帰り道で当然のように馬鹿をして、笑い合って今が一番楽しいと思えた。
それでも時間は確実に過ぎてゆくし、彼らがそれぞれの道を進むのを決める時が迫っていることも抗えることの出来ない事実。

「ん〜!!美味しかった〜!!」

あんなに快晴を保っていた日中とは裏腹に、伊作たち六人が店を出た時には既に街全体がオレンジの暖かな色に包まれていた。
結局、なんだかんだ言いつつも長居をしてしまったようである。

「ここの店、ちゃんと素材にもこだわっているし、色々と女性には嬉しい店だったな・・・。」

「カロリー表記もちゃんとされてやがったしな。」

仙蔵がいい店だと評している中で隣を歩く文次郎が補足するかのように言う。
長い間、あの甘ったるい匂いの中に閉じ込められ留三郎と同じようにコーヒー等を主としてあの果てしなく長く感じた時をやり過ごした文次郎の顔は、少し開放感に満ちているように感じられた。

「私もあんなにケーキ食べたの久しぶりだ!!」

「ケーキじゃなくても小平太はいつも僕たちの倍、食べてるじゃない。」

小平太の嬉しそうな笑顔と声音に伊作は苦笑する。長次も静かに頷いた。
あれから伊作や小平太が持ってくるケーキを皆(半ば無理矢理)でつつきながら、もうすぐ始まる期末考察や模試のことを話した。
なんやかんやと言いながらも、彼らもきちんとした受験生である。出願する高校へと情報として今学期の成績が渡されるため、少しでも点を稼がねばならないのだった。

「それにしても高校に入ってもう3年目とは・・・年月は早いものだな・・・。」

仙蔵の言葉に皆は頷いた。
幼い頃からずっと同じ道を辿ってきたとはいえ、大学ではそうはいかないだろう。
確かに同じ大学ではあるが、学部がそれぞれ違う。
今より会う機会が減るのは必然だ。
そう考えると何故か急に切なくなるのだった。
しばしの沈黙が流れる。

「学部が違うだけで大学が違うわけじゃない!離れるわけでもないだろ?それに会おうと思えば、俺は何がなんでも予定を空けるぞ?」

少し落ち込んでしまったような空気が流れはじめたのを打ち消すように、小平太は言う。
どんなに重い空気が流れようとも小平太のポジティブさに伊作たちは何度も救われた。彼らのムードメーカーはいつでも小平太なのだ。

「そうだな・・・何の為に携帯を持ってるんだ?」

「お前、ちゃんと携帯使いこなせてねぇけどな?」

「もう!!二人とも止めなよ!!」

文次郎の言葉に小馬鹿にしたような笑いを浮かべた留三郎が絡む。
いつもの険悪なムードが流れ始めたのを慌てて伊作が止めに入った。

「いつもの感じに戻ったな。」

「・・・いつも通りが一番だ。」

少し離れた所から苦笑を浮かべながら仙蔵は隣に居た長次に視線を向ける。
長次も何処か穏やかな表情を浮かべ、文次郎と留三郎の喧嘩に加わった小平太、必死に止めるが無理だと分かったのかこちらに助けを求める伊作を見ていた。
さて、どうする?と助けを求める伊作の視線を受けて仙蔵へと視線を移してくる。

「あの馬鹿二人も飽きないものだな・・・全く。」

「・・・それでこそのあいつらだろう?」

溜息を吐いて腕を組みながら、段々道行く人たちの視線を集めだしたにも関わらず取っ組み合いの喧嘩をしている二人を見て仙蔵は呆れたような表情を浮かべた。
長次も仕方ないだろう、と肩を竦めてしまう。

「仙蔵も長次も見ていないで助けてよー!!!!」

手触りのいい髪を乱しながらも必死に二人を止める伊作は、未だに助けてくれない二人に痺れを切らしたのか、名前を呼んだ。
少しお怒りの様子である。

「ッノヤロー、上等じゃねぇか!!」

「はっ!!お前が俺に勝てるわけねぇだろうが!!」

「二人とも正々堂々とやれよー!!」

小平太がやんややんやと煽るようにするのと同時に二人の間の空気は、ますます悪くなっていった。

「お前たち!!いい加減にしろ!」

「・・・・・・他の人たちに迷惑だ。」

仙蔵と長次は、やれやれと諦めたような表情を浮かべると大事になりつつある喧嘩を止めるべく、歩みを四人の元へと進めるのだった。

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