「っ、名前……!?」
太腿に擦れる少女の柔らかい内腿。
トロンとした紅い瞳。
半開きの唇から微かに漏れる熱のこもった吐息。
「ふふ……ねえ、リゾットさん」
そして、肌蹴たパジャマから覗く、白い胸元。
「わたしと……、やらしーこと、しましょ?」
「な……!?」
どうしてこんなことに――名前に跨られながら、リゾットは三十分ほど前のことを思い出していた。
〜三十分前〜
「……あと少しか」
何時間も書類と向き合っていた彼は、壁にかかる時計を一瞥してため息をつく。
――ああ、早く名前を抱きしめたい。
しかし、これが終わらないことには始まらない。
リーダーという職業柄、誰かに押し付けるわけにもいかないので、ここまでコツコツとペンを握り続けていた、が。
「名前……」
今頃、リビングでテレビを見ているであろう彼女へ思いを馳せる。
本当ならば、傍に居てほしい。
だが、仕事を貯めるわけにもいかず――そんな男の中にある葛藤を察したのか、名前自らリビングにいることを申し出たのだ。
「はあ……」
自分の部屋とリビング。
その距離たった十数メートルが、こんなにも恨めしく感じるとは。
しかも、仕事直後の癒しがないのは辛い。
ベルトにしましま。
私服へと着替える暇もなかったリゾットの口からは、いくつものため息がこぼれ落ちている。
――このままでは、過労死にはならなくとも名前不足で再起不能になりそうだ。
「……よし」
五分、五分だ。
彼女を抱き寄せるだけで――いや、キスもできればしたい。
自分にそう言い聞かせながら、回転式の椅子で後ろを振り返ったそのとき。
コンコン、コン
「! 開いているぞ」
突如響いたノックの音。
それに期待を膨らませつつ、できるだけいつも通りに口を開けば――
「あの、リゾットさん……お仕事――きゃっ!?」
「名前……!」
見えた黒髪にリゾットは勢いよく立ち上がり、控えめにドアを開けた少女を抱き寄せた。
ちなみに、黒髪という判断基準はイルーゾォとも被るので、危険なのでは――というツッコミは入れてはいけない。
一方、突然視界を覆った胸筋に、目をぱちくりさせる名前。
「え? えっと……どうか、されましたか?」
「名前に、会いたかった」
「! あ……私も、リゾットさんに会えて嬉しいですよ……?」
にこっ
照れくさそうに微笑む彼女が、こちらを懸命に見上げている。
それだけで、男はなんでもできる――そんな錯覚を起こしてしまいそうだった。
「でも……お邪魔してごめんなさい。まだ、お仕事あるんですよね?」
ふと、彼から視線を外して少女が机を見つめる。
そこには、まだ数センチはある資料の山。
それを見て、名前は申し訳なさそうに眉を寄せた。
「あの、私リビングにいますので……リゾットさん?」
「……行くな」
「!」
離れようと彼の腕の中で身を捩れば、耳を掠めた言葉。
寂しさの織り交じったそれを、無下にできるはずもなく、彼女は抜け出すことをやめた。
「わかりました……あ、でもその前に、お水を貰いにリビングへ行ってもいいですか?」
「……」
「そっ、そんな目で見ないでください……!」
「……わかった」
仕方なく、本当に仕方なく名前を腕から解放する。
そして、すぐ戻りますからと優しい笑顔で告げた彼女を見送って、リゾットは再び机へ戻った。
コンコン、コン
「名前?」
「お待たせしました……リゾットさん、お水いりますか?」
「いや、オレは大丈夫だ、ありがとう。……ところで」
その水は、メローネから受け取ったものではないな?
用心に用心を重ねて、少女の持つグラスを睨みつければ、きょとんとした表情を向けられる。
「え? これをくださったのはホルマジオさんですけど……」
「……そうか(なら安心だな)」
「?」
チームメンバーに対して酷いかもしれないが、メローネは行動が行動なので仕方ない。
いまだに不思議そうに首をかしげている名前にベッドへ座るよう促して、頷いたリゾットは書類に手を付けることにした。
「……(じーっ)」
「……名前、これがそんなに気になるのか?」
「! あ、ごめんなさい! 気にしないでください……!(言えない、書類と向き合うリゾットさんの横顔が……かっこいい、なんて)」
一人顔を赤くして、水を一気に飲み干す少女。
このとき、名前は気が付いていなかった。
「……?(なんだか、熱い……きっと恥ずかしいからだよね?)」
自分の身体に、異変が起きていることを――
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