※一般人ヒロイン
※兄貴、病んでいるので注意
思えば、あいつは出会った時から≪否定≫で始まる女だった。
「私は、貴方に絶対なびかない」
目がかち合い、いつもと変わらない笑みで近付いた途端、放たれた言葉。
珍しい奴。
自分をやけに持て囃そうとする女が多い中で、その女――名前だけは瞳に≪色≫を帯びていなかった。
「ハン、面白え! 知ってるか? そう言われるとオレみてえな男はなあ、無理矢理にでも振り向かせてやりたくなるんだよ」
「……お好きにどうぞ」
小さく呟くと、彼女はすぐさま視線をそらす。
――何をしてでもその眼に映り込んでやる。
燃える闘志。
「よお、名前。元気か?」
「また来たの……? 暇なのね、貴方って」
「おいおい、そう睨むなよ。それに、そろそろオレの名前を覚えてくれてもいいんじゃねえか?」
「……覚えても呼ばないから、覚えないの」
つっけんどんな態度。
あらゆる言葉、手段、環境を使っても、揺れ動きすらしない心。
宣言通りまったくこちらを見ようとしないツンとした性格が、オレの妙なプライドをますます刺激した。
他の女と比べて気取らない態度が、オレの心に刻み付いたんだ。
「いや……っこ、来ないで!」
だから名前、お前が≪デート≫でオレの家に招いたとき見せた抵抗も、さして気にならなかった。
天邪鬼のこいつのことだ。
≪嫌≫という単語は、もはや常套句に近い。
「名前……別に取って食おうってわけじゃねえんだ。怖がるなよ」
「ぁっ、ああ……!」
強気な態度から一変、壁際で小刻みに震える身体を抱きしめ、耳元に優しく囁きかける。
そして、緊張でもしているのか、少しばかり乱れた彼女の呼吸と心臓を止めてしまうかのように、その薄紅色の唇を初めて奪った。
「前に花は要らないっつってただろ? 今日は違うものにしたぜ」
無事付き合い始めて、時折計画したサプライズ。
花言葉を調べた上での花束。
見た目と利便性を兼ね揃えたバッグ。
名前が気に入り、身に着けそうな香水。
ああ、そうだ。
どれも渋々受け取るといった形の彼女に、アクセサリーを贈ったこともある。
ある意味、それが一番好評だったかもしれねえ。
ブレスレットにアンクレット、そして――人工の光で銀に煌くネックレス。
「そん、な……どうして」
「どうだ? 少し重そうだが、お転婆なお前にはちょうどいいだろ。気に入ったか?」
「ッ、こんなのいらないっ……外して、外してよ……!」
声を荒らげ、こちらを睨みつける名前を見て、口端は自然と吊り上がった。
「おねが、い……誰、か……ぐすっ……誰か助けて……っ」
ポロポロと涙を流しながら、そのプレゼントを≪喜ぶ≫姿に、心の中で嬉しさが込み上げたのを覚えている。
そんなあいつと出会ってから、いつの間にか一年。
似たようなオシャレをして、仮初で覆い尽くされた女なんてまったく目に付かねえほど、オレは一人の女に夢中になっていた。
もちろんそれは、彼女も同じで。
互いを存分に理解し合ったオレたちは、ついに同棲を始めたんだ。
「貴方なんて嫌い……っ大嫌い」
「ククッ、素直じゃねえなあ。オレは愛してるぜ? ……殺してえぐらいな」
自分が堅気ではない。
口にはしないものの、そう悟っているのだろう。
刹那、強がりで満ちた瞳に浮かぶのは、小さな怯え。
殺すなんて宣言はよお、オレたちギャングの世界じゃあ冗談だってのに――可愛い。
「なあ名前、知ってっか?」
弟分のペッシにも教えたが、≪暗殺≫を生業にするオレらは瞬時の判断で動くもんなんだよ。
――≪ぶっ殺す≫と心の中で思ったなら、
その時すでに行動は終わっている。
「……朝か」
カーテンの隙間から差し込む光。
