※ギャグ裏
「っ、名前!」
「ん? どしたの、イルーゾォ」
つい最近アジトに入ったばかりの美少年。
きょとんと首をかしげる彼に、イルーゾォは次に放つはずの言葉も忘れて息をのむ。
「この度新しくチームに入った、名前です。よろしくお願いします」
「――」
≪ありえない≫。
そう思ったが、それは明らかに一目ぼれだった。
部屋(鏡)の中でも自然と名前のことを思い浮かべ、アジト内で鉢合わせると己の幸運を喜ぶ。
小柄な体型にしては、約二倍もある大男でさえ蹴散らし拳銃をぶちかます姿に、最初は気に入らなさそうにしていたギアッチョも、今では彼とゲームの話で三時間は弾むほどだ。
自分とは正反対に近い――社交的な名前と話せば話すほどますますイルーゾォは心を奪われていった。
だからこそ、彼にしては珍しく行動を取ったのである。
――≪告白≫という名の行動を。
「……」
「イルーゾォ?」
「! あ、ごめん! えっと……あの、さ」
「うん」
嫌悪を示されるだろうか。
だが、この想いをずっと胸に秘めておけるほど、自分は我慢強くもない。
葛藤と恋情。
さまざまな感情に苛まれながら、引き下がりたい気持ちをなんとか奮い立たせる。
言え。
言うんだ、オレ。
男の中の男になれ――
「名前ッ、オレと――」
「あ、名前じゃん! やっほー!」
しかし、イルーゾォがようやく口にした言葉は、突如現れたジェラートとソルベによって遮られてしまった。
一方、呆然とする彼の傍で、いつもお世話になっている人たちの登場に口元を綻ばせる名前。
「ジェラート兄貴、ソルベ兄貴……こんにちは。二人でおでかけだったんですか?」
「買い出しだったんだ」
「そうそう! もちろん、名前の分のお土産もあるから、オレたちの部屋においでよ!」
「え? でも――」
ちらり。
何かを言いかけたであろうイルーゾォを気にして、彼が視線を彷徨わせる。
だが、そんな暇も与えないと言うかのように、ソルジェラは弟分の脇を左右から引き揚げた。
「うわ!」
「名前、行くぞ」
「行こう行こう! イルーゾォは別の用事があるみたいだし(ニヤリ)」
まるで宇宙人の捕獲。
あれよあれよと言っているうちに連れて行かれる名前の背を、イルーゾォはただただ見つめることしかできない。
「……(あいつらァァアア!)」
自分の恋路を彼らが邪魔している。
それは確かだった。
どこか食べに行こう――と誘おうとすれば、「ご飯できたよ」と声が入り、
あまり慣れていないが、彼の好きなゲームをしようとすれば、「オレたちも」と結局はみんなで遊び、
部屋においでと手を引けば、容赦なく銃弾やナイフが飛び、スタンド攻撃を繰り出される――
と、ことごとく二人きりになろうとすれば、彼の兄貴たちが姿を現していた。
そして、最後には弟分の見えないところで、口元をこれでもかと言うほど歪めるのだ。
≪名前は渡さない≫と、自分に向かって言うかのように――
コンコンコン
「……ん?」
夜、ふと自分の世界が揺れる。
その方向(おそらく洗面所の鏡があるであろう方)を振り返って――イルーゾォはひどく目を丸くした。
「名前……!?」
「(にこにこ)」
≪入っていい?≫。
微笑みを浮かべた名前が口をゆっくり動かす。
読唇術を取得しているわけではないが、心で理解した彼は慌てた様子で想い人を≪許可≫した。
「ありがとう、イルーゾォ」
「い、いや……それで、どうかした?」
まさか、自分の部屋に名前がいるなんて。
そんな思春期のような感覚を覚えながら、イルーゾォがおずおずと口を開けば、彼は申し訳なさそうに眉を下げるではないか。
どうしたのだろうか。
「特に用事というわけじゃないんだけど……昼に、イルーゾォが何か言いかけてたから気になって」
ちゃんと聞けなくてごめんね?
謝罪を紡ぎ出す名前に男は勢いよく首を横へ振る。
「あ、謝られるほどの用事じゃないから気にするなって! ……えーっと」
「ん?」
この雰囲気。明らかに話を待たれている状況だ。
しかし困った。
――か、覚悟も何もしてねェェエ!
