※Sヒロイン=ヒロインが攻めです
※愛のあるSM裏
「はい、これ敵対組織の資料」
三日月だけが夜空にその姿を見せる丑三つ時。
名前は恋人のイルーゾォの元で、仕事によって得た資料を手渡していた。
パッショーネの諜報部。
他のチームが暗殺部隊と関わらない一方で、この部隊だけは密に連絡を取り合っている。
「あ……そうだった、ありがとう。名前」
「ううん、気にしないで。この資料をリーダーさんに渡しといてくれればいいから」
恋愛と仕事。
どちらの面においてもパートナーである二人は、こうして夜中に会うことが常となっていた。
「了解、助かったよ。さすがに≪何も知らず≫じゃ遂行しにくいからな」
「……ほんと情報すらないなんて……どこかの怠けてる部隊より、よっぽどイルーゾォのところの方が働いてるのにね」
「ははは、は……名前の大胆発言にはいつも驚かされるよ」
「だって本当のことでしょ? それに、こんな一諜報部員のぼやきに躍起になってるようなら、私たちのいる組織も大したことないってことよ」
ふん、と息ですら不満を表しながら、彼に背を向ける名前。
自分は暗殺を専門としないが、チームの苦労は恋人の話や噂からよく理解している。
だからこそ、今の彼らへの待遇に不満を持っている一人なのだ。
「え、あっ、名前……!」
「何? どうかした?」
「……今日は、泊まっていかねえの?」
さっさと家に帰ってやけ酒でもしよう――そう思いつつ、鏡の枠へ手をかけた彼女に突如降りかかる声。
その慌てように振り返れば、イルーゾォがこちらへ近付いてきていた。
自分の世界にもかかわらず珍しく弱気そうな彼の目はひどく泳ぎ、どこかソワソワしている。
男の様子に対し、怪訝そうに眉をひそめた名前は、明日の予定を思い浮かべてから淡々と口を開く。
「? まあ、明日は確かに休みだけど……、何? まさか欲求不満?」
「なッ! そ、そうとは言ってないだろ! ただ、気になることがあって……」
「気になること?」
「(コクコク)」
よくわからないが、聞いてあげるべきなのだろう。
そう判断した彼女は、眉間にしわを増やしたままイルーゾォに話を促した。
「名前って、情報を聞くために口を割らせたり、してるんだよな?」
「……それがどうかした?」
しているも何も、それが自分の仕事だ。
なぜ改めて尋ねられているのか脳内で逡巡しながら、彼から次の届く言葉を待つ。
すると、
「恋愛感情はないとしても、男をこう……なんというか……性的に虐めたりして、聞き出したりしてんの?」
その発言を聞いてさすがの名前も、これでもかと言うほど眉を吊り上げた。
「性的にぃ? ……あのね、イルーゾォ。遠回しに言うの、やめない? これでも私、いろんな性癖を持ったオジサマたちと出会って来てるし、そう簡単には動じたりしないから」
「……マジ? なんでも受け入れてくれる?」
「(すごい食いつき)……、まあ」
今更ながら押し寄せる後悔。
だが、後戻りはできない。
渋々首を縦に振れば、男は羞恥を隠すように後頭部を掻きつつ言葉を紡ぎ出す。
「いや、その……できれば引かないで聞いてほしいんだけどさ」
「(もし≪今まで二股ならぬ三股かけてて、その人たちとみんなでシましょう≫とかだったらどうしよう)……うん」
「一回でいいから……オレを≪攻めて≫みてくれない?」
・・・・・・。
「は?」
しばらくの沈黙。
それを切り裂いたのは、彼女の返答と呼ぶにはひどく短い音だった。
――彼氏がM。
≪カミングアウト≫と呼ばれる告白はよくあるが、まさか自分の恋人もそうだったとは。
名前がなんとも言えない形相で考え込む一方で、イルーゾォはこちらが尋ねていないにもかかわらず、自らそう思い至った理由を話し始める。
「実は、ずっと考えててさ……セックスの時に、名前から攻められたらどうなんだろう、って。気になって最近夜も眠れないんだよ」
「……」
眠れない。そう打ち明けられた途端、表情一つ変えなかった自分を褒めてほしい。