それに眉をひそめたプロシュートは、ゆっくりと上体を起こす。
結っていたはずのゴムが外れ、肩へと落ちてくる己の髪を煩わしげに一瞥しつつ、隣の恋人へ声をかけた。
「よく眠れたか? 名前」
「久々に懐かしい夢を見たぜ。あの頃のつんけんとしてたお前はほんと弄りがいがあって、可愛かったな」
「ん? おいおい、何不貞腐れてんだよ。まさか昔の自分に嫉妬したのか?」
――可愛い奴だなあ、おい。
綻ぶ口元。
いつも通り、起きがけのキスをしよう。そう思い、名前へ顔を寄せれば――
「! ……チッ」
刹那、枕元で轟いた着信音。
小さく舌打ちをした男は、縮めていた距離を戻してから、携帯を掴む。
「プロント。……ああ」
相手は同じチームの仲間。
邪険にあしらうわけにも行かないので、彼の頷きだけが室内に響き渡った。
「ああ……ああ……、はあッ? 今すぐ来い、だァ?」
こっちは恋人との時間を過ごしたいというのに、タイミングの読めない奴らだ。
「チッ。わーったわーった……待ってろ」
了承を言い放った途端、携帯をベッドへ放り投げ、シャツを羽織る。
そして、いつもの≪プロシュート兄貴≫に早変わりした彼は、いまだ寝転んだままの名前の元へそっと歩み寄った。
「……名前、悪い。夕方には帰る」
潤った髪。
指通りの良いそれを手で梳かしながら、眉尻を下げる男。
しばらく感触を確かめていたプロシュートは、ゆっくりと彼女に言い聞かせるように呟く。
「料理はオレがすっから、お前は絶対に動くんじゃねぞ? 愛してる女に怪我なんてさせられねえからな」
いいか?
過保護だと周りに思われても構わない。
これが自分の愛し方だ。
すると、朝日に照らされた名前の顔を見下ろして、自然と心に広がる≪愛しさ≫。
「ったく、名前よお……お前はいつまで経っても綺麗で困るぜ」
「なあ、名前?」
目の前には、≪もう動かない≫恋人。
苦しむ間も与えないほど強力な毒を盛った。
白く滑らかな肌を隅々まで念入りに洗い――程よい肉付きの躯体も、疲労を交えつつもそれを見せない表情も、決して誇示しなかった美しさも、すべてすべて壊れてしまわないよう≪保存≫した。
スタンドもあるので毒薬などは基本必要としないものの、自分だってギャングだ。
そういう薬は嫌でも耳にしたことがあった。
「つっても、まさか自分が使うことになるとは……お前と出会うまで思わなかったけどな」
薬品で覆われた滑らかな皮膚を、柔らかな頬を、どこまでも慈しむようになでる。
それから、先程は邪魔されてしまったが、今度こそ軽い口付けを微動だにしない名前に落とすプロシュート。
だが、その唇の冷たさに、少しばかり苦笑した彼は念を押すように言葉を紡ぎ出した。
「おいおい名前……今は真夏じゃあねえんだ。外も寒い。……≪身体、冷やすなよ≫?」
何度声を震わせども、答えは返ってこない。
否、それでも良い。
彼女にとって、自分が≪最初で最後の男≫であること。
それは未来永劫変わらないのだから。
「名前、――――」
飽きることなく吐き出される愛の言葉。
ひどく狂気を帯びたテノールが、二人の部屋に虚しく響いた。
とあるeternal love
――待っていたのは、予期すらしなかった≪永遠≫。
![](//img.mobilerz.net/sozai/1616_w.gif)
お待たせいたしました!
プロシュート兄貴で、ヤンデレでした。
じゅん様、リクエストありがとうございました!
兄貴のヤンデレは初の試みだったのですが……ご希望のイメージに添えられていましたでしょうか?
感想&手直しのご希望がございましたら、お願いいたします!
