意地っ張り


時間の流れというものは、目には見えずとも確かに流れゆくものだ。
それはこの世に生を受けた者に等しく流れている。
もちろん、自分にも愛しき者にも――。

果たして今、何刻なのだろうか。傷付いた腕を頭巾で止血しながら文次郎は、ふと考える。
六年総出の忍務実習。
内容は至極簡単なように思えたが、敵側も相当な腕のある忍を連れているのであろう。
実習は彼らが想像していた以上に厳しいものになっていた。

「チッ・・・しくった・・・。」

木々が生い茂る深い森の中で、文次郎は弾む息を整えるべく大木にもたれる。
傷は少々痛むものの、幸いにも毒は塗られていなかったようだ。
もちろん、文次郎もそれなりの応急処置のやり方くらい習得しているがやはり信頼できる伊作に処置された方が安心できるのだった。

「アイツらは・・・大丈夫だろ。とりあえず俺は、アイツらと合流するしかねぇな・・・。」

合流と言っても、ここで狼煙を上げるわけにはいかない。
それこそ自ら、自分の居場所を知らせてしまっているようなものだ。
今は慎重に動かねばならぬ時。
文次郎は自分の非力さを呪わずにはいられなかった。
イライラとする気持ちを抑えようと試みてはいるものの舌打ちをせずにはいられない。
そう考えていた時、自分とそう遠くない場所から気配を感じた。
この様子だと相手も自分にも気づいているはずだ。
先程から殺気をヒシヒシと感じてる。

(・・・俺はここまで、か?)

我ながら短いな、と自嘲に似た笑みを浮かべて幹づたいに立ち上がる。
腕は多少痛むものの動かないほどではなかった。

「そう易々と終わってたまるか・・・!」

ニッと笑みを浮かべると文次郎は殺気を放つ方向へと向かう。
何の為に今まで鍛練してきたのか―全ては闘うため。

「ッ!?文次郎・・・!?」

先程まで殺気を放っていた人物が声を上げる。
聞き慣れたその声は、六年間一緒に学び育った親友だった。

「留三郎!?」

それに気づいた文次郎は、留三郎の前に立つ。
合流できたことは幸いだが、最も見られたくない相手に怪我したのを見られてしまったことは不運だと言わざるをえない。

(伊作には悪いが・・・。)

「はっ、お前らしくねぇな・・・怪我してるなんて・・・。」

「うるせぇ、何しに来たんだてめぇ・・・。」

少し小ばかにされたような声音にまた舌打ちをしてから、横目で留三郎を見る。
喧嘩するのは、この二人にとって毎度のこと。
それが二人にとっての日課のようなものになっていた。

「どっかで迷子になってるどこかの誰かさんを探しに来てやったんだよ!」

「ほ〜・・・それはご苦労なこったな・・・」

傷のせいで熱も出てきたのだろうか、一瞬だが文次郎はフラッとよろけてしまった。
直ぐさま体制を立て直したがそれに気づかない留三郎ではない。

「辛いんだろ・・・貸しにしてやる。」

「・・・予算は上げんからな。」


些かそっけない態度で文次郎を支えると皆がいるであろう場所に向かう。
きっと打ち合わせした時刻よりも遅いことで仙蔵に厭味を言われるだろう。伊作には怪我のことで色々言われるだろうが、まずは傷の手当てを優先してもらおうと文次郎は内心で苦笑した。

(とりあえず、今はコイツと生きて会えたことに感謝するしかねぇな・・・)






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