02




「ガッ!?」


次の瞬間、雄々しい悲鳴と共に解放される身体。


「なんだテメー! この……ッグハ!?」


「え……?」



バタリバタリと耳に届く音。

恐る恐る瞼を開けば――



「テメーら……何、人の恋人に手ェだそうとしてんだァ?」


「ぷ、プロシュート兄貴!?」


目の前には、いつの間にか颯爽と現れていたプロシュートさんの細いけど頼りがいのある背中が。

私の前に立つ彼の奥には、うめき声を上げつつ倒れたままの男が七人。



「……あ!」


そうだ、思い出した。


プロシュートさんの一番特徴的な機能。

≪防犯機能≫だ。



「名前」


「! ありがとう……兄貴のおかげで助か――痛ッ!」


脳みそを揺さぶる、とてつもなく強い衝撃。


す、すごく痛い。

頭を右手で擦りつつ見上げれば、プロシュートさんは眉を吊り上げていた。



「この、マンモーナが! 何があったかは知らねえし、もう過去のことだ。問い質したりはしねえが、危険な目に遭ったら、さっさとオレを呼べッ! わかったか!!」


「は、はい!」


「……おし、帰んぞ」


「うんっ!」



いつものように肩に手を回されながら、自宅へ向かって歩き出す。

でも、思い出してほしい。


プロシュートさんが、不良さんたちを倒したときに言った言葉を。



「あれ……え? ねえ、プロシュート兄貴……」


「ん?」


「さっき言ってた≪恋人≫って、誰のこと?」








「お前以外、誰が居んだよ」


「…………はい?」



我ながら素っ頓狂な声。

けれども、この隣でにんまりした彼から話を聞くまでは、表情を変えられそうにない。



「ハン、なんだ? まさか、オレがお前のただのケータイでいると思ったか?」


「あ、ちょっ(近い……!)」


「契約したそのときから、名前はオレのモンだ。文句はねえだろ?」


「!」



外にもかかわらず強く抱き寄せられ、右耳から移動する吐息。

近付くプロシュートさんの顔。

あと1センチで唇が触れてしまう――のに、私は動けないでいた。


「まあ、嫌がるなら今のうちだぜ? キスした瞬間、もう止められねえ」


「ッ」



どうしてだろう。

嫌なわけない、と思ってしまうなんて――どこまでも澄んだ蒼に誘われるまま、瞳を閉じた刹那。



「待ってくだせェエエ!」


「(……ん?)」


「あ?」



どんどん近付いてくる足音と野太い声。

薄らと目を開ければ、先程の不良さんたちが輝かしい笑顔でこちらに来ているではないか。

しかも。



「オレたちを、舎弟にしてくだアアアい!」


「え!?」


「チッ……名前、走んぞ!」



当然であるかのように、握られる右手。

けれども、ときめく余裕は今はない。



「あ、待ってください! スマホ兄貴ィィィ!」


「(スマホ兄貴)……っ」


「おい名前! 笑ってる場合じゃあねえだろうが! あと、スマホじゃなくスマフォだっつってんだろうがァァア!」


街中に注目されてしまった、私たちの逃避行。

今日はとんだ災難だったけど……まあ……こんな日もありだと思う、うん。


だから、これからもよろしくお願いしますね?

スマフォ兄貴!










SMARTなPHONEはいかが?
ただし、≪キュン死にしない≫という保証は致しかねます。




〜おまけ〜



ピンポーン



「はーい」


配達員からサインと引き換えに受け取ったのは、小さな段ボール箱。


「んー? 何も頼んだ覚えないんだけどなあ…………何これ!?」



視界を覆うのは黒、赤、紫――と、とにかく大人っぽいランジェリーたち。


え?

何かの手違い?

でも、サイズは恐ろしいほど完璧だし……。

誰が何を思って?


煌びやかなそれらに、開いた口が塞がらないでいると――


「お、やっと届いたか」


突然、後ろから現れたプロシュートさんが、私の肩に顔を乗せながら呟く。

お腹をしっかりとホールドされた挙句、吐息が首を掠めてくすぐったいけど、それどころではない。


「やっと? ……ま、まさか」


「おう。名前があまりにもそういうサイトを見ようとしねえから、通販で買っといてやったんだ。ほら、こうやってページを広げてよ……便利だろ?」


カラフルな下着がいくつも映るページ。

そして、やけに面積の小さなモノの下にある購入ボタンを≪タッチ≫しようとするプロシュートさん。

もちろん、私はその手を慌てて掴んだ。



「あの、どういうこと? 一体何のために!?」


「おいおい、勝負下着も身に着けず、オレとの初夜に臨む気か? 言っとくが、上下で色や柄が違うとか……オレはごめんだからな」


「しょ……ッ(驚愕を超えた呆然)」


「ちなみに。タンスの下から二段目、右側の小さな引き出しにある、ガキっぽい奴は全部捨てたぜ?」



彼にとっては何の気なしに放たれた言葉。

それは、耳から脳へと徐々に伝わっていき――





「んなあああッ!?」


男の人に下着を見られた羞恥?

≪お気に入り≫さえも勝手に捨てられた憤怒?


感情に整理がつかぬまま、私はとりあえず絶叫した。

今晩は絶対に、プロシュートさんを寝室には入れない。

充電器をこっちに持ってきて、繋いでやる!


そう決心していた――のに!



「おっと、どうせお前のことだ。寝るときはオレをリビングにでも置いてく心算なんだろ? ……そうはさせるかよ」


「え? ッ、ちょ、なんで私は腰を抱き寄せられて……しかも下着まで持って……!」


「ハン! 初心な名前は知らねえだろうが、男が狼になんのは何も夜だけじゃあないんだぜ? ≪恋人を前にしたらいつでも≫、だ。……まあ要するに、さっさと諦めてオレに食われろ」


「!?」



その後、この伊達男の≪スマフォ≫とどうなったか。

……皆さんのご想像にお任せいたします。











お待たせいたしました!
ギアッチョに続き、兄貴で携帯擬人化でした。
うなぎ様、リクエストありがとうございました!
リーダーか兄貴か迷いに迷った末、兄貴にさせてもらいましたが、いかがでしたでしょうか?


感想&手直しのご希望がございましたら、ぜひお願いします!
Grazie mille!!
polka



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