等価交換


人と言う生き物は、同じ種族を好む。これは人に限らず全ての生き物に言えることだろうが、果たしてその中の何割が好んだ相手とずっと、一秒でも長く居たいと感じるのだろうか。

「・・・なぁ、兵助。」

「ん〜?」

目の前に広がるは、黒い海――否、兵助のきちんと(主にタカ丸などによって)手入れされた黒髪。
その黒髪を指に絡ませたりして弄びながらハチは、未だに机に向かう恋人に声をかける。
久しぶりに二人きりになれたとゆうのに、この恋人―久々知兵助は、い組の模範らしく出された課題にうちこんでいた。

「俺、こんな放置プレイされるために来たんじゃなくてお前に会いに来てんだけど・・・?」

「もう少しで終わる。だからもうちょっとだけ待って。」

もう何度くり返したか分からないこのやり取り。
こちらを一度も向いてくれる気配もなく、兵助は机に向いたまま答えた。そんな態度で答えられたハチは実につまらなそうな表情を浮かべているのでさえ、兵助は気づかない。
そこから、また続くしばしの沈黙。

「・・・!じゃぁ、兵助は課題やってろよ。俺は勝手に兵助で遊ぶし・・・。」

「はぁ?」

しばらく思案に耽っていたハチは、ふと何を思い付いたのか実に楽しそうな笑みを浮かべて兵助の耳元に囁く。
その声を耳元で聞いた刹那、兵助は自分の腰に回されている腕に気付いた。
自分は今、ハチによって抱きしめられているのだ。

「あの、ハチ?俺、課題が・・・。」

「だって兵助、せっかく会いに来たのに全然俺に構ってくれねぇじゃん。」

引きはがそうとしても兵助がハチの力に勝てないことは、兵助自身が身を持って知っている。しかし、それでは課題ができない。
仕方なく離して貰おうと自分の手を重ねるが後ろにいる相手からは、拗ねたような声音でそう返されてしまった。

(・・・全く・・・お前は犬か?)

自分の背後で拗ねているハチに気付かれぬように密かに溜息を吐くと、兵助は筆を置く。
抱き着いている当の本人は、反応せずに兵助の柔らかい髪に顔を埋めたままである。

「・・・分かったよ。せっかく来てくれたのにごめんな?ハチ。」

兵助は苦笑にも似た笑みを浮かべながら、相手に振り向く。
見れば、幼子のように拗ねたような表情を浮かべるハチがいた。

「兵助は、俺より課題の方がいいのかよ?」

何を言い出すのか、と兵助は驚く。ハチはまだ拗ねているらしく先程から兵助と目を合わせていない。

「まさか。だって俺がやるのは義務だからだし、仕方なくだけど・・・。」

「義務って・・・。だからって俺が来てるのに課題やってるのは可笑しくね?」

横目で兵助を見ながら、ハチは言う。
いつまでコイツは拗ねてるんだ・・・と兵助は内心、苦笑する。
それでもこれは兵助しか知らないハチの表情の一つでもあった。

「だってもうすぐテストだし、点取れなくてハチとの時間が取れなくなるの嫌だし・・・。」

兵助は常日頃から心掛けていることを素直に口に出してみた。
兵助の学力であれば全然問題はないのだが、それでも兵助は万が一の時というものを考えていたらしい。全てはハチのために。

「兵助?」

「だから、ハチも頑張ってよ?俺といる時間が少しでも欲しいなら、今度のテストで赤点取らないようにさ?」

キョトンとした表情を浮かべて兵助を直視しているハチに兵助は急に恥ずかしくなって顔を背ける。
今、思えば自分は何て恥ずかしいことを言ったのかと本気で後悔した。
一方では、ハチは内心嬉しさのあまりに叫びたい気分になっていた。あの兵助が、普段は素っ気ない兵助が実は自分といる時間が欲しくて勉学にうちこんでいた。
兵助の課題に嫉妬した自分を一瞬、恥じるが嬉しさの方が断然勝っている。

「兵助!!俺も兵助と居る時間の為に頑張るぜ!?」

「当たり前だろ?俺がこんなに頑張ってるのに、ハチが頑張らないなんておかしい。不公平だしな!」



この世は全て何かしらを得る為に、何かしらを差し出さなければならない。すなわち、等価交換。

(俺の等価交換の代償は、テスト前のこの時間。)








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