自然と戸惑いはしないものの、己が関与する悩みで不眠症になられてはシャレにならない。
「(イルーゾォがMね……不思議とショックではないけど……)」
「……あの、名前? 誤解してたら困るから言っとくけど、オレはただ試してみたいだけだからな!?」
「試すって、それはそれでどうなのよ…………まあ、いっか」
恋人の要望――せっかくだ、叶えて差し上げよう。
ひっそりとため息をつきながらも、口角を静かに上げた彼女はジャケットを脱ぎ、キャミソール姿になった。
――私の中のスイッチを押したのは、彼の方だ。
「えっ、名前……?」
まさか承諾されるとは、思わなかったのだろう。
これまでになく目を見張る男に今度は自分から近付き、少しばかり背伸びをしつつ唇を重ねる。
チュッ
鏡の中に響く、リップ音。
「――」
「……今夜はイルーゾォがヒンヒン啼いて、その声が枯れちゃうまで、じっくり付き合ってあげる」
「!?」
にこり。
不意に、名前が艶やかに微笑んだ。
その色香といまだ残る柔らかな感触に、自分は引き返すことのできない≪デンジャラス・ゾーン≫へ踏み込んでしまったのだ、と悟る。
しかし同時に、ゾクリと今までにない快感を彼は身体の芯に覚えるのだった。
「じゃ、とりあえず裸でベッドに寝転んで」
放たれた一声。
当然心には躊躇いが生まれるが、言い出したのは自分だ。
押し寄せる羞恥を無視して、シーツに背を預ける。
「ッ」
男の身体をしばらく見下ろしていた恋人。
そして、太腿の上へ跨ったかと思えば、諜報で使えるようにと持っていた縄を手にし、名前はイルーゾォの手首をベッドの柵に繋ぎ始めた。
「ちょっ、名前!? 別に縛らなくても――」
「あ、暴れない方がいいよ。あまりにも暴れた要人を、お仕置きと称して全裸&緊縛状態で放置したことあるから」
「え」
きっとメイドさんに見つかって、悲鳴上げられただろうな――そう言って小さく笑う彼女に対し、その憐れな光景を思い浮かべて青ざめるイルーゾォ。
正直、同情せざるをえない。
「ふふ、完成」
「!」
そうこうしている間に、自分は緊縛されてしまったらしい。
素早さと的確さに唖然としたのか、動かない腕を揺らし口をパクパクとさせる彼を一瞥してから、笑みを深めた名前は白く細い首筋へそっと顔を埋めた。
一方、両方の親指と人差し指は、びくりと跳ねた男の胸の頂きをおもむろに摘まみ上げる。
「っぁ……!」
「……ふーん、イルーゾォはココも好きなんだ……んっ」
「!? ん、ぁっ、ぁあ……名前ッ」
指の腹で飾りを擦られながら、唇では頸部を吸い付かれ、否応なしに躯体は反応してしまう。
顔を出す快楽。
騒ぎ始める鼓動。
溢れる乱れた吐息。
耳たぶを柔らかく食まれれば、ますます官能をくすぐられた。
「っふ、ぅ……んっ、ああ……!」
「んん……それにしても、イルーゾォが真性のマゾとはね……諜報対象でもここまで従順な人はいないよ?」
「! ちがっ、違うって! っはぁ、はっ……オレは別に、ッぁ!?」
「口応えはいいの。今は集中して」
先程より勃ち上がった乳首を相変わらず触れていた指先に微力を込め、部屋に嬌声を響かせる。
恋人の上気した頬に、物欲しげな声色に、性感で浮かされた瞳に――今までの≪仕事≫とは異なりときめく胸。
クスッと笑った名前は、ふと現れた悪戯心から、イルーゾォの紅潮した耳に息を吹きかけてみた。
「ああ、ッ……、ん、はぁ……ぁっ、名前、っ!」
「……(なんだろう、すごく可愛い)」
子宮がキュンと疼き、その欲求に従うまま彼女は指と唇、そして舌を駆使し始める。
ピチャリと室内を支配する淫靡な音。
粟立つ産毛。
淡々と丁寧であり、同時に焦らすように愛撫を重ねていく。
「(そろそろいいかな……)」
そして、ふと考える仕草を見せた名前は、今まで一切触れていなかった下へとおもむろに手を伸ばした。
ようやく最大の性感帯に快楽がもたらされる。
期待に輝く双眼。
たが、彼女が触れたのは予感したモノとは別の場所――グロテスクに腫れ上がった陰茎の左右だった。
