01
※裏



それは、ある少し肌寒い日の夜。


「名前……」



いつものごとく、恋人を優しくベッドへ押し倒したリゾットは、その不安げな瞳に引き寄せられるように顔を近付けた。

しかし――



「り、リゾット……っ」


「ん?」


「今日は……ダメ、なの」



≪ダメ≫。

彼女から放たれた一言に数秒だけ思考が停止したものの、


≪名前が恥ずかしがって拒絶を示すのはいつものことだ≫

と妙に恐ろしい自己完結をし、彼は動きを再開させる。



当然、そう判断されて困るのは名前である。



「ほ、本当にダメなんだって! その……アレ、だから」


「アレ? アレとはなんだ」


「〜〜ッ///」


「……名前?」





「…………せい、り」


これはなんの羞恥プレーだ――そんな文句は心だけに留めつつ、こちらを見下ろす男の暗闇でも煌めく赤い瞳からついと視線をそらした。

一方、その言葉にリゾットもようやく理解したらしい。



「生理、か……」


「(コクコク)……というより、この会話って毎月してるよね?」



どうして≪アレ≫でわかってくれないのだろう。

そう考えかけて、天然だから――とフル回転していた己の脳に言い聞かせる。


彼女が一瞬で納得してしまうほど、この恋人はかなりの天然だった。




「…………生理なら、仕方ないな」


ズーン

トーンの低い声で呟いたかと思えば、自分の上から隣へのそりと移動するリゾット。



「り……リゾット?」


「……気にしないでくれ。名前が嫌なことはしたくないんだ……」



そのあまりの落ち込みように申し訳ないと思いつつも、名前の心は≪きゅん≫と音を立てる。


――いつもはちょっと不器用で真面目なのに……その表情は反則だよ……。

時折、彼女が「可愛い」と笑顔で本音を口にすれば、彼は決まって眉をひそめるが、事実なのだからしょうがない。


「えっと……終わったら、しよう? ね?(なでなで)」


「ああ……(名前の≪シよう≫の一言だけで、危ないとは言えない……)」


「……(あ、そうだ)」



ベッドの中、沈む男の手触りのよい髪をなでながら、ふと名前はある作戦を思いついてしまった。



それは――終わってもまだ生理だと、≪嘘≫をついてみること。


リゾットはそういった知識があまりないので、バレるまでやってみよう。

しかし、まさか恋人である自分がこんなことを企てているとは、考えもしないだろう。


ちくりと胸を刺す罪悪感。

だが、人間たる者、押し寄せる好奇心に勝てやしない。


――それに、いっぱいしてるから……少しぐらいしなくても、大丈夫だよね?


「……楽しみにしている」


「! う、うん」



――……本当に、大丈夫かな……?

「大丈夫、たぶん上手くいく」と自身を言い聞かせつつ、名前は期待に瞳を輝かせる男の頭をなで続けた。






そう、これは小さな出来心から生まれた、悪戯だった。

だからこそ、≪因果応報≫という言葉をこんなにも実感する日が待っているとは、彼女は想像すらしていなかったのである。









それからというもの、リゾットはことあるごとに(というか毎晩)彼女へ同じ質問を繰り返した。



「名前、もう終わったのか?」


「リゾット……ごめんね? まだなの……」


「……そうか(ショボーン)」


「(きゅんっ)」



その間も、腹痛が辛いのか苦しげな名前を献身的にサポートし、


「名前……今日は――」


「ご、ごめん! 今回少し長めみたい……!」


「……(ガックリ)」


「(ちょっと可哀そうだけど、可愛い……)」



彼女が鉄分を摂取できるよう、仲間に文句を言われてもほうれん草などを毎日料理に出し、


「名前、もういいだろう?」


「だ、ダメ……! あと少しで終わるからっ(本当は終わってるんだけど……ごめんね、リゾット)」


「……」



名前には「気にするな」と≪頭なでなで≫のオプション付きで返しながらも、実は一度だけトイレにて右手と仲良くした男。

どうやら冷静になった途端、自責の念に囚われたようだが――それはこちらの知るところではない。


そして、いつの間にか己の恋人が自分に≪事情≫を告げてから10日が経とうとしていた。

同時にその日付は、リゾットの我慢の限界を示しもしていた。



「(明らかにおかしい……以前、名前の生理はこんなにも長かったか?)」


彼の中にある三大欲求。

もちろん、食欲は平均的(当チーム比)であり、睡眠欲は(夜中のデスクワークに慣れてしまったこともあり)低めと言える。


だが、性欲はどうだろうか。

何を基準にすべきか不明だが、平均的?

むしろチーム内でもっとも低い?



――答えは否。

毎日名前の(仲間の前でさえも)無防備な姿や寝顔を目にしていることもあり、本能はすでに男の理性を覆い尽くそうとしていた。



「そろそろ、シないか?」


「! ご、ごめん……まだ、なの(うう、さすがに苦しいかな……)」



アジトが寝静まった頃、ベッドへ入るや否や口を開いたリゾットに、彼女は顔の前で両手を合わせ謝る。

いつものように渋々だが、了承してくれるだろう。

10日間嘘を繰り返してきたことによる予想。


しかし、今回の反応は違った。



「……本当か?」


「え、……?」



ビクリ

よもや、疑われるとは――いや、今まで疑われなかったことの方がおかしいのかもしれない。

目を見開き、肩を震わせた名前を一瞥して、己の中の推測が確信へと変わった彼は問い続ける。



「名前、本当のことを言うんだ」


「あ、えっ、う……っそ、その……!」


「……止むを得ないな」


静かなため息。

喉はカラカラに乾き、ただただ身体を縮こませていると――



「きゃあ!?」


突然、布団を剥がれたかと思えば、ずらされるパジャマのズボン。

上腿を突き刺す寒さに、ハッとする名前。


「いっ、いや……ぁっ!?」



一枚の布が隠すだけとなった腰から足先を眺めつつ、リゾットはそのショーツの中へと手を入れた。

すると、直接指先が捉えた柔らかい媚肉。

慌てて自分を止めようとする彼女の両手首を左手で纏め上げ、彼は淡々と≪事実≫を呟いた。



「大人しくしていろ……やはり、終わっていたか」


「ぁ、っリゾ、ト、はぁッ……ソコ、だめぇ……っ!」


「……名前」








「――嘘は、ダメだろう?」


「! ひぁっ、や、ん……ッぁああ」



約十日、男に快楽を与えられていなかったこともあるのだろう。


赤く染まった耳たぶをねっとり食みながら、嫌々と首を振る反応とは裏腹に、じわりと正直に濡れ始めた名前の秘部を指で押し拡げる。



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