結婚式、幸せがたくさんつまった会場。
私は一人、悲しい顔をしてタバコに火をつけて喫煙所にいる。
「好きだった、のになぁ」
所謂元カレの結婚式である。
3年ほど付き合って、友達からももうすぐ結婚かなぁなんてはなして、私も勝手に妄想を膨らまして、呼び出しなんてされた日にはおしゃれもして。
告げられた言葉は『別れよう』の一言だった。
そのあと付き合った彼女がこれまたたまたま私の高校の同級生で仲がいい子だったもんだから結婚式に呼ばれた時はすこぶる泣いた。
「もう1年前だぞ、私。」
ぼそっと呟いた一言は一人の空間にひびいて余計に悲しくなった。
まだ会場に戻りたくない。ただそれだけの気持ちで2本目のタバコに火をつける。
何がだめだったのだろう、劣る部分があったのかな。
答えの出ない自問自答に悲しみを通り越して笑いが込み上げる。
「あれ、みょうじじゃん。タバコ吸うんだ」
「あ、国見。うん、そう。ずっと禁煙してたけど耐えられなくて。」
彼にやめろと言われたタバコ、頑張って3年もの間禁煙したけれど別れたショックでただただ吸い続けた。3年前好きだったタバコのフレーバーはいつしか消えて、あたらしいものになっており、過去のフレーバーはまるで私のようだと思ってしまった。
「あ、みょうじライター持ってない?席に忘れてきたっぽい」
「あるよ、はい」
カチッ、とならしてターボライターをつけて国見のくちに咥えるタバコに火を近づける。
咥えるタバコの火がついたことを確認してライターを離した。
ついた瞬間に広がるもう一つの紫煙が私の吐く紫煙と混ざって室内が少し白くなる。
「みょうじ、泣いてた?」
「泣いてないよ。別れて1年もたってるし、」
「ふーん、思い出ムービーで席立ってたから泣いたのかと思った」
「国見いい性格してんね」
「好きな子がふられたってきいて捕まえなきゃとおもったからね」
「は?」
思わず咥えていたタバコを落としかける、もう少しで落ちるというところで力を入れ直し、伸びた灰を灰皿へと落とす。
「知らなかったでしょ」
「うん。」
「新郎の人と付き合ったって聞いた時、俺もいい加減諦めようって思ってたんだけど、俺はもしかしたらラッキーだったのかもしれない」
「私は結構未だに引きずってたんだけど」
「さっきの嘘なの」
そういうと国見はふー、と紫煙をはききりタバコの火を消した。
「多分もう終わるけど、あのムービー。戻る?」
「うん、戻る」
扉を開けて手を差し出される。その手を掴むか少し悩んだら国見に掴まれた。
国見はこんなに行動を起こすタイプの人だったのだろうか。高校の時の記憶を呼び起こして思い返すが思い出せない。
ただの友人だったはずだった。
「もう諦めたりしないって決めたから、俺も積極的に動くよ」
「はぁ。」
「なに、その不思議そうな答え」
「国見ってそんなキャラだった?」
不思議だったその言葉を吐けば国見は急に真顔になり、振り返る。
「なりふり構ってらんねぇなって思った」
「好きになったやつ、もう二度と手放したくない」
「だから、これからの時間は俺にくれない?」
きゅっと手を握って私を見る真剣な顔に思わず私の心はきゅんとなった。
恥ずかしくって、下を見ていれば国見は返事はゆっくりでいいよと言ってくれる。
「あ、ねぇ国見。連絡先は変わってないよね?」
「特に変えてない」
失恋して、忘れられなかった人が忘れられる日がもしかしたらすぐそこかもしれない。
私はこの数週間後、国見のアプローチに負けて了承の旨をラインで送った。