02


その後、私はソファに座ったまま告白の練習を始めたんだけど――





「……え、っと」


「ん?」


「〜〜っダメだ!」




メローネでも、言えない!


これじゃあ兄貴の前でなんて……絶対言えないよ。




「名前〜、さすがに焦らしプレーも飽きたんだけど」


「うっ、わ、わかってます! でも、恥ずかしくて……メローネをメロンやジャガイモに見立てても、言えないの!」


「メロンはまだしも、なんでジャガイモ……」



ぶつぶつ言ってるけど、私はそれどころじゃない。


そろそろ兄貴帰ってきちゃうし!



「大体さ、緊張するほど長いセリフでも吐くつもりなのか?」


「……え?」


「好き。それだけで十分だろ」




……そっか。


兄貴の長台詞ばかり聞いてたから、長くしなきゃいけないとばかり思ってた。




メローネにしては、いいこと言う!



「うん……うん、そうだね。その言葉が大事なんだ」



好き。


兄貴の笑顔、頭をなでてくれる手つき、香り。



切なく締め付けられる胸をグッと両手で押さえながら、彼のすべてを思い浮かべて――





「……好き。好きなの!」









ガンッ








「!?」


「あ。おかえり〜、プロシュート」



何かが床に落ちる音。


慌てて振り返る名前を見ながら、メローネがドーナツの箱を落とした張本人の名を口にした。




「……」


「あ……あに、き」





少女は、驚きと羞恥で戸惑っていた。



しかしそれ以上に――


――兄貴、何か怒ってる?




こちらを見下ろすプロシュートが怖い。


――聞かれちゃった、よね。



つまり、告白に対する答えが、この表情なのだろうか。


「っ……」



じわりと浮かぶ涙。


それを見られないように、名前が静かに俯こうとすると――




「来い」


「あ、えっ?」




掴まれる右腕。


引き寄せられるそれにつられるように、わけもわからないまま立ち上がる。



「あ、兄貴! あの……っ」


何も答えず、ただただ彼女を連れて歩き始める男。



ちらりとメローネを見れば――なぜか笑顔でこちらに手を振っているではないか。




――このっ、ひ、人でなしィィイ!


あくまで傍観を貫く彼に、少女は心の中で叫んだ。











「っ、兄貴……早い、よ!」


「……名前」



進む廊下。


名前が困惑するなか、ようやく足を止めたプロシュートが静かに口を開く。




「な、何?」


「お前……なんでメローネなんだよ」


「……へ?」


「言ってたじゃねえか。好きって」



刹那、そのときの状況を思い出し、彼が≪とんでもない誤解≫をしていることに気が付く。




――ち、違うよ、兄貴! 完全に誤解してる!


しかし、すぐさま弁解したくても、させてもらえない空気というものがある。



「オレは……お前が恋したって言うなら、応援してやるつもりだ」


「!」


「だが、今回ばかりは賛成できねえ」




応援――再び訪れた胸の痛みに堪えていると、そっと解放される自分の腕。



「……腕、悪かったな」



そう言って、こちらを見ずにプロシュートが歩き始めてしまう。




遠のく彼の背。


――兄貴、誤解だよ。待って、私……私が好きなのは……!





「待って!!」



気が付けば、彼を追いかけその背中に抱きついていた。




「……おい、名前。動けねえだろうが、離せ――」


「私が! 私が好きなのは、兄貴なの!」


「は?」



素っ頓狂な声。


それも無視して、少女は思いの丈を叫ぶ。



「兄貴が好きなの! さっきは練習に付き合ってもらってただけで……たとえ兄貴にとっては妹分でも、私は兄貴が好き!」



言った。言ってしまった。


反応すらない男に、回していた腕を外そうと動けば――







「ったく。オレを欺こうたぁ、やってくれるじゃねえか」


「へ? ……わっ!?」



目の前には温かい肌色。


頭上から届くため息と苦笑。



名前は、プロシュートに抱きしめられていた。





「あ、あああ兄貴!? 何を血迷って……」


「血迷ってなんかねえよ。それに――」


「え……ん、っ」



唇へ落ちてくるキス。


これでもかと言うほど目を見開くと――にたりと笑った彼がよく見える。



「最初から、オレはお前を一人の女として見てんだ」


「!」



――う、嘘……そんなわけ……。


ない。

信じられなくて、口を開こうとすれば、再び柔らかく少しだけ乾燥した唇で塞がれてしまう。


「んっ……は、っあに、き」


「黙ってろ」


「んんっ!?」



刹那、少女の口内を荒らし始める舌。


耳を直接突き刺す、唾液の交り合う音。



焦らすような遅さで歯をなぞられ、己の舌を吸い上げられる。



その、今まで感じたことのない≪痺れ≫に、自然と名前はプロシュートにもたれかかっていた。



「……オレに妬かせた罰だ」


「っは、はぁ……ぇ? 妬く、って……」


「お前の部屋、行くぞ」


「……ひぎゃっ!?」



いとも簡単に身体を抱き上げられる。


それに驚き、声を上げれば――男が鼻で笑った。



「ハン、色気がねえなあ」


「! っそ、そんなこと、言われたって……!」


「まあいい。今から存分に、やらしく啼かせてやるからな」


「!?!?」


声にならない声を上げる少女。



その初々しさに喉をくつくつと鳴らしながら、プロシュートは再び足を動かし始めた。




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