可愛い可愛いMammone
※ツンデレヒロイン
※ギャグ甘





街中にそびえ立つ大きな木の傍で、パイナップルのような髪型をしたペッシは、ある人物を待っていた。

それは、いつも彼を叱咤しつつも成長へと促してくれる彼の兄貴ではない。



「ペッシ!」


「あ、名前さん……!」



駆け寄ってきたのは、自分の先輩にもあたる名前。

気立てもよくチームの紅一点だが、仕事の遂行能力においてはあのリーダーと一二を争うらしく、彼女の仕事を初めて目撃したギアッチョが、珍しく眼鏡越しの瞳をキラキラ輝かせながら興奮気味に話していたのを、男は今でも覚えている。


一方、そんな憧れの眼差しが向けられているとは思いもしない彼女は、遅れてしまった申し訳なさゆえか眉尻を下げた。



「ほんとごめんね? 私が言い出しっぺなのに……寒かったでしょ? これ貸してあげる」


「え!? マフラーなんてそんな、いいよ……名前さんが風邪引いちまう!」


「ふふ、私は今走ってきたばっかりで暑いんだから、気にしないの。……よし、行こっか!」



くるくると自分の首に巻かれる淡い水色のマフラー。

ふと鼻を擽った香りに、ペッシは慌てて胸中で己を諌め、歩き始めた名前にそそくさと続いた、が。



「……」


「あ、あの……名前さん、後ろ……」


「後ろ? んー、≪何もない≫けど」



彼の言葉に少しだけ振り返ったものの、すぐに素知らぬ顔をしてしまう。

とは言え、自分でさえ≪コレ≫に気付いているのだ。

隣に並ぶ彼女が察知しないはずがない。


――この気配、この視線、このオーラを。







「ペェェッシィィィイイ!」


「!?」


「……チッ」


「!?!?(名前さん、舌打ちした……!)」



まさかの兄貴出現。

そして想像もしなかった名前の反応。

さまざまなことに驚きすぎたせいでリアクションを取ることができないペッシのそばへ、鬼の形相でやってきたプロシュートはその蒼い瞳を光らせながら彼女に牙を向いた。



「テメー、名前ッ! 何ペッシを勝手に連れてってんだ! つか、普通あそこにいたら気付くだろ。無視か? 名前ちゃんよお……大人気なく無視か? え?」



すると、返ってくるのは呆れのこもったため息。



「あのねえ、ちゃんと言ったでしょ? ≪出かける≫って。……あ、そっか、あんたがもうおじいちゃんだから聞こえなかっただけかもね!」


「チッ、オメーなあ、オレとあんま年変わんねえくせに抜かしたこと言ってんじゃあねえぞッ! おいペッシ、今すぐ帰るか帰らねえか、はっきりしろ!」


「え、ちょ、兄貴!?」


「ふんっ……これだから≪兄バカ≫は……いい? ペッシは今から私とデートなの! わかったら邪魔しないで!」



――デート!?


あまりにも混乱を極めた状況で思わずスルーしそうになったが、相談事を自分にする予定ではなかったのか。

弟分の表情に、状況を理解したのかますます額に青筋を立てるプロシュート。


しかし、≪怒り≫に関しては名前も劣っていない。



「大体ね、あんた香水きついのよ! 私の前では嫌味のように強くして……一つに統一するならまだしも、女の子から貰ったのを週ごとに変えないで!」


「おいおい、可愛い犬っころが……そんな吠えんじゃねえよ。んなモンお前に気付かせるために決まってんだろうが……それに、オメーこそもっと色気付いて身嗜みを覚えろ! なんなら、直々にオレ好みの化粧品一式を選んで、贈ってやろうか? CMでお馴染みの≪ドモ○ルンリ○クル≫も付けてな!」


「お・こ・と・わ・り……お断り! 私はまだ年齢肌じゃない!」



バチバチと散る火花。

彼らの横を通り過ぎる人は何事だと目を丸くしているが、干渉すればギャング二人によるとばっちりが発生したので、ある意味≪触らぬ神に祟りなし≫でよかったのかもしれない。