「男性って睾丸は好き嫌いがあるって言うけど、イルーゾォはどうなんだろ」
「!? ぁ、名前っ……そ、そこはやめ……ひっ、あああッ!」
「嫌がっても無駄。≪攻めてみてほしい≫って私に頼んだのは貴方でしょ? 実際、こっちは悦んでるみたいだし……イルーゾォの変態」
ふにふにと優しく指をバラつかせる。
すると、ますます脈を浮き出させた男根を静かに見下ろしながら、不意につーと裏筋をなぞる名前。
「ッく、ぁっ……ふあ、っああ!」
「……またおっきくなった。女に攻められながらパンパンにして、恥ずかしくはないの?」
辱める言葉を吐き、男の羞恥心を高めた。
当然、仕事ではここまでしない。
イルーゾォだからこそ、特別にしているのだ。
「はっ、はぁ、く……名前、んっ」
「どうかした?」
「先……、さきっぽも、っ……吸、てほし、っぁ……はぁっ」
喘ぎ声の中に、途切れ途切れに紡がれた単語。
いつもならば了承するが、今回ばかりは彼女も眉をひそめる。
先を吸え――つまり、口を付けろというのか。
人知れずため息をこぼした名前は、そっと天井を向いた男性器を右手で包み、
「攻められてるくせに命令するなんて、生意気」
「! うっ、ぁああ!?」
突然、潰してしまわない程度の強さで握った。
それから、ねっとりと攻め立てるように上下させていく。
「はあ、はあっ、ぁっ……ふ、んん、っ」
「すごく熱いね……でも、イくのは許可しないから」
「っん……そ、な……くッ、ぁ!」
イけそうで、イかせてもらえない。
その境界線を上手に行き来しつつ、わざと彼の口癖を使い、彼女はにっこりと微笑んだ。
一方、目尻に生理的な涙を浮かべて、弱々しく首を横へ振る男。
女の自分より溢れ出す色気に、名前はふっと苦笑気味に目を細めた。
「ふっ、ぅ……はぁ、っは……、ぁっ、?」
「……」
そして、何を思ったのか、ビクビクと波打つモノを弄っていた手を離してしまう。
苦悶からは解放されたものの、これでは快感も得られない。
イルーゾォは、ただただ傍にいる彼女を物欲しそうに見つめた。
「ねえ、そんなに欲しいの?」
「ッ……早く、名前のナカに、突っ込みたい」
「(突っ込みたいって……)ふーん」
もちろん、恋人のいやらしい姿を見て、普段通りでいられるほど名前も鍛えているわけではない。
しばらく迷いを見せたものの、心を決めたらしい。
ベッドから離れた彼女は、ボトムを足先へ落とし、ショーツを勢いよく脱ぎ捨てる。
そして、再び男の体躯に乗り上げたかと思えば、なぜか横向きで亀頭に秘部を宛てがい、彼の左足を持ち上げた。
「はっ、はぁ……名前? ……ッうぁ」
「こういう体位も、ん、っ……ぁっ、いいでしょ? っん、ぁあ……っ」
グチュン
制止をかける間もなく、快感を求めて密着する性器と性器。
騎乗位とはまた違う快感が二人に押し寄せる。
「ッく、ぁ……はぁっ、名前……ぅっ」
自分の足を支えにして腰を激しく振り始める名前。
その艶めかしさ。
互いの体液が交じり合う結合部。
モノを抱きしめるようにうねる肉襞。
「はあ、はあっ……ふ、っ……くッ」
彼女が与えてくれるすべてに、飲み込まれてしまう。
刹那、ゴクリと唾をのんだイルーゾォは、無意識に腰を下から突き上げてしまった。
「あんっ! ぁ……っイルーゾォー?」
「! ご、ごめ……つい……、ッぁああ!」
「つい、じゃない!」
主導権を握ろうとしていると思われたのか、キッと睨んでくる恋人。
可愛い――立ち込める快感の中で彼の心が綻んだ瞬間、仕返しと告げられるかのようにわざと膣に力を込められ、男はあられもなく嬌声を上げる。
すると、襲い来るのは≪限界≫。
「ッ、ぁ……名前……ふっ、ぅ、んん……オレ……!」
「んっ……まだ、ダメ。我慢して」
「! でも、っ……はッ」
「……我慢できないの?」
蔑むように呟かれるが、欲には逆らえない。
だからと言って、自分が動けばますます絶頂は遠くなるだろう。
――名前が欲しい……名前のナカに……っ!