Grazie mille!!
polka
>
※兄貴、病んでいるので注意
思えば、あいつは出会った時から≪否定≫で始まる女だった。
「私は、貴方に絶対なびかない」
目がかち合い、いつもと変わらない笑みで近付いた途端、放たれた言葉。
珍しい奴。
自分をやけに持て囃そうとする女が多い中で、その女――名前だけは瞳に≪色≫を帯びていなかった。
「ハン、面白え! 知ってるか? そう言われるとオレみてえな男はなあ、無理矢理にでも振り向かせてやりたくなるんだよ」
「……お好きにどうぞ」
小さく呟くと、彼女はすぐさま視線をそらす。
――何をしてでもその眼に映り込んでやる。
燃える闘志。
「よお、名前。元気か?」
「また来たの……? 暇なのね、貴方って」
「おいおい、そう睨むなよ。それに、そろそろオレの名前を覚えてくれてもいいんじゃねえか?」
「……覚えても呼ばないから、覚えないの」
つっけんどんな態度。
あらゆる言葉、手段、環境を使っても、揺れ動きすらしない心。
宣言通りまったくこちらを見ようとしないツンとした性格が、オレの妙なプライドをますます刺激した。
他の女と比べて気取らない態度が、オレの心に刻み付いたんだ。
「いや……っこ、来ないで!」
だから名前、お前が≪デート≫でオレの家に招いたとき見せた抵抗も、さして気にならなかった。
天邪鬼のこいつのことだ。
≪嫌≫という単語は、もはや常套句に近い。
「名前……別に取って食おうってわけじゃねえんだ。怖がるなよ」
「ぁっ、ああ……!」
強気な態度から一変、壁際で小刻みに震える身体を抱きしめ、耳元に優しく囁きかける。
そして、緊張でもしているのか、少しばかり乱れた彼女の呼吸と心臓を止めてしまうかのように、その薄紅色の唇を初めて奪った。
「前に花は要らないっつってただろ? 今日は違うものにしたぜ」
無事付き合い始めて、時折計画したサプライズ。
花言葉を調べた上での花束。
見た目と利便性を兼ね揃えたバッグ。
名前が気に入り、身に着けそうな香水。
ああ、そうだ。
どれも渋々受け取るといった形の彼女に、アクセサリーを贈ったこともある。
ある意味、それが一番好評だったかもしれねえ。
ブレスレットにアンクレット、そして――人工の光で銀に煌くネックレス。
「そん、な……どうして」
「どうだ? 少し重そうだが、お転婆なお前にはちょうどいいだろ。気に入ったか?」
「ッ、こんなのいらないっ……外して、外してよ……!」
声を荒らげ、こちらを睨みつける名前を見て、口端は自然と吊り上がった。
「おねが、い……誰、か……ぐすっ……誰か助けて……っ」
ポロポロと涙を流しながら、そのプレゼントを≪喜ぶ≫姿に、心の中で嬉しさが込み上げたのを覚えている。
そんなあいつと出会ってから、いつの間にか一年。
似たようなオシャレをして、仮初で覆い尽くされた女なんてまったく目に付かねえほど、オレは一人の女に夢中になっていた。
もちろんそれは、彼女も同じで。
互いを存分に理解し合ったオレたちは、ついに同棲を始めたんだ。
「貴方なんて嫌い……っ大嫌い」
「ククッ、素直じゃねえなあ。オレは愛してるぜ? ……殺してえぐらいな」
自分が堅気ではない。
口にはしないものの、そう悟っているのだろう。
刹那、強がりで満ちた瞳に浮かぶのは、小さな怯え。
殺すなんて宣言はよお、オレたちギャングの世界じゃあ冗談だってのに――可愛い。
「なあ名前、知ってっか?」
弟分のペッシにも教えたが、≪暗殺≫を生業にするオレらは瞬時の判断で動くもんなんだよ。
――≪ぶっ殺す≫と心の中で思ったなら、
その時すでに行動は終わっている。
「……朝か」
カーテンの隙間から差し込む光。
それに眉をひそめたプロシュートは、ゆっくりと上体を起こす。
