鳴かないココロ
※give&get『奪われた白い羽』続編
※裏
※病んでおります





彼の家に――いや、この摩訶不思議とも言える鏡の世界に監禁されてから、どれほどの時が経ったのだろうか。



「名前……おはよう、朝ごはんできてるよ」


「……おはよ、う」


美味しい、とはっきりとは言いがたい食事。

自由は利くが動かす機会のない肢体。

どこかへ出かけるわけでもないのに日に日に増える衣服。

丁寧に手入れされる髪。


――まるで喋る人形。



毎朝毎晩、相変わらずイルーゾォは甲斐甲斐しく彼女の世話をしていた。

むしろ変化が生じたのは、名前の方。



「……あ」


「ん? ああ、これ? また怪我しちゃってさ……って名前?」


「見せ、て」




いつも何かしらの傷を負って戻ってくる男の手を戸惑うことなく取り、一つ一つ絆創膏を貼り付けていく。

それも真剣な眼差しで。


ガラス板の裏面に水銀を塗った――冷たい鏡に囲まれているとは思えない温かな空間。

この愛しい彼女のためにと幾分か鮮やかになった部屋を、朝食の香りが包む。



「(ああ、名前がオレの手に触れてる……)ありがとう名前……、ッ痛」


「あんまり、無理……しないで」


「! う、うん! 無理しない! ≪名前のため≫にも……約束するよ!」


「うん」



消えた敬語。

近付いた距離。


≪絆された≫わけではない。


≪脅された≫わけでもない。



恐怖や憎しみ、そして嫌悪。

名前自身が、この決して終わることのない生活に狂ってしまわないよう、負の感情すべてを押し殺してしまったのだ。

もはや、彼だけを映す瞳に≪光≫は存在しなかった。



「……はい、終わり」


「〜〜っどうしよう、すっげえ嬉しい……今、名前は心配してくれたんだよな? オレのこと……ッ」


「もう……大げさ」



一見、穏やかな日常の一ページかと思われるシーン。

しかし、胸中で湧き上がる≪何か≫を抑えてしまったからこそ、彼女は知らない。




「今日は、名前が優しくオレの怪我を見てくれた……こんなに幸せなこと、今までない」


「しかも小さく微笑んで。ああ、可愛い。すげえ可愛い」


「困ったな、≪もうしない≫って決めたのに。約束したのに。もっとあの笑顔が見たい。もっとあの少し眉を寄せた表情が見たい……好きだよ名前。いいや違う、愛してるんだ。愛してる名前。名前、名前、名前……!」