逡巡に逡巡を重ねたイルーゾォは、先程とは異なり、達してしまわないようゆるゆると身体を揺らしていた名前に対し、自然と声を震わせていた。
「名前、はぁっ、名前……っおねが、! イきた……も、イかせて、くださ、っぁ」
「っ……もう……、わかった」
「ぁ、っ……、んっ、ぁああ!」
粘膜と粘膜が激しい音を立てて、擦れ合う。
駆け上がる興奮。
そして、今にも爆ぜそうな先端が最も狭い最奥を捉えた瞬間――
「ッはぁ、はっ……くッ、ぅ……名前、っ!」
「んっ……ぁっぁっ、いる、ぞ……あ、んん……!」
二人の快感が上擦った声と共に弾けた。
注ぎ込む感覚。締め付けられる芯。言うまでもなくそれらに酔いしれる。
ふっと小さく息を吐き出した男。
次の瞬間、静かに一物から身体を離そうとしている彼女に、彼はふわふわとした意識のまま声をかけた。
「はぁ、名前……はっ、はぁっ……またさ、こういう感じでシない?」
「……イルーゾォ、貴方ねえ」
――今日一回だけ試したいって、最初にイルーゾォが言ったんでしょ。
じとりと彼を睨み付け、紡ぎそうになった言葉をなぜか思わず飲み込む。
そんな自分に動揺しながら、期待に満ちた眼差しを浴びている名前は唇を尖らせ、
「……、たまにならね」
と呟き、彼と同じく新感覚にハマってしまいそうな自分を、彼女は心の中だけで叱りつけるのだった。
開け、サディズム!
新しい快感に、手を出してみますか?→Yes or No
![](//img.mobilerz.net/sozai/1616_w.gif)
お待たせいたしました!
イルーゾォで、愛のあるSM裏夢でした。
リクエスト、ありがとうございました!
自分から言い出すなど、イルーゾォくんが変態チックになってしまったような気もしますが……いかがでしたでしょうか?
感想&手直しのご希望がございましたら、お願いいたします!
Grazie mille!!
polka
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※愛のあるSM裏
「はい、これ敵対組織の資料」
三日月だけが夜空にその姿を見せる丑三つ時。
名前は恋人のイルーゾォの元で、仕事によって得た資料を手渡していた。
パッショーネの諜報部。
他のチームが暗殺部隊と関わらない一方で、この部隊だけは密に連絡を取り合っている。
「あ……そうだった、ありがとう。名前」
「ううん、気にしないで。この資料をリーダーさんに渡しといてくれればいいから」
恋愛と仕事。
どちらの面においてもパートナーである二人は、こうして夜中に会うことが常となっていた。
「了解、助かったよ。さすがに≪何も知らず≫じゃ遂行しにくいからな」
「……ほんと情報すらないなんて……どこかの怠けてる部隊より、よっぽどイルーゾォのところの方が働いてるのにね」
「ははは、は……名前の大胆発言にはいつも驚かされるよ」
「だって本当のことでしょ? それに、こんな一諜報部員のぼやきに躍起になってるようなら、私たちのいる組織も大したことないってことよ」
ふん、と息ですら不満を表しながら、彼に背を向ける名前。
自分は暗殺を専門としないが、チームの苦労は恋人の話や噂からよく理解している。
だからこそ、今の彼らへの待遇に不満を持っている一人なのだ。
「え、あっ、名前……!」
「何? どうかした?」
「……今日は、泊まっていかねえの?」
さっさと家に帰ってやけ酒でもしよう――そう思いつつ、鏡の枠へ手をかけた彼女に突如降りかかる声。
その慌てように振り返れば、イルーゾォがこちらへ近付いてきていた。
自分の世界にもかかわらず珍しく弱気そうな彼の目はひどく泳ぎ、どこかソワソワしている。
男の様子に対し、怪訝そうに眉をひそめた名前は、明日の予定を思い浮かべてから淡々と口を開く。
「? まあ、明日は確かに休みだけど……、何? まさか欲求不満?」
「なッ! そ、そうとは言ってないだろ! ただ、気になることがあって……」
「気になること?」
