※リーダー→夢主→兄貴
※切微甘
オレとプロシュート、そしてこのチームの紅一点である名前はほぼ同時期に組織へ入った――いわゆる同期だ。
互いの過去を詮索することはしない。
それが、オレたちの間の暗黙のルールだった。
だが、どこかで道を間違え、このような仕事を強いられたにもかかわらず、夜空の色をそのまま映したかのような瞳は美しく、どこまでもまっすぐな彼女。
だからこそ、出逢った当初からいがみ合い、ある意味≪自由奔放≫と言えるプロシュートを、名前が気にかけ始めるのは当然だったのかもしれない。
そして、そんな彼女の背を自然とオレが見つめるようになっていたことも。
いつの間にか無に近かった心に生まれていた≪恋情≫も。
苛まれる自分自身を、≪諦めること≫で抑え付けようとしたことも。
たった一人を見つめ続けることで悟ってしまった二つの≪失恋≫も。
今思えば、必然だったのだろう。
「ほんと、三人で任務なんて久しぶりすぎて笑っちゃった! 二人とも、お疲れ」
その日は、互いに怪我も一切ない――言い方は悪いが、簡単な仕事の日だった。
アジトの前でくるりと回り、こちらを振り返った名前にリゾットは本当に微かにだが口元を緩める。
「ああ、お疲れ」
「お疲れ……つっても、オレはあと一仕事あんだけどな」
一方、彼らを一瞥してから再び携帯に目を向け、ため息をつくプロシュート。
そんな男の脇腹を、彼女が小突きながらおもむろに口を開いた。
「何? また例の彼女さん?」
「まあな……ったく、こっちは洗っても取れねえ血の匂いとか気遣って、仕事の日は会わねえようにしてんのによお」
めんどくせえ。
ぽつりと聞こえたそれに、リゾットは一人この後に起こることを予想していた。
「……じゃあさ、プロシュート」
「あ?」
「私……なりたいな、あんたの恋人」
その場を支配する静寂。
何度、この空気をいち早く感じ取ったことだろう。
左胸の奥が痛むのを自覚しながら、男が自嘲するように瞳を閉じた途端、
「いッ」
ゴツン、という骨と骨が皮膚越しにぶつかる音と非難交じりの声が聞こえた。
そして次に響くのは、もはや定番と化した≪返事≫。
「ハン、お断りだ。同業者で、一番身近なテメーに手を出したら、オレももう終わりだろうよ」
「……」
「? おい、黙り込むなんてお前らしくねえ。どうした、名前」
現れた違和感にようやくプロシュートが携帯から顔を上げ、声を上げる。
その表情に浮かぶのは多くの女性に告白されてきたという≪慣れ≫でもなく、同僚であり相棒である名前に対する≪嫌悪≫でも当然ない。
おそらく、彼は冗談としか受け取っていないのだろう。
だが、リゾットは知っていた。
――「そう、だよね」。
小さく呟いた名前が一瞬、本当に一瞬だけ視線を落としたことを。
「あれ? 三人ともおかえり。寒いし、早く入りなよ」
いまだ納得がいかなさそうなプロシュート。
しかし、偶然ドアを開けたイルーゾォによって彼らの間にあった妙な雰囲気は変わり、ぞろぞろとアジトへ足を踏み入れていくのだった。
今日の仕事の報告書も書き終え、一息つこうとした頃。
ふとリゾットは名前のことが気になった。
――部屋にいるだろうか。
寒がりな彼女のためにあると言っていい、一番日の当たる一室。
すでに寝ているかもしれないと考え、できるだけ静かに床を踏み鳴らす。
コンコン、コン
「ん? リーダー? 何々、どったの?」
「……メローネか。名前は寝ているのだろうか? 反応がないんだが」
廊下から歩み寄ってきたメローネに問うと、彼はにんまりと口角を上げる。
その笑みが少々気に食わないが、今ツッコミを入れる気力もない。
「はっはーん。名前ね……名前なら、ベランダにいると思うぜ?」
「ベランダ?」
なぜ。
眉をひそめたリゾットに対し、うんうんと首を縦に振る。
メローネの目は、まさに何か面白そうなものを見つけたときの目だ。
「ま、気になるなら行ってみなよ」
がんばれ、と何の励ましかわからないが言葉を口にした彼が、自分の肩を叩きがてら去っていく。
「……」
そして、しばらくは迷いを見せていたリゾットも、決心したのかベランダへと歩き出した。
彼自身、特に一般に言う≪進展≫を望んでいるわけではない。
もともと一方通行とわかりきっていた恋だ。
感情を認識したときには、名前は一人の男しか見れなくなっていたのだから。
むしろ、そんな健気とも呼べる姿に惚れたのかもしれない。
ただ、彼女のあの複雑そうな――何かを割り切ったかのような表情だけはなくなればいい。
そうとだけ思い、願っていた。
「っ、ぐす……」
「!」
夜風に包まれながら、ベランダで嗚咽を漏らす名前を見つけるまでは。
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※切微甘