どこまでも嬉しそうに口端を歪めたイルーゾォが、調理器具を持つ手を≪わざと≫滑らせているとは知らずに。

自分の思惑通り変わりゆく姿に、ますます愛おしさを滲ませているとは知らずに。











だが一つだけ。

名前にはいまだ戸惑っていることがあった。



「っぁ……い、やっ、そこ……ひぁ!」


「そうなの? 名前のさくらんぼみたいに赤くて可愛い乳首はこんなに硬くなってるのに……嫌?」


「! ダメ……っぺろぺ、ろしちゃ……や、ぁあっ」



昼か夜かも判断のつかない世界のベッドで、身じろぎする丸裸の少女。

男の青白くも大きな両手によって、しっかりとシーツに縫い付けられた手首。


過敏と言っていいほど震える、丸みを帯びた二つの膨らみ。

乳輪を描くように舌先でなぞられ、時折脇腹を掠める彼の長い黒髪が妙に擽ったくてたまらない。



「ぁっ、ぁ、はぁ……んっ、ダメ、ぇっ!」



最近行われるようになったセックス。



それに対し暴れるといった拒否はしないものの、心はひどく揺れ動く。

――自分はこんなことをしていていいのか、と。



「……考え事なんて、許可しない」


「ッひゃ、ぁあ!」


「名前、今オレと何してるの? 集中してほしいな」


「ぁっ、はぁっ……ごめ、なさ、っ……や、っぁ、あんッ」



突然、胸の飾りを赤ん坊のように吸いつかれ、否応なしにビクリと反応してしまう身体。

押し寄せる快感の波に、浮上していた考えはいとも簡単にその姿を消した。




「っ……は、ぁっ、はぁ……いる、ぞ、さ……も、やめ……っひぁ!」



息も絶え絶えに制止を求めても、それは名を呼ばれた本人の欲を助長させるばかり。


ひどく上気した頬。

唇から顎先へ伝い落ちる唾液。

快楽に翻弄され悩ましげな吐息。


当然ながら、目尻には生理的な涙が浮かぶ。

そんな名前の淫靡な姿を一つ一つ焼き付けたイルーゾォは、笑顔のままおもむろに胸元で頬擦りをし始めた。



「名前の肌ってさ、ほんとスベスベ……胸も柔らかいし。ずっと触れていたくなるんだよな」


「ぁ、っ! んッ……ふ、ぁっ、や、やだ……っ!」


「あ、ごめん。もしかしてイイところに当たっちゃった? にしても、思ったより感じやすい子だよね、名前は……そこも可愛い」



刹那、不規則な動きが性感帯をも刺激したのか、彼女が小さく背を弓なりにさせる。

その甘さを含んだ嬌声に、男はただただ薄闇の中で目を細めた。

ドクドクと高鳴る胸。

成るとも果てるともわからずに、広がっていく≪愛≫は止まることを知らない。



「はぁ、っはぁ……、ッ!」


「……そろそろ、こっちも触ってみようかな」


「だ、ダメ! おねが、っそっちはダメ……ぁっ、や、ぁああんっ」


「ダメ? それはないと思うけど……ほら、こんなに濡れてる」



捕らえていた手首を静かに解放し、右手の指先を内腿に隠された秘境で動かせば、クチュクチュといやらしい水音が世界に反響する。

それが鼓膜を震わせたらしい。


織り交じった羞恥と快感でカッと紅潮する名前。


そして、慌てて閉じようとする下肢を強引に押し開き、花弁から顔を出した小さな肉芽を焦らすように弄りながら、ふとイルーゾォは彼女に向かって唇を寄せた。



「いや、っぁ……はぁっ、はぁ、そこば、かりいじめな、でぇ……、っ?」


「ねえ名前。キス、してよ」


「ぇ、あ、えっと……でも、……っふ、ぁ!」



充満する独特の香り。

ここに来て動揺を瞳に滲ませた名前は、喘ぎ声を漏らしつつなんとか口を噤む。


――っ、≪できない≫。



キスをされたことはある。

怯えで拒否もしない。


ただ自らしたことが――まだその≪区切り≫を付けることができないだけ。

もし言う通りにことを進めれば、抑えた感情や精神だけでなく≪自我≫すら失ってしまう、そんな気がした。


しかし――










「……できないの?」


「!」


目を伏せ突き刺す視線から逃げていると、不意に届いた冷たい声色。

ゾクリ、浸っていた官能も忘れ、ただただ背筋が凍る。


別の意味で跳ね上がる心臓と乱れる呼吸。



「はぁっ、はぁ……はぁ、っ」


一瞬の間に、彼は≪豹変≫した。

忘れてはならない。



この男は、ギャングなのだ。


――≪しなくちゃ≫。



「……ん、っ」


「ん」



もう誰も失わないために。

目的が≪保身≫であれば、どれほど楽だろう。


イルーゾォの白く痩せ気味の頬に両手を添わせ、おずおずと唇を重ねる。



「んん、っふ……ぅ、ん……っ」


「名前……」


「は、っぁ、はぁ……、ン……んっ、ふ」



捉えた柔らかな感触。

彼女のそれを食むように貪り尽くしながら、酸素を求めてできた隙間へと男はすかさず舌を滑り込ませた。


絡め取られる舌下、上顎、歯列や頬肉の裏。