「(コクコク)」
よくわからないが、聞いてあげるべきなのだろう。
そう判断した彼女は、眉間にしわを増やしたままイルーゾォに話を促した。
「名前って、情報を聞くために口を割らせたり、してるんだよな?」
「……それがどうかした?」
しているも何も、それが自分の仕事だ。
なぜ改めて尋ねられているのか脳内で逡巡しながら、彼から次の届く言葉を待つ。
すると、
「恋愛感情はないとしても、男をこう……なんというか……性的に虐めたりして、聞き出したりしてんの?」
その発言を聞いてさすがの名前も、これでもかと言うほど眉を吊り上げた。
「性的にぃ? ……あのね、イルーゾォ。遠回しに言うの、やめない? これでも私、いろんな性癖を持ったオジサマたちと出会って来てるし、そう簡単には動じたりしないから」
「……マジ? なんでも受け入れてくれる?」
「(すごい食いつき)……、まあ」
今更ながら押し寄せる後悔。
だが、後戻りはできない。
渋々首を縦に振れば、男は羞恥を隠すように後頭部を掻きつつ言葉を紡ぎ出す。
「いや、その……できれば引かないで聞いてほしいんだけどさ」
「(もし≪今まで二股ならぬ三股かけてて、その人たちとみんなでシましょう≫とかだったらどうしよう)……うん」
「一回でいいから……オレを≪攻めて≫みてくれない?」
・・・・・・。
「は?」
しばらくの沈黙。
それを切り裂いたのは、彼女の返答と呼ぶにはひどく短い音だった。
――彼氏がM。
≪カミングアウト≫と呼ばれる告白はよくあるが、まさか自分の恋人もそうだったとは。
名前がなんとも言えない形相で考え込む一方で、イルーゾォはこちらが尋ねていないにもかかわらず、自らそう思い至った理由を話し始める。
「実は、ずっと考えててさ……セックスの時に、名前から攻められたらどうなんだろう、って。気になって最近夜も眠れないんだよ」
「……」
眠れない。そう打ち明けられた途端、表情一つ変えなかった自分を褒めてほしい。
自然と戸惑いはしないものの、己が関与する悩みで不眠症になられてはシャレにならない。
「(イルーゾォがMね……不思議とショックではないけど……)」
「……あの、名前? 誤解してたら困るから言っとくけど、オレはただ試してみたいだけだからな!?」
「試すって、それはそれでどうなのよ…………まあ、いっか」
恋人の要望――せっかくだ、叶えて差し上げよう。
ひっそりとため息をつきながらも、口角を静かに上げた彼女はジャケットを脱ぎ、キャミソール姿になった。
――私の中のスイッチを押したのは、彼の方だ。
「えっ、名前……?」
まさか承諾されるとは、思わなかったのだろう。
これまでになく目を見張る男に今度は自分から近付き、少しばかり背伸びをしつつ唇を重ねる。
チュッ
鏡の中に響く、リップ音。
「――」
「……今夜はイルーゾォがヒンヒン啼いて、その声が枯れちゃうまで、じっくり付き合ってあげる」
「!?」
にこり。
不意に、名前が艶やかに微笑んだ。
その色香といまだ残る柔らかな感触に、自分は引き返すことのできない≪デンジャラス・ゾーン≫へ踏み込んでしまったのだ、と悟る。
しかし同時に、ゾクリと今までにない快感を彼は身体の芯に覚えるのだった。
「じゃ、とりあえず裸でベッドに寝転んで」
放たれた一声。
当然心には躊躇いが生まれるが、言い出したのは自分だ。
押し寄せる羞恥を無視して、シーツに背を預ける。
「ッ」
男の身体をしばらく見下ろしていた恋人。
そして、太腿の上へ跨ったかと思えば、諜報で使えるようにと持っていた縄を手にし、名前はイルーゾォの手首をベッドの柵に繋ぎ始めた。
「ちょっ、名前!? 別に縛らなくても――」
「あ、暴れない方がいいよ。あまりにも暴れた要人を、お仕置きと称して全裸&緊縛状態で放置したことあるから」
「え」
きっとメイドさんに見つかって、悲鳴上げられただろうな――そう言って小さく笑う彼女に対し、その憐れな光景を思い浮かべて青ざめるイルーゾォ。
正直、同情せざるをえない。
「ふふ、完成」
