夏休み明けと言えども彼等の本分は学業である。
生徒たちがどんなに憂鬱そうな表情を浮かべていたとしても、教師たちは素知らぬふりをして授業を進めている。

「・・・とこのように、一見ややこしく見える式ではあるが先程の公式に当て嵌めることで・・・」

(・・・数学って面倒だ。)

ほかの生徒と同じように黒板に目線をやるが、教師の説明を右から左に受け流している為に、小平太のその行為は授業を聞いているフリということになる。

「なぁ、ちょ〜じ〜・・・俺、飽きた・・・。」

頬杖をつきながら隣を見れば、数学の教科書を見ながらシャーペンをノートに走らせている幼なじみの姿があった。
あまり感情を表に出さないこの幼なじみは、伊作たち同様に小さい頃からずっと一緒に育ってきて今ではあまり喋らない(喋ったとしても聞き取ってもらえない)ことが多いので、主に通訳的な意味で行動を共にしている。とゆうか、同じクラスである。

「・・・小平太・・・授業ちゃんと受けろ。」

この前の数学のテスト・・・と続ける長次の言葉を遮るように小平太は慌てて耳を塞いだ。
恐る恐る伺うように見上げれば呆れているのだろう、表情こそでは読み取れないが長次の雰囲気がそう言っている。

「あ、そういえば今日の日替わり・・・焼きそばパンだったな!・・・あと5分か・・・長次、合図頼む!!」

時計にふと視線を向ければ、もうすぐ昼休みの時間だ。
小平太たちの通う高校は小・中・高の一貫であるため、購買・食堂の競争率が激しい。
食べ盛りの生徒たちは、授業終了5分前くらいになるとウズウズソワソワしたり、しきりに時計を気にする。
そんな中でも、ボリュームがあって食べ応えのある焼きそばパンは一番競争率が高いのであった。

「小平太・・・4・・・3・・・2・・・1」

「いけいけどんどーん!!!!」

チャイムの音が鳴るのと同時に、小平太は有り得ない速さで教室を飛び出す。
それを見た教師はと言えば、またか・・・と溜息を吐くものの既にお決まりなので怒るということもしなくなった。
むしろ、怒るより前に小平太の姿はもうないのである。
小平太が購買への道を走っていると目の前にジャージ姿の留三郎と一つ下の後輩、竹谷が目に入った。物凄い剣幕で走っている。いや、この場合競り合っていると言った方が妥当だろうか。

「留三郎に竹谷!!俺も負けないぞ、いけいけどんど〜ん!!」

悠々と二人の横を通り抜けながら小平太は楽しそうに笑った。
そんな余裕な小平太に対し、二人同時に化け物と思ったのは二人自身しか知らない。

「小平太!!焼きそばパン、いつものメンバー分な!!」

「あ!?狡いじゃないですか!!」

友達使って何が悪い、などと言う言葉が背後から聞こえるが小平太は購買と書かれた一室に入る。
そして、着いて早々に人懐こい笑みを浮かべていつものおばさんにこう言った。

「おばちゃん!!焼きそばパン6つ!あと〜・・・。」



激しい競争が繰り広げられている一方、伊作・仙蔵・文次郎・長次はいつもの場所である屋上にいた。少々肌寒くはあるが、この場所が入学した時からの六人のお気に入りの場所だった。

「おやおや、小平太の無敗記録が敗れるわけもないか・・・。」

仙蔵は腕を組んでフェンスに凭れながら、下を見下ろす。そこには購買に群がる人の群れがあり、その中心に見慣れた幼なじみの姿を捉えて笑みを深くしていた。そんな仙蔵の言葉に三人はですよね〜・・・と頷く。

「留三郎も体育終わったと同時に走って行ったんだけど、ちゃんと小平太と合流出来たかな?」

心配そうにしている伊作もまたジャージのままである。
別段、ジャージのままで居ても教師たちから注意されるというわけでもないので大抵の生徒たちは体育の後はジャージでいることの方が多い。ジャージの方が何かと楽なのである。
もはや戦場と化している購買から二人が帰ってくるのを待っていると、ふと屋上の扉が開く。
四人が視線を向ければ、後輩の不破雷蔵と平滝夜叉丸が立っていた。

「おや、お前たち・・・またいつものか?」

仙蔵と伊作は二人が来た目的を知っていたためか微笑を浮かべる。伊作は羨ましい、と後輩たちの姿と長次とを見ながら頬杖をついているが、文次郎に至っては何のことだ、と首を傾げていた。

「すみません。お話し中に・・・。中在家先輩に直接渡そうと思ったので。」

雷蔵は自分の腕に抱えている包みを見せる。綺麗に結んであるそれは見間違うはずもない手作りのお弁当。
それは滝夜叉丸の腕にも抱えられていた。
端から見れば女々しいと思われるかもしれない状況だが、この後輩たちは先輩命令という職権乱用ならぬ立場乱用をされ仕方なく作ってきていると言うことだ。

「雷蔵・・・。」

「あ、はいはい!」

長次のか細い声に気付いたのか、雷蔵は仙蔵達に一礼すると小走りで長次の元へ行く。
それから二人の世界が展開されていくのを苦笑混じりに見ていた。それから仙蔵は、フェンス越しに下を見ている滝夜叉丸に視線を戻す。

「滝夜叉丸すまんな。お前の旦那は今、購買で戦ってるところだ。」

「いえ、大丈夫です。また無敗記録更新といったところでしょう。ところで、私もご一緒させていただいてもいいでしょうか?七松先輩からメールが入ったもので・・・。」

そう言って滝夜叉丸は、つい先程送られてきたメールの画面を仙蔵たちに見せると苦笑を浮かべた。本当に小平太は、この滝夜叉丸を溺愛している。とゆうよりも、自分の委員会のメンバーを溺愛し過ぎているのではないかと思わせた。

(((この子(コイツ)も厄介な相手に好かれたな〜・・・。ご愁傷様。)))







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