01
※携帯擬人化パロ
※ギャグ甘





数年前から流行り始めた≪スマホ≫。

ちょうど前のケータイをトイレに水没させてしまったこともあり、私は少し(いやかなり)キレ性のガラケーを持つお姉ちゃんから――



「はい、名前ちゃん! 大事に使ってね?」


「チッ! イケ好かねえ奴だが悪い奴じゃねえ! 今度は水に流すんじゃあねえぞオオオッ!?」


「あ……は、はいぃぃ(顔コワッ)!」



つい最近に販売を開始したという、素敵な≪スマホ≫をプレゼントしてもらいました。



黒を基調とした正面(デスクトップというらしい)。

特徴的な柄の入ったカバー。

勾玉(?)みたいな不思議なストラップ。

なんだか妙に高そうな金と蒼色のスワロフスキーも、アクセントとしてケースにあしらわれている。



シックでゴージャス。

昔からそういう系が大好きな私は当然、舞い上がった状態で厳重に包まれた箱を開けたのだ――けれど。




「おい名前。まだここにホコリ残ってんじゃあねえか……やり直しだな」


「……はーい、兄貴」



キラキラとした、カッコいい見た目にはかなりそぐわない≪お姑さんっぷり≫に、正直困り果てています。









私のケータイ、お名前はプロシュートさん。

「美味しそう」と呟いたら、三十分は頭がぐわんぐわんから解放されないほどの重い拳骨を食らったので、もうあれ以来生ハムのことは思い浮かべていません。


そして、さまざまな機能が充実したタイプのようで、使い勝手はとてもいい。

ただ不思議なのは、どこぞの≪らく○くフォン≫みたいに文字を大きくできること。

≪グレフル≫って設定すれば変わるシステムで、かなり見やすくて便利ではあるけど、これってご年配の方専用だよね……プロシュートさん、マルチすぎるよ。




「(……あれ?)」


本棚の傍でハタキを振り回しながら、ふと考え込む。

あともう一つ、大事な機能があったような――



「次はあそこだぞ」


「はいはい、了解ー……って! プロシュート兄貴は何してるの!?」


「あ? エスプレッソを楽しんでるに決まってんだろうが」


「(渋くていい香りがすると思ったら……!)」



心の中でだけ文句を唱えつつ、タンスへと移動する。

壁との間を覗けば、手が届かなさそうな範囲に凄まじいホコリを見とめ、思わずげっそり。


「……はあ、スマホに扱き使われている私って……」


「ハン、テメーの部屋をテメーで片付けねえで誰が片付けんだ。ごちゃごちゃ言ってねえで早くしろ。それと、スマホじゃなくて≪スマフォ≫だッ! ≪スマ≫ート≪フォ≫ンなんだから、そう考えんのが当然だろうが」


「(熱く語られても……)うん……わかった、≪スマフォ≫ね」



満足げに笑むプロシュートさんを一瞥してから、憎き相手とハタキで対峙した。

あと、予想はついていると思うけど、彼の特徴といえばなんと言っても≪超の付く綺麗好き≫。



「ん? 何だろう、これ……ハンカチ?」


箱に≪シルクのハンカチ≫が付録になぜかあるなあ――とわけもわからず置きっ放しにしていたら、



「名前、今日も頼むぜ?」


「……ふぁーい(眠いなあ)」


「ふっ……ずいぶん眠そうだなァ、おい」



グイッ


「わ……っ///は、離ッ」


「バーカ。この距離じゃねえと、ちゃんとオレを拭けねえだろうが」



と、毎朝私に(セクハラをしながら)拭かせないと気がすまないらしい。


「んっ……終わった! お、終わったから早く離して!」


「ククッ、わーったよ。名前、Grazie(なでなで)」


「/////」



(たぶん)イタリア語で紡がれるお礼。

でも、頭をなでてくるプロシュートさんの手つきがとても優しくて、妙にドキドキしちゃうから本音を言うとやめてほしいです、はい。



「はあ……」


「……その上も忘れんなよ」


「わかってるよー」


本日何度目かのため息。

にしても、彼を迎えてから明らかに仕事が増えた気がする。

背もたれのない椅子を台にしながら、タンスの上へと手を伸ばす。



――そのときだった。


「へッ!?」


ガクン、と傾くのは――私の身体。




「! ったく……!」



――落ちる。

衝撃と次に走る激痛を予想して、ぎゅうとこれでもかと言うほど目を瞑った、が。



「……え、?」


いくら待てども、痛くはならない。

むしろ、私を包むのは温かくて優しい、けれどもしっかりとした腕のような――



「はあ、ずいぶんと世話のかかるシニョリーナだぜ」


「! プロシュート兄……ッ!?」


前言撤回。

腕のような、ではなく腕でした。



「名前、怪我はねえか?」



軽口を叩きつつも心配を滲ませた蒼い瞳。

必死だったのだと嫌でもわかってしまう、少し崩れた美しい金の前髪。

鼓膜を震わせる、穏やかな声。

まるで愛しい相手への囁きと勘違いしてしまいそうな、自分の名前。



「ッ」


収まることのない、いつもより速い鼓動。

恥ずかしさのあまり、私は――



「〜〜っあ、ありがとう! わ……私! コンビニ行ってくる!」


赤い顔を隠すように、彼の腕から抜け出し、財布だけを手に取っていた。

一方、いぶかしげに眉をひそめるプロシュートさん。



「は? おい、オレを置いてってどうす――」


「近くだから、大丈夫! 兄貴はエスプレッソ楽しんでて! じゃ!」


バタン、と大きな音を立ててしまったが気にしてはいられない。

私はただ、コンビニまで走り続けた。









何を買おうか、目星をつけていたわけではない。

でも、せめてものお詫びにプロシュートさんの好きなティラミスでも買って帰ろうかな。


そう思い至ったところまではよかった。



ドンッ


「痛ッ」


「……オイ姉ちゃん、どこ見て歩いてんだァ?」


「え」


マンガのようなシチュエーションに、自分が引っかかるまでは。



「あ、えと……ご、ごめんなさい」


そっちからぶつかってきたんじゃないですか。



と言えたら苦労はしないが、私は慢性のチキンだ。


とりあえず反射的に頭を下げると、さらに睨みつけてくる不良さんたち。

七人、合わせて十四の視線がこちらを貫き、それだけで震えあがってしまいそうだった。


「ああ? ごめんで済んだら、警察はいらんのじゃ」


「うう……(なんて定番なお言葉……)」


「どうします? 痛めつけてやりやしょうか?」


「……いや、ヤっちまうのもいいかもなあ」


「!」



や、≪やる≫?

やるって……どっちの!?


不良さん越しに見えるコンビニのマークに、思わず財布を握る手に力がこもる。



「ああ、そりゃいい。オラ……こっち来い!」


「ひっ」



強引に掴まれる手首。

向けられるいくつもの下卑た笑み。

こちらを一瞥しながらも、素通りしていく人々。



「っ……(プロシュート……!)」



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