それから、ようやくゲームは開始したが――
「あは、は……やっぱり難しいっすね」
まず、ノーペア(役なし)でペッシが脱落。
「あちゃ〜、やっちまったな」
次に、ゲームが得意のホルマジオはストレート(数字が連続の五枚)を出したものの、残念ながらその場ではもっとも弱く離脱。
「〜〜ックソが! 最悪な札ばっか出やがってよオオ……!」
彼の後に続いたのは、チームの中で一番表情が豊かと言える(ただし、喜怒哀楽の≪怒≫に限る)ギアッチョ。
ちなみに、役はワンペア(同じ数の二枚組、残り三枚の数字はバラバラ)。
「……うん、ここまで来れたのがむしろ奇跡だったんだ……」
少しでも期待した自分がバカだった。そう言うかのように、イルーゾォは己の手札――ツーペア(同じ数の二枚組が二組)を見てガクリと項垂れた。
「チッ、フルハウス(同じ数のカード三枚と、別の同じ数のカード二枚)か」
そして、淡々と舌打ちをし、眉間に深いしわを刻んだプロシュートが輪から抜けたことで――
ゴゴゴゴゴゴ
ゴゴゴゴゴゴ
残るは、リゾットとメローネだけになった。
「ね、リーダー」
「なんだ」
「……どちらが名前の唇を奪っても、≪恨みっこなし≫だぜ?」
「ふ……その言葉、後悔することになるぞ」
名前が慎重にトランプを配っていく。
それを二人が確認し、一度だけカードをテーブルの真ん中にあるものと交換した。
「……ふ、ふふふふ」
「どうした。お前からだぞ」
何事だと眉をひそめる目の前の男に、メローネは満面の笑みで己の手札を晒す。
そこには、連続した数で同じスート。
いわゆるストレートフラッシュだった。
「勝ったッ! 名前とのキッスはオッレのモノ〜!」
≪決定的な≫勝利を叫びながら、彼は心の中でほくそ笑む。
実はこの役、イカサマである。
さらに言えば、交換する真ん中のカードも小さな数字ばかりに変えていたのだ。
つまり、相手は役を出せても自分より弱いものしか出せない。
――ふふふふ、バレなきゃイカサマじゃないって誰かが言ってたからね……ああ、名前の唇、柔らかそうだな――
「待て、メローネ。喜ぶのは、オレのカードを見てからにしろ」
「え? あはっ、そんなの見なくてもわか――なんだってェェエエ!?」
浮かれ始めていたメローネの視界に映る五枚の手札。それは――
すべてスペードでA、K、Q、J、10。
ロイヤルストレートフラッシュだった。
「ったく、メローネの奴……まんまとリゾットの策に嵌まりやがって」
「え? 兄貴、策ってなんすか!?」
テーブルの前で仰け反るメローネを見て、嘲るように笑うプロシュート。
その言葉の意味がわからず、首をかしげたペッシの隣でイルーゾォがギョッと目を見開いた。
「……ハッ! まさか……!」
「ありゃあ二人とも、≪イカサマ≫だ」
「はアアアア!? メローネはやりそうだが、まさかリゾットもやってやがったのかッ!?」
「ハン、仮にも暗殺チームのリーダーだぜ? ま、そのリーダーすら、このポーカーで決めたんだけどな」
「「「!?」」」
まさかの衝撃的事実。
信じられないというような形相の若い衆に、紫煙を吐き出す男はにやりと口端を上げる。
「ふっ、まあ冗談はさておき」
「え、冗談っすか?」
「チッ……紛らわしいなア、オイッ!」
「騙されてんじゃねえよ、ガキどもが。……まあオレも、ずいぶん長い間このチームに腰を据えてるが、あいつのイカサマぶりと言ったら……なあ?」
ククと喉を鳴らすプロシュートに話を振られたホルマジオが、おおらかに笑いながら首を縦に動かした。
「おう! あれ、リーダーの得意技だぜ? あの人、真顔でえげつねェことするからよォ……ま! メローネもまだまだ若いってことだろ。ははッ、しょォがねェな〜〜!」
その頃、ショックから立ち直ったメローネは、信じられないと言うかのように右手を挙げて、絶叫する。
「ちょ、異義あり! 異義あり! 超異義ありィィイッ! リーダー、あんたまさか──」
「メローネ」
「≪恨みっこなし≫、なんだろう?」
そう呟く彼はいつもの天然で鈍感な雰囲気でもなく、任務を完遂していくような冷酷なものでもない。
珍しくその顔は、勝者の笑みに満ちていた。
Poker faceの真髄
イカサマだって、なんのその。
〜おまけ〜
「と、いうわけで……名前」
「んっ!」
真っ白になる最後の対戦者を置いて、抱き寄せたリゾットはその唇を奪う。
「はああ……」
「あの燃えた時間は、なんだったんだろう」
一方、やっぱり(リゾット)リーダーか、と項垂れる男たち。
そんな彼らに追い打ちをかけるかのように、名前の悲鳴が響いた。
「り、りりリゾットさんっ! どうして私、抱き上げられて……!」
「キスの後にすることと言えば、わかっているだろう? 妙な邪魔が入らないためにも、今日は≪ホテル≫にでも行くか。先日、ようやくそれなりの報酬が出たんだ……そうだな、少しマニアックなホテルを試してみよう。きっと、名前も楽しめるに違いない」
「ま、マニアっ……!?」
バタン
勝者と敗者。
それを分け隔てる扉の閉まる音が、強く冷たい木枯らしとなって残された者の心に吹き荒んだらしい。
![](http://img.mobilerz.net/sozai/1616_w.gif)
お待たせいたしました!
連載ヒロインで暗チ寄り、リーダー落ちのポーカーでした。
bn様、リクエストありがとうございました!
安定のオチというかなんというか……な結末ですが、いかがでしたでしょうか。
感想&手直しのご希望がございましたら、どうぞ。
Grazie mille!!
polka
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