ピチャ

クチュリ


続く艶かしい唾液の音。



「はぁ、ん、んっ……ふ、ぁ……っ、ん!?」




だが次の瞬間。

ようやく窒息寸前のところから解放されたかと思えば、両足を持ち上げられている。


襲い来る恥ずかしさに抵抗をせども、力が入らない。

一方、小刻みに振動する膝裏を抱えたまま、愛液で光る薄紅色の秘部を視界に収めた彼はゆっくりと口を開いた。


「ココ、ヒクヒクしてる」


「っや、いや……広げちゃ、っぁ……ひぁっ、ぁああ!」



舌先で器用に粘膜を掻き回され、なす術もなく嬌声を上げてしまう。

震える肉襞。


迫り来る甘い痺れ。



「ぁっぁっ、やらっ、はぁ……な、にか、っぁ、きちゃ……ッ、あんっ」


「名前……いいよ。オレの前でイって?」


「はぁっ、ぁ、や、だめぇっ……ぁ、ああ、ッ――――」



声にならない声。

ビクリと背筋を駆け巡る快感を享受しながら、名前は白い喉を晒した。


一方、そのあられもない姿に人知れず息をのむイルーゾォ。

焦燥を交えて脱ぐ衣服。

そして荒い息をこぼし、いまだベッドへ四肢を投げ出した状態の彼女へと跨った男はいきり立った自身を無防備な陰裂に擦り付ける。



「!」


「わかる? 今からこれが、名前の小さな膣に入るんだよ……」



当然、大きく目を見開き首を横へ振る名前。

しかし、肝心の花弁は亀頭をモノ欲しげに誘い込むではないか。


その反応が、≪引き金≫を引いた。


「ッほんと可愛いね、名前は……!」


「はっ、はぁ、待って……わたしっ、こわ……っや、ぁああああ!」


「ぅ、ッ」



彼にナカを侵食されていく。

消えることのない異物感。

自分が自分ではなくなっていく、妙な恐怖。

けれども、彼女は≪仇であるはずの相手≫に縋り付くことしかできない。


言わずとも回された両腕に、イルーゾォはただただ恍惚の表情を浮かべる。



「ぁっ、あっ……らめ、っ動かな、で……ッ!」


「はぁッ、名前……それは無理だよ。こんなに締め付けてさ」


「! ひぁっぁっ、やらっ……いるっ、ぞ、さ……っぁ、ぁあん!」


「ああ名前、可愛い……名前、名前……!」



グチュリグチュリ

パンパン


混ざり合う音と打ち付ける音が交互に耳を劈いた。

名前の膣内を圧迫する性器の根元が赤く腫れ上がった陰核を掠め、挿入とは違う快楽をもたらす。


「や、ぁっ、はぁ、はぁ、おかし、くなっちゃ……っぁ、っあ……!」



そのとき、警鐘のように鳴り響いた≪限界≫。

だが、頭のそれをかき消すように、男は腰を揺さぶりつつ囁いた。


「はは、おかしくなっていいんだよ名前。オレも……名前となら≪堕ちて≫もいいかな。ううん、堕ちようよ名前……そうしたら君は、オレのことしか考えられなくなる」


「っおち、る……? ぁっあっ、あん……はげ、しのやらっ、ぁ、ああッ」



有無を言わさず引き込まれる官能の瞬間。

ぼんやりとする脳内で彼女は悟る。


――自分に選択肢はない、と。


「ぁっ、はぁッ、らめ、らめぇ! っや、ぁっぁっあ……わたっ、わたひ……ッぁ、ぁああああ!」


刹那、背筋が弓状になると同時に膨らんだ快感が勢いよく胎内で弾けた。

朦朧とする意識。


霞む視界の中で見たのは、相変わらずヒクヒクと小刻みに揺れる膣口からモノを抜き、天井へ向くそれを左手で上下させている彼が。



「はぁ、はぁっ……名前……!」


「……、っ?」


「名前、オレも……ッく」



鈍い音が届いたかと思えば、先端から飛び散る体液。

熱く滾るモノの的となった名前の下腹部は、言うまでもなく白く染まってしまった。


それを荒い息のまま見下ろして、イルーゾォはぽつりと呟く。


「……名前には白が似合うね。特に、オレの白が」


「っ」








「すごく、すごく≪綺麗≫だよ」



愛も欲も止まらない。

――おかしいな、今出したばっかなのに。名前のことを考えるだけで……ッ、ほら。


再び高まりだした硬度と熱を感じながら、彼はひどく歪んだ口端を戻そうともせずに、いつの間にか閉じられた愛しい名前の瞼へそっと口付けを落とした。










鳴かないココロ
≪拒絶する理由≫――それさえ忘れていく。










大変長らくお待たせいたしました!
イルーゾォで『奪われた白い羽』の続編裏でした。
千代様、リクエストありがとうございました!
イルーゾォくんが病みというより変態じみてしまったような気もしますが……これもヤンデレの一種ということで、捧げさせていただきます。


感想&手直しのご希望がございましたら、ぜひお願いいたします!
Grazie mille!!
polka



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