午後の憂鬱な授業を眠気に耐えながらやり過ごせば、やっと生徒達の自由な時間がやってくる。
部活をやる者や早々と自宅へ帰宅する者、寄り道をする者など放課後の過ごし方は様々だ。

「ねぇねぇ、ケーキバイキング行かない?」

伊作はいつの間に見つけたのか、ケーキバイキングの広告を映している携帯画面を見せてきた。
甘いものが好きな伊作は、授業中にこういうものを見ている時が多い。

「私は構わんが、そこの二人がダメなんじゃないか?」

仙蔵は毎回、こう言った伊作の用事に付き合ってやることが多く慣れていたが自分たちの後ろを歩く二人を振り返って伊作に顎で示す。

「あ〜・・・そっかぁ・・・留三郎と文次郎は甘いもの苦手だっけ・・・。」

二人を見ると伊作は落胆したように肩を落とす。小平太は当然行くだろう、という何処か無言の圧力的なものをかけてきた。
あんなに甘いものをお前らは、よく食えるな・・・と言ってやりたい衝動に駆られている二人だが、何処か某小型犬を連想させる伊作の目と、お前ら断ったら・・・な無言の脅迫とも取れる目と、さぁ、お前たちどうする・・・?というまるで女王の如くな視線に挟まれ、最終的には頷かざるをえなくなったのだった。

「ここ、ここ!結構うちの学校の女子にも人気があるみたいだよ?」

「おぉ!!いっぱい食うぞ!!」

小さな子供のようにはしゃいでいる二人を目の前にしながら、留三郎と文次郎はもはや家に帰りたくて仕方なかった。
中から漂って来る甘いお菓子の匂いやガラス張りの店内には、これでもかと言うほどの女性客ばかり。もはや場違いと言わざるをえない。

「ほぅ・・・流石は人気店・・・。やはり女性客が多いな。」

店の中に入れば、店員に笑顔で対応され六人は席へと通される。
その間、女性客の目は色とりどりのケーキではなく仙蔵たちへと向けられていた。
ただでさえ男性客が入るのも珍しいのに、容姿端麗と謳われる仙蔵のような男性とあらば自然と彼女たちの目はくぎ付けになるだろう。
無論、学校では仙蔵の人気が一番高い。しかし、伊作たちも負けず劣らずの人気ぶりであった。

「よし、小平太!!取りに行こう!!」

「いけいけどんどーん!」

席について鞄を置くなり、伊作と小平太は早速ケーキを取りに行ってしまう。
文次郎と留三郎は不機嫌丸だしという表情を浮かべながら頬杖をついて窓の外を見ていた。
そんな様を仙蔵は優雅に腕を組みながら面白そうに眺めて笑む。

「お前たち、女性客が怖がるからその顔は止めておけ。せっかくのいい男が台無しだろう?・・・あぁ、文次郎はもう既に台無しだったな?」

「んだと!?仙蔵!?」

「言えてる。」

小馬鹿にしたように首を傾げて言う仙蔵に、嘲笑うかのような笑みを浮かべて同意する留三郎に文次郎は苛立ちを覚えた。
しかし、二人のこの行為は文次郎が嫌いだからというわけではない。嫌いであったなら、留三郎や仙蔵の性格上、元から関わり合いにはならないだろう。
これは、どちらかと言えば悪戯に近いものである。文次郎をわざと怒らせてその姿を楽しむのが小さい時からの彼等の秘やかな楽しみだったのだ。

「ただいまー!」

「長次!お前の好きな抹茶のロールケーキ見つけたぞ!!」

やがて、両手の皿にケーキをたくさん乗せて伊作と小平太が戻ってくる。仙蔵と留三郎の楽しそうな笑みを浮かべる姿と、それとは裏腹に不機嫌丸出しなうえにどす黒いオーラを放つ文次郎、それを何も言わずに見守る長次がいた。
二人は何があったのか分からない為、首を傾げるばかりである。
しかし、今の状況よりまずはケーキ。
自分の取ってきた皿に乗るケーキを食べる為にフォークを掴んだ。

「美味いか?伊作。」

傍らにブラックコーヒーを置いて目の前で幸せそうに笑いながらケーキを食べる伊作を頬杖をつきながら見ているのは留三郎だった。
この体の何処にそんなに入るのか、留三郎は謎で仕方ない。

「うん、美味しいよ!!留三郎も食べればいいのに・・・。」

「俺は甘い物苦手なんだって・・・唯一、チーズケーキくらいしか食えん。」

食べる?と首を傾げる伊作に緩く首を振って留三郎は要らないと苦笑する。
何故かほんのりと二人の世界が広がりつつあった。

「おや、伊作。口元にクリームが付いてるぞ?」

伊作の隣に座っていた仙蔵がふと何かに気づき、自分の口元を指差す。

「え!?何処何処!?と、取れた・・・!?」

「馬鹿者、ここだ。」

全然見当違いの場所をゴシゴシと擦る伊作に呆れたように溜息を吐いて、仙蔵は口元に付いているクリームを指で拭ってやった。
その瞬間に、留三郎を横目で見ると笑みを浮かべた。

「・・・仙蔵〜!!!!」

悔しがる留三郎の叫びと、残念だったな〜留三郎。の言葉と笑い声が店の中に響いた。


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