「!」
そうこうしている間に、自分は緊縛されてしまったらしい。
素早さと的確さに唖然としたのか、動かない腕を揺らし口をパクパクとさせる彼を一瞥してから、笑みを深めた名前は白く細い首筋へそっと顔を埋めた。
一方、両方の親指と人差し指は、びくりと跳ねた男の胸の頂きをおもむろに摘まみ上げる。
「っぁ……!」
「……ふーん、イルーゾォはココも好きなんだ……んっ」
「!? ん、ぁっ、ぁあ……名前ッ」
指の腹で飾りを擦られながら、唇では頸部を吸い付かれ、否応なしに躯体は反応してしまう。
顔を出す快楽。
騒ぎ始める鼓動。
溢れる乱れた吐息。
耳たぶを柔らかく食まれれば、ますます官能をくすぐられた。
「っふ、ぅ……んっ、ああ……!」
「んん……それにしても、イルーゾォが真性のマゾとはね……諜報対象でもここまで従順な人はいないよ?」
「! ちがっ、違うって! っはぁ、はっ……オレは別に、ッぁ!?」
「口応えはいいの。今は集中して」
先程より勃ち上がった乳首を相変わらず触れていた指先に微力を込め、部屋に嬌声を響かせる。
恋人の上気した頬に、物欲しげな声色に、性感で浮かされた瞳に――今までの≪仕事≫とは異なりときめく胸。
クスッと笑った名前は、ふと現れた悪戯心から、イルーゾォの紅潮した耳に息を吹きかけてみた。
「ああ、ッ……、ん、はぁ……ぁっ、名前、っ!」
「……(なんだろう、すごく可愛い)」
子宮がキュンと疼き、その欲求に従うまま彼女は指と唇、そして舌を駆使し始める。
ピチャリと室内を支配する淫靡な音。
粟立つ産毛。
淡々と丁寧であり、同時に焦らすように愛撫を重ねていく。
「(そろそろいいかな……)」
そして、ふと考える仕草を見せた名前は、今まで一切触れていなかった下へとおもむろに手を伸ばした。
ようやく最大の性感帯に快楽がもたらされる。
期待に輝く双眼。
たが、彼女が触れたのは予感したモノとは別の場所――グロテスクに腫れ上がった陰茎の左右だった。
「男性って睾丸は好き嫌いがあるって言うけど、イルーゾォはどうなんだろ」
「!? ぁ、名前っ……そ、そこはやめ……ひっ、あああッ!」
「嫌がっても無駄。≪攻めてみてほしい≫って私に頼んだのは貴方でしょ? 実際、こっちは悦んでるみたいだし……イルーゾォの変態」
ふにふにと優しく指をバラつかせる。
すると、ますます脈を浮き出させた男根を静かに見下ろしながら、不意につーと裏筋をなぞる名前。
「ッく、ぁっ……ふあ、っああ!」
「……またおっきくなった。女に攻められながらパンパンにして、恥ずかしくはないの?」
辱める言葉を吐き、男の羞恥心を高めた。
当然、仕事ではここまでしない。
イルーゾォだからこそ、特別にしているのだ。
「はっ、はぁ、く……名前、んっ」
「どうかした?」
「先……、さきっぽも、っ……吸、てほし、っぁ……はぁっ」
喘ぎ声の中に、途切れ途切れに紡がれた単語。
いつもならば了承するが、今回ばかりは彼女も眉をひそめる。
先を吸え――つまり、口を付けろというのか。
人知れずため息をこぼした名前は、そっと天井を向いた男性器を右手で包み、
「攻められてるくせに命令するなんて、生意気」
「! うっ、ぁああ!?」
突然、潰してしまわない程度の強さで握った。
それから、ねっとりと攻め立てるように上下させていく。
「はあ、はあっ、ぁっ……ふ、んん、っ」
「すごく熱いね……でも、イくのは許可しないから」
「っん……そ、な……くッ、ぁ!」
イけそうで、イかせてもらえない。
その境界線を上手に行き来しつつ、わざと彼の口癖を使い、彼女はにっこりと微笑んだ。
一方、目尻に生理的な涙を浮かべて、弱々しく首を横へ振る男。
女の自分より溢れ出す色気に、名前はふっと苦笑気味に目を細めた。
「ふっ、ぅ……はぁ、っは……、ぁっ、?」
「……」
そして、何を思ったのか、ビクビクと波打つモノを弄っていた手を離してしまう。
苦悶からは解放されたものの、これでは快感も得られない。