結っていたはずのゴムが外れ、肩へと落ちてくる己の髪を煩わしげに一瞥しつつ、隣の恋人へ声をかけた。
「よく眠れたか? 名前」
「久々に懐かしい夢を見たぜ。あの頃のつんけんとしてたお前はほんと弄りがいがあって、可愛かったな」
「ん? おいおい、何不貞腐れてんだよ。まさか昔の自分に嫉妬したのか?」
――可愛い奴だなあ、おい。
綻ぶ口元。
いつも通り、起きがけのキスをしよう。そう思い、名前へ顔を寄せれば――
「! ……チッ」
刹那、枕元で轟いた着信音。
小さく舌打ちをした男は、縮めていた距離を戻してから、携帯を掴む。
「プロント。……ああ」
相手は同じチームの仲間。
邪険にあしらうわけにも行かないので、彼の頷きだけが室内に響き渡った。
「ああ……ああ……、はあッ? 今すぐ来い、だァ?」
こっちは恋人との時間を過ごしたいというのに、タイミングの読めない奴らだ。
「チッ。わーったわーった……待ってろ」
了承を言い放った途端、携帯をベッドへ放り投げ、シャツを羽織る。
そして、いつもの≪プロシュート兄貴≫に早変わりした彼は、いまだ寝転んだままの名前の元へそっと歩み寄った。
「……名前、悪い。夕方には帰る」
潤った髪。
指通りの良いそれを手で梳かしながら、眉尻を下げる男。
しばらく感触を確かめていたプロシュートは、ゆっくりと彼女に言い聞かせるように呟く。
「料理はオレがすっから、お前は絶対に動くんじゃねぞ? 愛してる女に怪我なんてさせられねえからな」
いいか?
過保護だと周りに思われても構わない。
これが自分の愛し方だ。
すると、朝日に照らされた名前の顔を見下ろして、自然と心に広がる≪愛しさ≫。
「ったく、名前よお……お前はいつまで経っても綺麗で困るぜ」
「なあ、名前?」
目の前には、≪もう動かない≫恋人。
苦しむ間も与えないほど強力な毒を盛った。
白く滑らかな肌を隅々まで念入りに洗い――程よい肉付きの躯体も、疲労を交えつつもそれを見せない表情も、決して誇示しなかった美しさも、すべてすべて壊れてしまわないよう≪保存≫した。
スタンドもあるので毒薬などは基本必要としないものの、自分だってギャングだ。
そういう薬は嫌でも耳にしたことがあった。
「つっても、まさか自分が使うことになるとは……お前と出会うまで思わなかったけどな」
薬品で覆われた滑らかな皮膚を、柔らかな頬を、どこまでも慈しむようになでる。
それから、先程は邪魔されてしまったが、今度こそ軽い口付けを微動だにしない名前に落とすプロシュート。
だが、その唇の冷たさに、少しばかり苦笑した彼は念を押すように言葉を紡ぎ出した。
「おいおい名前……今は真夏じゃあねえんだ。外も寒い。……≪身体、冷やすなよ≫?」
何度声を震わせども、答えは返ってこない。
否、それでも良い。
彼女にとって、自分が≪最初で最後の男≫であること。
それは未来永劫変わらないのだから。
「名前、――――」
飽きることなく吐き出される愛の言葉。
ひどく狂気を帯びたテノールが、二人の部屋に虚しく響いた。
とあるeternal love
――待っていたのは、予期すらしなかった≪永遠≫。
![](http://img.mobilerz.net/sozai/1616_w.gif)
お待たせいたしました!
プロシュート兄貴で、ヤンデレでした。
じゅん様、リクエストありがとうございました!
兄貴のヤンデレは初の試みだったのですが……ご希望のイメージに添えられていましたでしょうか?
感想&手直しのご希望がございましたら、お願いいたします!
Grazie mille!!
polka
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