今でも時々、夢を見る。
目の前には揺れ動く紅。
全てを飲み込み、消し去るかのように揺れ動く。
周りを見渡せば、事切れた屍ばかりが地面を覆う。
彼等が纏うのも鮮明な朱。
自分一人が屍の中に立っている。怖くて、見たくなくて、そして足元を見た。
自分の近くに倒れている女。
自分を庇うように事切れた骸の女。

(誰?)

半ばパニックになっている自分の頭。きり丸は涙を溜めながら、その女を見下ろす。
あぁ、見間違うはずがない。

「かぁ、さ・・・・・・母さん。」

女性の素性を理解してしまったきり丸の脳は、涙をせき止めることを許さない。壊れたかのように後から後から涙と名付けられた水を溢れ出させる。
自分は失った。大切な存在を。
その事実だけがきり丸自身を追い詰める。


夜風が部屋に入り込む夜更け。
団蔵は静かに瞼をあげる。
静かに上半身だけ起き上がり、ふと隣の存在を見る。
その瞳には、愛おしさよりも切なさが浮かぶ。

「きりちゃん・・・また夢の中で苦しんでるの?」

せめて夢の中では、と何度願っただろうか。
隣で眠るきり丸の閉じられた目からは幾筋もの涙の跡があった。
そのことを告げれば、彼は隠そうとするだろう。団蔵は、そんなきり丸を見るのが何よりも辛かった。

だから彼は、今夜も泣いている彼に静かにキスを送る。
せめて、せめて自分が彼の支えになれるように。
自分がきり丸をこの世の何よりも愛しくて大切な存在だと考えているように、彼にとってそんな存在になれるように、と。

「ねぇ、きりちゃん・・・俺の前だけでいいから・・・夢の中でまで苦しまないで。だから・・・だから俺に本当のきりちゃんを見せてよ・・・ねぇ、きりちゃん?」

未だに涙を流しながら眠るきり丸の髪を梳きながら、団蔵は泣きそうに顔を歪めてきり丸に語りかけた。

その夜のことを知る者は、誰もいない。
そう団蔵自身以外は。


(愛してる、なんて言ったらきりちゃんは絶対受け流すでしょう?)




月下の想い/団きり




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