イルーゾォは、ただただ傍にいる彼女を物欲しそうに見つめた。
「ねえ、そんなに欲しいの?」
「ッ……早く、名前のナカに、突っ込みたい」
「(突っ込みたいって……)ふーん」
もちろん、恋人のいやらしい姿を見て、普段通りでいられるほど名前も鍛えているわけではない。
しばらく迷いを見せたものの、心を決めたらしい。
ベッドから離れた彼女は、ボトムを足先へ落とし、ショーツを勢いよく脱ぎ捨てる。
そして、再び男の体躯に乗り上げたかと思えば、なぜか横向きで亀頭に秘部を宛てがい、彼の左足を持ち上げた。
「はっ、はぁ……名前? ……ッうぁ」
「こういう体位も、ん、っ……ぁっ、いいでしょ? っん、ぁあ……っ」
グチュン
制止をかける間もなく、快感を求めて密着する性器と性器。
騎乗位とはまた違う快感が二人に押し寄せる。
「ッく、ぁ……はぁっ、名前……ぅっ」
自分の足を支えにして腰を激しく振り始める名前。
その艶めかしさ。
互いの体液が交じり合う結合部。
モノを抱きしめるようにうねる肉襞。
「はあ、はあっ……ふ、っ……くッ」
彼女が与えてくれるすべてに、飲み込まれてしまう。
刹那、ゴクリと唾をのんだイルーゾォは、無意識に腰を下から突き上げてしまった。
「あんっ! ぁ……っイルーゾォー?」
「! ご、ごめ……つい……、ッぁああ!」
「つい、じゃない!」
主導権を握ろうとしていると思われたのか、キッと睨んでくる恋人。
可愛い――立ち込める快感の中で彼の心が綻んだ瞬間、仕返しと告げられるかのようにわざと膣に力を込められ、男はあられもなく嬌声を上げる。
すると、襲い来るのは≪限界≫。
「ッ、ぁ……名前……ふっ、ぅ、んん……オレ……!」
「んっ……まだ、ダメ。我慢して」
「! でも、っ……はッ」
「……我慢できないの?」
蔑むように呟かれるが、欲には逆らえない。
だからと言って、自分が動けばますます絶頂は遠くなるだろう。
――名前が欲しい……名前のナカに……っ!
逡巡に逡巡を重ねたイルーゾォは、先程とは異なり、達してしまわないようゆるゆると身体を揺らしていた名前に対し、自然と声を震わせていた。
「名前、はぁっ、名前……っおねが、! イきた……も、イかせて、くださ、っぁ」
「っ……もう……、わかった」
「ぁ、っ……、んっ、ぁああ!」
粘膜と粘膜が激しい音を立てて、擦れ合う。
駆け上がる興奮。
そして、今にも爆ぜそうな先端が最も狭い最奥を捉えた瞬間――
「ッはぁ、はっ……くッ、ぅ……名前、っ!」
「んっ……ぁっぁっ、いる、ぞ……あ、んん……!」
二人の快感が上擦った声と共に弾けた。
注ぎ込む感覚。締め付けられる芯。言うまでもなくそれらに酔いしれる。
ふっと小さく息を吐き出した男。
次の瞬間、静かに一物から身体を離そうとしている彼女に、彼はふわふわとした意識のまま声をかけた。
「はぁ、名前……はっ、はぁっ……またさ、こういう感じでシない?」
「……イルーゾォ、貴方ねえ」
――今日一回だけ試したいって、最初にイルーゾォが言ったんでしょ。
じとりと彼を睨み付け、紡ぎそうになった言葉をなぜか思わず飲み込む。
そんな自分に動揺しながら、期待に満ちた眼差しを浴びている名前は唇を尖らせ、
「……、たまにならね」
と呟き、彼と同じく新感覚にハマってしまいそうな自分を、彼女は心の中だけで叱りつけるのだった。
開け、サディズム!
新しい快感に、手を出してみますか?→Yes or No
![](http://img.mobilerz.net/sozai/1616_w.gif)
お待たせいたしました!
イルーゾォで、愛のあるSM裏夢でした。
リクエスト、ありがとうございました!
自分から言い出すなど、イルーゾォくんが変態チックになってしまったような気もしますが……いかがでしたでしょうか?
感想&手直しのご希望がございましたら、お願いいたします!
Grazie mille!!
polka
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