喉を震わせ、音にしようとしていたのは、≪告白≫だ。
タイミングや雰囲気、そして己の意思といったすべてが揃いに揃って行われるもののはず。
だが同時に、今ほど絶好のチャンスと呼べるときはないだろう。
悶々。
イルーゾォが頭の中でいくつもの自分と会話を続けている一方で、名前はきょろきょろと彼の世界を見回していた。
「それにしても、すごいね。この世界って」
「あ、うん……まあ」
「……あ! やっぱりベッドとか机は動かせないんだ……!」
「……」
ベッドを持ち上げようとして、無理だと彼が苦笑する。
その息苦しさが入り交じった声。
自分がいつも寝ているところの傍に立つ名前。
「? イルーゾォ?」
脳内会議は打ち切られた。
なぜなら、一人のイルーゾォが≪ある意見≫と共に「はぐらかせ」やら「言ってしまえ」やらと喚く他を蹴散らしてしまったからだ。
ある意見。それは――
「わ……ッ!?」
≪夜に訪れられたことを言い訳にして、彼を襲ってしまうこと≫。
ドサリ、という音が世界に響くと同時に名前の身体は白いシーツの海へと沈む。
何が起こったのかわからない――そんな表情をする彼の肩をしっかり掴み、見下ろしながら、イルーゾォは口を開いた。
「名前……ごめん。好き」
「……は?」
「名前のこと、恋愛対象として見てる。付き合ってほしいとも思ってる」
ぽかん。
しばらく思考を停止させていた名前は、己の視界に広がる天井と男の真剣なまなざしに、小さな笑みを浮かべる。
そして――
「うん」
静かに頷いた。
「って、いきなり驚くよな……ごめん。こんなことしたオレを今すぐ殴……って、ええ!? なんて!?」
「? ≪うん≫って言ったんだけど」
じっとこちらを貫く瞳に、イルーゾォは頭を混乱させることしかできない。
――なんで!? 普通に受け入れられて……いや、すげえ嬉しい! 確かに嬉しいんだけど、脳が追いつかないというか!
――これ、もしかして夢じゃ……痛く……ない、だと……!?
胸を占めるぐるぐる。
すると、彼の心内を悟った名前はふわりと微笑み、己の想いを紡ぎ出した。
「だって、イルーゾォのこと好きだから」
「!」
嬉しい。
信じられない。
やっぱり嬉しい。
よくテレビで目にするドッキリではないことを願いながら、ベッドに仰向けの想い人を見つめる。
しかし、イルーゾォは気付かなかった。
名前がそのとき≪にやり≫と――まさに兄貴たちと同じニヒルな笑いを見せたことを。
「でも――」
「え?」
ドサッ
「!?」
「イルーゾォ。好きな子には、優しくしなきゃ」
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「っ、名前!」
「ん? どしたの、イルーゾォ」
つい最近アジトに入ったばかりの美少年。
きょとんと首をかしげる彼に、イルーゾォは次に放つはずの言葉も忘れて息をのむ。
「この度新しくチームに入った、名前です。よろしくお願いします」
「――」
≪ありえない≫。
そう思ったが、それは明らかに一目ぼれだった。
部屋(鏡)の中でも自然と名前のことを思い浮かべ、アジト内で鉢合わせると己の幸運を喜ぶ。
小柄な体型にしては、約二倍もある大男でさえ蹴散らし拳銃をぶちかます姿に、最初は気に入らなさそうにしていたギアッチョも、今では彼とゲームの話で三時間は弾むほどだ。
自分とは正反対に近い――社交的な名前と話せば話すほどますますイルーゾォは心を奪われていった。
だからこそ、彼にしては珍しく行動を取ったのである。
――≪告白≫という名の行動を。
「……」
「イルーゾォ?」
「! あ、ごめん! えっと……あの、さ」
「うん」
嫌悪を示されるだろうか。
だが、この想いをずっと胸に秘めておけるほど、自分は我慢強くもない。
葛藤と恋情。
さまざまな感情に苛まれながら、引き下がりたい気持ちをなんとか奮い立たせる。
言え。
言うんだ、オレ。
男の中の男になれ――
「名前ッ、オレと――」
「あ、名前じゃん! やっほー!」
しかし、イルーゾォがようやく口にした言葉は、突如現れたジェラートとソルベによって遮られてしまった。
一方、呆然とする彼の傍で、いつもお世話になっている人たちの登場に口元を綻ばせる名前。
「ジェラート兄貴、ソルベ兄貴……こんにちは。二人でおでかけだったんですか?」
「買い出しだったんだ」
「そうそう! もちろん、名前の分のお土産もあるから、オレたちの部屋においでよ!」
「え? でも――」
ちらり。
何かを言いかけたであろうイルーゾォを気にして、彼が視線を彷徨わせる。
だが、そんな暇も与えないと言うかのように、ソルジェラは弟分の脇を左右から引き揚げた。
「うわ!」