オレとプロシュート、そしてこのチームの紅一点である名前はほぼ同時期に組織へ入った――いわゆる同期だ。
互いの過去を詮索することはしない。
それが、オレたちの間の暗黙のルールだった。
だが、どこかで道を間違え、このような仕事を強いられたにもかかわらず、夜空の色をそのまま映したかのような瞳は美しく、どこまでもまっすぐな彼女。
だからこそ、出逢った当初からいがみ合い、ある意味≪自由奔放≫と言えるプロシュートを、名前が気にかけ始めるのは当然だったのかもしれない。
そして、そんな彼女の背を自然とオレが見つめるようになっていたことも。
いつの間にか無に近かった心に生まれていた≪恋情≫も。
苛まれる自分自身を、≪諦めること≫で抑え付けようとしたことも。
たった一人を見つめ続けることで悟ってしまった二つの≪失恋≫も。
今思えば、必然だったのだろう。
「ほんと、三人で任務なんて久しぶりすぎて笑っちゃった! 二人とも、お疲れ」
その日は、互いに怪我も一切ない――言い方は悪いが、簡単な仕事の日だった。
アジトの前でくるりと回り、こちらを振り返った名前にリゾットは本当に微かにだが口元を緩める。
「ああ、お疲れ」
「お疲れ……つっても、オレはあと一仕事あんだけどな」
一方、彼らを一瞥してから再び携帯に目を向け、ため息をつくプロシュート。
そんな男の脇腹を、彼女が小突きながらおもむろに口を開いた。
「何? また例の彼女さん?」
「まあな……ったく、こっちは洗っても取れねえ血の匂いとか気遣って、仕事の日は会わねえようにしてんのによお」
めんどくせえ。
ぽつりと聞こえたそれに、リゾットは一人この後に起こることを予想していた。
「……じゃあさ、プロシュート」
「あ?」
「私……なりたいな、あんたの恋人」
その場を支配する静寂。
何度、この空気をいち早く感じ取ったことだろう。
左胸の奥が痛むのを自覚しながら、男が自嘲するように瞳を閉じた途端、
「いッ」
ゴツン、という骨と骨が皮膚越しにぶつかる音と非難交じりの声が聞こえた。
そして次に響くのは、もはや定番と化した≪返事≫。
「ハン、お断りだ。同業者で、一番身近なテメーに手を出したら、オレももう終わりだろうよ」
「……」
「? おい、黙り込むなんてお前らしくねえ。どうした、名前」
現れた違和感にようやくプロシュートが携帯から顔を上げ、声を上げる。
その表情に浮かぶのは多くの女性に告白されてきたという≪慣れ≫でもなく、同僚であり相棒である名前に対する≪嫌悪≫でも当然ない。
おそらく、彼は冗談としか受け取っていないのだろう。
だが、リゾットは知っていた。
――「そう、だよね」。
小さく呟いた名前が一瞬、本当に一瞬だけ視線を落としたことを。
「あれ? 三人ともおかえり。寒いし、早く入りなよ」
いまだ納得がいかなさそうなプロシュート。
しかし、偶然ドアを開けたイルーゾォによって彼らの間にあった妙な雰囲気は変わり、ぞろぞろとアジトへ足を踏み入れていくのだった。
今日の仕事の報告書も書き終え、一息つこうとした頃。
ふとリゾットは名前のことが気になった。
――部屋にいるだろうか。
寒がりな彼女のためにあると言っていい、一番日の当たる一室。
すでに寝ているかもしれないと考え、できるだけ静かに床を踏み鳴らす。
コンコン、コン
「ん? リーダー? 何々、どったの?」
「……メローネか。名前は寝ているのだろうか? 反応がないんだが」
廊下から歩み寄ってきたメローネに問うと、彼はにんまりと口角を上げる。
その笑みが少々気に食わないが、今ツッコミを入れる気力もない。
「はっはーん。名前ね……名前なら、ベランダにいると思うぜ?」
「ベランダ?」
なぜ。
眉をひそめたリゾットに対し、うんうんと首を縦に振る。
メローネの目は、まさに何か面白そうなものを見つけたときの目だ。
「ま、気になるなら行ってみなよ」
がんばれ、と何の励ましかわからないが言葉を口にした彼が、自分の肩を叩きがてら去っていく。
「……」
そして、しばらくは迷いを見せていたリゾットも、決心したのかベランダへと歩き出した。
彼自身、特に一般に言う≪進展≫を望んでいるわけではない。
もともと一方通行とわかりきっていた恋だ。
感情を認識したときには、名前は一人の男しか見れなくなっていたのだから。
むしろ、そんな健気とも呼べる姿に惚れたのかもしれない。
ただ、彼女のあの複雑そうな――何かを割り切ったかのような表情だけはなくなればいい。
そうとだけ思い、願っていた。
「っ、ぐす……」
「!」
夜風に包まれながら、ベランダで嗚咽を漏らす名前を見つけるまでは。
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