一方、二人に挟まれたペッシはさすがに他人事には――できない。



「あわわわわわ!」


「ペッシィ! どんな時でも狼狽えるんじゃあねえ!」



もはや言葉すら成立させられていない彼に、男がいつものように叱咤する。

刹那、その怒声に呼応するように彼女は我に返り、今も動揺しているペッシの腕をそっと引いた。



「ハッ、そうだ。こんな伊達男と話してる暇なんてないんだった……行こう?」


「わ!? 名前さん、いきなり引っ張らないでおくれよ……!」


「! テメッ、待ちやがれ!」



こうして、三人の奇妙なデート(?)は始まったのである。









「……」


「……」




「(まるで最後の晩餐のよう、ってこういうことなんだね……)」


後ろのおじさんのお口には合わないと思うけど――と、背後を一瞥しながら刺々しく言い放った名前が足を踏み入れたのは、リーズナブルなレストラン。

だが、楽しそうな雰囲気は皆無であり、ペッシは唾を飲み込むことすら気を遣う状況に陥っていた。



「(どうしよう……リーダー……リーダー、偶然でもなんでもいいから来てくだせえ……)」


「……ペッシ、フォーク進んでないけど……もしかして美味しくない?」


「! そんなことないっすよ!」



ブンブンと首が取れてしまいそうなほど勢いよく否定すれば、目の前に彼女は嬉しそうに破顔し、再び食べ進めていく。

一方で、弟分の隣で黙々とフォークを動かしていたプロシュートは、おもむろに言葉を紡ぎ出した。



「しっかしよお……こんな辺鄙なとこ、よく見つけたな。尊敬すんぜ」


「……、あんたの≪尊敬≫って言葉ほど、信用できないものはない」


「ハン、そう目くじら立てんなよ。……ところで、前にここへ来たっつーのは一人なわけじゃねえだろ?」


「当たり前でしょう? 友だちと来て気に入ったの」



それが何?

と言いたげに斜め前を見つめる名前。

そんな彼女に対して、男のひそめられた眉を目にしたペッシは一人≪嵐の予感≫を悟る。



「友だちィ? お前にそういう輩がいたって方が驚きだが、まさか変な男じゃねえだろうなあ?」


「な……っどうしてそんなことあんたに詮索されなきゃいけないのよ! 一緒に来たのは女の子だし、私だって男を見る目ぐらいある!」


「ハッ、どうだか。オメーって奴はいざっつー時におっちょこちょいだからな……ま、色気もクソもねえお前に寄り付く男はいねえか。お前の手綱を締められんのは、せいぜいオレぐらいだろ」