「名前、行くぞ」
「行こう行こう! イルーゾォは別の用事があるみたいだし(ニヤリ)」
まるで宇宙人の捕獲。
あれよあれよと言っているうちに連れて行かれる名前の背を、イルーゾォはただただ見つめることしかできない。
「……(あいつらァァアア!)」
自分の恋路を彼らが邪魔している。
それは確かだった。
どこか食べに行こう――と誘おうとすれば、「ご飯できたよ」と声が入り、
あまり慣れていないが、彼の好きなゲームをしようとすれば、「オレたちも」と結局はみんなで遊び、
部屋においでと手を引けば、容赦なく銃弾やナイフが飛び、スタンド攻撃を繰り出される――
と、ことごとく二人きりになろうとすれば、彼の兄貴たちが姿を現していた。
そして、最後には弟分の見えないところで、口元をこれでもかと言うほど歪めるのだ。
≪名前は渡さない≫と、自分に向かって言うかのように――
コンコンコン
「……ん?」
夜、ふと自分の世界が揺れる。
その方向(おそらく洗面所の鏡があるであろう方)を振り返って――イルーゾォはひどく目を丸くした。
「名前……!?」
「(にこにこ)」
≪入っていい?≫。
微笑みを浮かべた名前が口をゆっくり動かす。
読唇術を取得しているわけではないが、心で理解した彼は慌てた様子で想い人を≪許可≫した。
「ありがとう、イルーゾォ」
「い、いや……それで、どうかした?」
まさか、自分の部屋に名前がいるなんて。
そんな思春期のような感覚を覚えながら、イルーゾォがおずおずと口を開けば、彼は申し訳なさそうに眉を下げるではないか。
どうしたのだろうか。
「特に用事というわけじゃないんだけど……昼に、イルーゾォが何か言いかけてたから気になって」
ちゃんと聞けなくてごめんね?
謝罪を紡ぎ出す名前に男は勢いよく首を横へ振る。
「あ、謝られるほどの用事じゃないから気にするなって! ……えーっと」
「ん?」
この雰囲気。明らかに話を待たれている状況だ。
しかし困った。
――か、覚悟も何もしてねェェエ!
喉を震わせ、音にしようとしていたのは、≪告白≫だ。
タイミングや雰囲気、そして己の意思といったすべてが揃いに揃って行われるもののはず。
だが同時に、今ほど絶好のチャンスと呼べるときはないだろう。
悶々。
イルーゾォが頭の中でいくつもの自分と会話を続けている一方で、名前はきょろきょろと彼の世界を見回していた。
「それにしても、すごいね。この世界って」
「あ、うん……まあ」
「……あ! やっぱりベッドとか机は動かせないんだ……!」
「……」
ベッドを持ち上げようとして、無理だと彼が苦笑する。
その息苦しさが入り交じった声。
自分がいつも寝ているところの傍に立つ名前。
「? イルーゾォ?」
脳内会議は打ち切られた。
なぜなら、一人のイルーゾォが≪ある意見≫と共に「はぐらかせ」やら「言ってしまえ」やらと喚く他を蹴散らしてしまったからだ。
ある意見。それは――
「わ……ッ!?」
≪夜に訪れられたことを言い訳にして、彼を襲ってしまうこと≫。
ドサリ、という音が世界に響くと同時に名前の身体は白いシーツの海へと沈む。
何が起こったのかわからない――そんな表情をする彼の肩をしっかり掴み、見下ろしながら、イルーゾォは口を開いた。
「名前……ごめん。好き」
「……は?」
「名前のこと、恋愛対象として見てる。付き合ってほしいとも思ってる」
ぽかん。
しばらく思考を停止させていた名前は、己の視界に広がる天井と男の真剣なまなざしに、小さな笑みを浮かべる。
そして――
「うん」
静かに頷いた。
「って、いきなり驚くよな……ごめん。こんなことしたオレを今すぐ殴……って、ええ!? なんて!?」
「? ≪うん≫って言ったんだけど」
じっとこちらを貫く瞳に、イルーゾォは頭を混乱させることしかできない。
――なんで!? 普通に受け入れられて……いや、すげえ嬉しい! 確かに嬉しいんだけど、脳が追いつかないというか!
――これ、もしかして夢じゃ……痛く……ない、だと……!?
胸を占めるぐるぐる。
すると、彼の心内を悟った名前はふわりと微笑み、己の想いを紡ぎ出した。
「だって、イルーゾォのこと好きだから」
「!」
嬉しい。
信じられない。
やっぱり嬉しい。
よくテレビで目にするドッキリではないことを願いながら、ベッドに仰向けの想い人を見つめる。
しかし、イルーゾォは気付かなかった。
名前がそのとき≪にやり≫と――まさに兄貴たちと同じニヒルな笑いを見せたことを。
「でも――」
「え?」
ドサッ
「!?」
「イルーゾォ。好きな子には、優しくしなきゃ」
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