02




下がりに下がった眉尻。

扉をただただまっすぐ貫く情愛を潜めたまなざし。

いつも無表情で仕事を遂行しているとは思えない、哀愁漂うオーラ。



まるで、飼い主の帰りを健気に待つようなその姿に、猫が毛玉で遊んでいる場面を映すテレビすら忘れて、凝視してしまうギアッチョとホルマジオ。




「お待たせ!」


「!」


「これがリゾットの分で……はい! ホルマジオとギアッチョもどうぞ!」



テーブルに並べられる同じ形のグラスが四つ。

名前はリゾットと付き合い始めた後も、彼だけを特別扱いするということはなかなかなかった。



「おォ! すっげー美味そうだな! グラッツェ、名前!」


「チッ……テメーは、≪菓子作んのだけ≫はウメーからな……死にはしねえだろ」


「ちょっと、ギアッチョー? 一言余計だよ?」


「……」



だが、その対応に独占欲の塊である男が不満を抱かないはずもなく。




「きゃっ!?」


唇を尖らせ、腰に両手を置いていた彼女を、リゾットが唐突に後ろから引き寄せ、再び膝へと乗せた。

ただ、無言で行われたそれに当の本人は目を丸くするばかり。


「どうしたの? これじゃあリゾットがプリン食べられないよ?」


「そうだな……名前が食べさせてくれると嬉しい」



「「(うわ……)」」



なぜ自分の膝に乗っける必要がある、隣でいいだろ――そんな二人のツッコミを知ることなく、名前ははにかみながらもスプーンでプリンを掬い、後ろの彼の口元へ寄せる。



「ふふ、甘えん坊さんだなあ、リゾットは……はい、あーん」


「(パクッ)……美味い」


「よかった!」



――あれ、プリンってこんなに甘ったるかったか?


リビングを支配し始める桃色の雰囲気。

歯が軋むのは、このとても美味な洋菓子のせいか。

それとも、奥歯を自然と噛んでいるゆえか。




「……リゾット」


「ん? どうした」


「あの、ね? 私……リゾットに抱きしめられるの好きなんだ……心臓の鼓動が感じられて、すごく安心できるの」



甘い甘い砂糖菓子のような声。

丁寧に想いを紡ぎ出しながら、彼女はぎゅっと恋人の広い背中に手を回す。


このアジトにいる全員、明日がどうなるかもわからないギャングだ。

だからこそ、時折こうして不安になるのも、当然と言えば当然なのかもしれない。



「名前……」


「それでね? これからも一日一日を大事にしたいから……もうすぐ付き合って一年でしょ? だから、何か欲しいものがあれば言ってほしいな」


向けられる照れくさそうな微笑みに、リゾットは穏やかな心持ちで名前を抱きしめ返す。

そして、彼女の体温、鼓動、命を確かめながら、彼がおもむろに口を開いた。



「……何も、要らない」


「え? でも――」


「名前が居てくれたら、オレは十分すぎるほど幸せなんだ……一生、離すつもりはないからな」


「! えへへ……なんだか恥ずかしいな」



部屋を覆うのは、柔らかく温かな空気。

いつの間にか、呆れの感情は消え、ほっこりとした気持ちで男たちは二人を見据えていた、が。



「だが、強いて言うなら」


「ん? なあに?」


「…………名前との≪愛の結晶≫が欲しい」


「ッ、もう……リゾットのバカ////」




ブチッ


「テメーらアアアアッ! ンな人前でイチャついてんじゃねえぞ! クソッ! クソがッ!」


「……(ま、安心した分、当然そうなるわな)」




――俺ら、いつか糖分過摂取であの二人に殺されるかもしれねェ。



「ったく、しょォがねェな〜〜!」



ガシャンッ

バキッ


もはや原型のないリモコンすら意に介さない二人を見て、ホルマジオはひっそりとため息をついた。











虫歯注意報
治療法。それは、楽しむかスルーか。




〜おまけ〜



それから、リビングには互いに手を取り合う男女二人の姿が。


「名前……」


「リゾット、大事なことだよ? 私はここにいるから、ね?」


「……必ず帰る」



神妙な表情で、リゾットは細く白い名前の手を離す。

今生の別れかと思われるシーン。

しかしその目的地は――かなり近しい場所。




「リゾット! テメーはよオオオ! ≪手洗い≫行くのに何十分かかってんだッ! ダアホが!!」



今日も、暗殺チームは(ある意味)平和です。











お待たせいたしました!
リーダーで甘々バカップルでした。
リクエストはもちろん、お祝いの言葉もありがとうございました!
これからも、拙い文章ですが、皆様に暗チのみんなをより好きになってもらえるよう勤めて参ります!


感想&手直しのご希望がございましたら、お願いいたします。
Grazie mille!!
polka



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