「〜〜ッ、人を馬扱いして……可愛い女の子を取っ替え引っ替えしてるあんたこそ、背後には気をつけなさいよ!」


「……(あれ?)」



ところが、周りを吹きすさぶ暴風雨に備えていた少年が、ふと首をかしげる。

打てば響くような口論の中には、まるでどこか≪お互いを意識している雰囲気≫があるような――



「ペッシ! ドルチェいる? ここの、すごく美味しいんだよ?」


「ハン! ドルチェより酒だ! ペッシ、付き合うだろ?」


「ふ、二人とも! もうオレ、腹いっぱいっすから……」



遮られた思考。

再び漂う険悪なムード。

それを醸し出す二人を止めることに精一杯で、彼の脳内を過ぎりかけた答えは、忽然と姿を消してしまうのだった。










レストランの外。

そこには、不機嫌そうなオーラを纏う名前と冷や汗を掻くペッシ。


「(むっすぅ)」



原因は今この場にいない――プロシュートが、≪お前に払わせるわけねえだろ≫と支払いをしようとした彼女より先に、レジへ向かってしまったことにある。



「(ど、どうしたらいいんだろ。兄貴の凄さを語るわけにも行かねえし……)」


「……ペッシはさ」



空気を変えることもできず、彼が悩みに悩んでいると、ふと聞こえた自分の名前。

くるりとそちらへ視線を向ければ、それを合図に名前は伏せ目がちのまま声を震わせた。



「もしもね? もしもの話なんだけど……ペッシの兄貴と私が同時に崖から落ちそうになったら、どちらを助ける?」


「! それはえっと、その」


「……」


「えーっと……」


「……なんてね、冗談」


「え?」



難しい顔をした自分に、パッと飛んできた明るめな声音。




「二つに一つ、みたいな選択肢で困らせるなんて、私はそんな柄じゃないでしょ? 少しからかっちゃった……ごめんね?」


「あ、いや……名前さんが謝る必要はないっす」


「ふふ、ペッシはいい子だね。あーあ、姐御肌でも身に付ければよかった……って、それはつけるもんじゃないか。培うものだ」



そう言って、微かに彼女が笑う。

けれどもその姿は、いつもとは明らかに違っていて。


「あいつ遅いね、先に行っちゃおうか」とマフラーで鼻の先までを隠し、己の前を進み始めた華奢な背中に――ペッシはすぐさま口を開いていた。



「――オレはッ!」


「ん?」








「万が一、そうなったときたぶん兄貴を助けるだろうし……二人を助けられるほどの力も、オレにはないっす」


「……うん」


「でも兄貴は!」








「≪自分が犠牲になる道≫も、≪一人だけ助かる道≫も選ばないと思うんですッ!」


「!」


開かれる瞳。

落ちてしまうのではないかと心配になるほど、瞼の奥で揺れる美しい眼からそらせないまま、彼は言葉を木枯らしに乗せて話し続ける。



「兄貴は……ッ名前さんを抱き上げて一緒に崖を上ってくる」


ただ、そんな気がするだけ。

自分の考えはあくまで想像――だが、それはひどく≪確信≫に近いもののように思えた。



「……ふーん」


「ッ! あ、えっと……今のは言葉のアヤというか……」



まずい、怒らせてしまったか。サーっと青ざめながら慌てて顔を上げたペッシは、思わず息をのんだ。



「すごく癪だね、プロシュートに助けられるなんて」


自分の眼前で名前がただただ悔しそうに、けれども嬉しそうに目を細めていたのだから。

その表情にしばらく見惚れていると、彼女が首をかしげつつも音を紡ぎ出す。



「でもさ、ペッシ」


「?」


「今度は……二人で来ない?」


ここのレストラン。


速いテンポを刻み始める鼓動。

寒いはずなのに、熱い頬。



「お、オレでよければ……もちろんっす!」


次の瞬間、視界に飛び込む花がパッと咲き誇ったかのような笑顔。

ますますスピードを増す己の心臓に「兄貴が来るまで」と言い聞かせながら、不意に触れた小さく冷たい手をペッシは温めるようにそっと握り締めたのだった。











可愛い可愛いMammone
「まだこのままでいて」と彼女は優しく呟いた。




〜おまけ〜



「ねえねえ名前! あんたにぴったりの下着をッ、ぜひ試着してほし――って、んんー? 何してるんだい?」


「ハハッ、メローネ、今はあいつらに近付かねえ方がいいぜェ? とばっちり食らうからな」


「≪どちらがペッシの保護者か≫で揉めてるんだって。ほんと、≪保護者は一人だけ≫っていつ決まったんだよ」



ホルマジオ、イルーゾォ、メローネの視線の先には、相変わらず火花を散らせたままのプロシュートと名前。


今にも勃発しそうなスタンド抗争。

それはさすがにダメだ――リーダーの心労が増えると察したペッシは、四つの瞳を見据え、



「お、オレは! 兄貴がパードレ、名前さんがマードレだと思っていやす……!」


と懸命に訴えかけていた。



「! ペッシ……!」


「クッ、お前って奴は……オレの知らねえ間に成長してたんだなッ!」



すると、打って変わって嬉しそうに顔を綻ばせる二人。

プロシュートに至っては、弟分の成長が相当涙腺を刺激したのか、涙ぐんでいる。


だが、結果としてアジトの平和は守られた。

ホルマジオが「はあああ」と深いため息を吐き出し、ソファに寝そべろうとした瞬間――



「……ん? でもさ、それってつまりペッシが息子で、プロシュートと名前……お前らが夫婦ってことになるよな?」


「あ、おいイルーゾォ! ったく、このバカ!」


「はあ? なんでホルマジオにバカって言われなきゃ――」



ならないわけ?

そう言いかけたイルーゾォは、自分の背を突き刺した雰囲気に当然ながら言葉を切った。


なぜなら――



「「……」」


禍々しいオーラ。

改めてリビングを支配するそれに、下着を両手に握ったままのメローネは小さく苦笑する。



「あちゃー、これだと今着てもらった奴をクンカクンカするより、名前の下着漁る方が早いかな」


「だな。しょーがねェ…………って、お前後で殺されんぞ? 本人じゃなくプロシュートか、名前には妙に懐いてるギアッチョによォ」


「……あはっ、やっぱり?」



こうして、イルーゾォがなんの気なしに放った一言によって、二人の睨み合いはリゾットが帰宅するまで続いてしまったのだとか。












お待たせいたしました!
ペッシで、兄貴にはツンのツンデレヒロインとのお話でした。
リクエストありがとうございました!
どちら落ちになるのか……いや、三人で仲良くでもベネ! などと考えながら書かせていただきました。いかがでしたでしょうか?


感想&手直しのご希望がございましたら、お願いいたします!
Grazie mille!!
polka



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