蔵。」
「お前は毎回毎回・・・いつも気をつけろと言ってるだろう?不運なんだからな。」

腕を組みながら顔を覗き込むように笑む仙蔵に何も言えず苦笑を浮かべた伊作。
そんな仙蔵は紺色のセーターに身を包んで長い髪を緩く纏めていた。
そんな騒がしい四人の横を凄まじい勢いで通り過ぎる自転車が一台。

「いけいけどんどーん!!」

「・・・・・・小平太、安全運転。」

あれで自転車が一度も壊れていないのが不思議でならない。
もう既に遥か彼方にいる自転車を唖然とした表情で見ている生徒たちの中を四人は歩く。
もの凄い勢いで小平太が自転車で爆走して行く姿を見るのも、もはや中学の時から見慣れている。

「今日も小平太元気だね〜・・・。この寒いのにワイシャツ一枚だよ。」

「あの暴走自転車に轢かれてしまえば面白かったのにな・・・。ふむ、残念。」

今日は長次も一緒に登校か。と微笑を浮かべている伊作の横でポツリと仙蔵が呟いた言葉に留三郎と文次郎は確かに背筋に悪寒を感じた。
確実に悪意がないように呟いてはいるものの、悪戯が失敗したような残念さが含まれている。
真のドSは、コイツなのではないだろうか。

「あ、ねぇ仙蔵!!この前さ、教えてもらった子からメール来たんだけど、ほら、僕・・・英語を翻訳するの苦手でしょ?・・・翻訳してくれない?」

「別に構わんが・・・・・・高いぞ?」

フッと笑みを浮かべた仙蔵に伊作は財布を取り出して中身を慌てて確認し始める。
仙蔵は両親の仕事の関係上、海外に留学経験もあり、その為か海外にも沢山の友人がいた。長期休暇などには友人に会いに行くという仙蔵に付いて行ったり、巻き込まれたりとしたがやはり彼の語学力はそこら辺の大学生や先生さえも凌ぐものだった。
しかし、それ以上に海外での伊作のモテ具合には心底驚かされた。
あの誰しもが哀れむほどの不運さでも海外に行けば、それは魅力的になるのだろうか。
彼の携帯のメモリーの中には、日本人の名前だけでなくそれこそ海外の人の名前が沢山記録されている。

「相変わらず、すげぇな〜・・・。」

伊作のモテ具合を目の当たりにしたことのある文次郎や留三郎も、首を傾げるほかないのである。
そりゃ、男子として生まれたからにはモテたいと思うのは通常だろう。
ましてや海外。魅力的過ぎる。

「なんだ、お前たち。負け犬のように吠えるのかと思ったが?」

伊作から携帯を受けとってメールを読んでいた仙蔵が顔を二人に向け、ニヤリとした笑みを浮かべた。
確かにこの二人が並べば、綺麗と可愛い、一度で二度美味しいなどという言葉が似合うだろう。



((だがやはり、仙蔵(伊作)の方が可愛いに決まっている。))



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