02




何が、起きたのだろうか。


いつの間にか視界を埋め尽くすのは、天井と名前。


いわゆる一つの形勢逆転。

瞳をぱちくりさせるイルーゾォに対し、いつもの優しげなものとは違う、余裕の込められた表情で彼は口を開き続ける。


「付き合うのはイイよ。むしろ大歓迎」








「――ただし、イルーゾォが≪下≫なら、ね?」



下、とはそういうことだろう。

状況から判断はできる。


だが、自分の予想していた方向とは違うにせよ、なぜか嫌ではなかった。


「……わか、った」


「ん、いい子(にこっ)」



被支配より支配。

向けられる艶麗な舌なめずり。

見下ろされる感覚。

彼が初めて魅せたこんなギャップを、誰が思い至っただろうか。

しかし、その知りもしなかった一面に――ひどく興奮してしまっていた。










「んっ」


首を縦に振った瞬間、塞がれる唇。

見開いたままのイルーゾォの目には、瞼を閉じた名前が映っている。



「ん、っん……はぁ、ッイルー、ゾォ」


「ふ……名前、ん……っぁ」


絡まる二つの赤い舌。

より高鳴り続ける心臓。

クチュと淫猥に響いたのは、水音。

暗闇へと引き寄せられるような息苦しさに意識が遠退きかけた途端、彼の顔はそろりと離れた。


「はぁ、はっ……ッ」


自分と彼をつなぐ銀の糸。

それがプツンと切れたのを呆然と見つめていると、名前がおもむろに下へずれ始めた。

布と布が擦れる音。

とにかく荒い息を落ち着かせようと、イルーゾォが一つ深呼吸をすれば――




「ひあ!?」


突然、ズボン越しに走った、自身への刺激。

ビクリと肢体を震わせた男に、快感を与えた張本人はただただ笑うばかり。



「クスッ……可愛い声」


「ぁ、っ名前……んっ!」


「よいしょ」



それから、名前はにこにこと毒気のない笑顔を浮かべながら、ズボンと下着へ手をかけ、するりとずらしてしまう。

抵抗する力はなく、そもそもする気もなかった。


「わ……想像したよりデカいね」


「! 〜〜っ///」


「……まずは、触ってみようかな」


「ッ、ぁ……はあ、っ!」



脈打つ性器を右手で包み、ゆっくりと上下し始める。



「すっごい熱い……イルーゾォ、気持ちい?」


「はっ、はぁっ、はッ……ん、きも、ち……ぁ!?」


「そっか……それなら安心した」



早くなる手の動き。

名前の手のひらが自分の一物を擦っている。


そう改めて実感しただけで、この高まった欲を吐き出してしまいそうだ。


一方、彼もイルーゾォの様子に気が付いたらしい。


「ん? イきそうなの? ……ダメだよ。まだこっちでシてない」


「!」



にこりと笑った名前が指で指し示すのは、己の唇。

大きな驚きと小さな期待に男が息を切らしたまま固まっていると、突如性器を覆った温かく、ぬるりとした感触。


「うぁ……!?」


「ん、っ……おっひくて、はいら、ない……」


「名前……ッは、はぁ……やめ……ああっ」


「? どーひて?」


「――ッ」



ふと、かち合う瞳。

ゾクリ――押し寄せる官能的な痺れ。


そんな彼のすべてを把握しているかのように、名前は先端を舌で弄り、裏筋をねっとりと舐め、口腔でモノを包み込む。

そして、不意にあることが気になったのか、咥えた状態で息を吐いた。


「っん……く、ッ!」


「……この、せはひって、なにも……うごはへないん、らよね?」


「え? はぁ、はっ……ん、そ、だけど……」


「それって……せーえひ、も?」


「!」



自分の許可がなければ、動かせない世界。

だが、考えたことがなかった。


なぜなら、するとしても今までは自分の意思で――シていたのだから。


眉をひそめたイルーゾォを見上げて、「やってみるしかないか」と自己完結し、再び唇を使い始めた名前。



「ぅ、ッく……はぁ、はぁっ……名前……ソコ、は……!」


「ほら……んっ、はやふひょはひなよ(早く許可しなよ)」


酷使する手と口。

別々に動くそれらに、切迫を余儀なくされるのは意識が霞むほどの激しい≪終極≫。

自然と、枯れかけた喉は声を紡ぎ出していた。


「くぁ、はッ、ぁっ……きょかッ、きょかす――」


「ん……っよくできました」


「ひぁ、あああ!?」



まるで、教え込まれたことを実行し、ご褒美をもらったかのよう。

強く、鋭く吸われ――艶やかな嬌声を上げながら、イルーゾォは甘い絶頂を迎えた。






バリーン



「!? は、ぁ……はぁっ……?」


そのとき。

世界のどこかで何かの砕ける音がした。


荒い息の男を一瞥して、口の中に溢れるモノを平然と飲み込んだ名前は苦笑気味にぽつりと呟く。


「あーあ……兄貴たちにバレちゃったかな、イルーゾォのところにいるって」


「…………、ええッ!?」



その後、凄まじい早さですべてを元通りにした二人。

どこから出ることが一番安全か――と考えてみるが、おそらくどこからでも見つかること必至だ。



「……はあ」


「大丈夫だって。二人とも優しいし、そんなに怒られないよ」


「いや……そりゃ名前は怒られないだろうけどさ……(お腹痛い)」


パリン、パリンと割られ、粉々にされているであろう逃げ道に己のスタンドもろとも青ざめれば、名前がふと視線を前からこちらへ移した。



「イルーゾォ」


「(ああ……こうなったらいっそ、死ぬ覚悟で≪名前をください≫って言ってみるか? そしたら)……ん?」





「……また、シようね」


「ッ!」



ふと耳を掠めた透明感のある声。

≪本気≫を兼ねそろえた瞳。

上品かつ扇情的な微笑。


その、なんと淫靡で妖艶なことか。



「……っ(コクッ)」


命の危険が迫っているにもかかわらず、イルーゾォは糸で操られているかのように小さく頷いてしまうのだった。











てふふに蜘蛛の網
――網(い)に囚われたのは、どちら?







お待たせいたしました!
イルーゾォとソルジェラ弟分でギャグ裏でした。
駆様、リクエストありがとうございました!


感想&手直しのご希望がございましたら、ぜひ教えてくださいませ!
Grazie mille!!
polka



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