02



夜。



ギシッ


「ん……っ?」


仕事から帰るはずのリゾットを待っている間に、眠ってしまっていたらしい。


突如、ベッドの軋む音が耳に届き、ゆっくりと瞼を開けた名前は、こちらを見下ろす赤い瞳にギョッとした。



「り……リゾットさん……?」


「ただいま、名前」


「おかえりなさい……あ、あの?」



これではまるで、押し倒されているようだ。


困惑しながらも彼を見上げていると――ある違和感を覚えた。



「あれ? リゾットさん、今歯が……」


自分と同じ鋭さを持ったような八重歯。


さらに言えば――



「え? 黒マント……?」


どうしたというのだろうか。


まるで、本当に吸血鬼になってしまったかのようだ。

深紅と黒がちらちらと映る視界に、戸惑うしかない名前。



すると――



「メローネから聞いた。名前がオレの仮装を見たいと」


「っえ!?」


「……違う、のか?」



しゅん。自分の上で落ち込む彼に、少女は慌てて首を横に振った。



「ちっ、違いません! 違いませんけど――」


「そうか。じゃあ、この言葉を言ってもいいんだな?」


「へ?」








「名前――トリック・オア・トリート」


「っ!」



耳を掠めた彼の吐息。

その心を痺れさせる声に、思わず肩が震えてしまう。



「名前?」


「っ……あの、キッチンにお菓子が」


「ダメだ。今すぐ欲しい」


「!?」



無茶だ。相変わらず左耳へ囁きかけてくるリゾットを、ただ見つめることしかできないでいると――




「……わかった」


「え……ひゃっ!」


「お菓子がないなら、決まりだな」



オレの≪大好物≫をもらおう。


淡々と――だが、かなり弾んだ声で呟いた彼は、おもむろに少女のパジャマへ手をかけた。



「ぁっ、だ、ダメです……!」


「……なぜだ?」


「なぜって……それは、その」



男の手を両手で止めつつも、理由を問われ言いよどんでしまう。

すると、リゾットはふっと笑った。



「まあ……拒否しても無駄だが」


「え?」



どういうことですか――そう尋ねようとした次の瞬間、ひやりと冷たさを感じた首筋に、名前は目を見開く。


「り、リゾットさ……ぁっ!?」


「やはり白くて触り心地がいいな、名前の肌は」


「ひぅッ……首、やぁ!」


「本当に、食べてしまいたくなる」



ぽつり。

彼の言葉を頭で反芻させていると、ふと首筋が捉える鋭い感覚。




そして――

「ぃっ……ぁあ!」


「どうだ? いつも血を飲んでいる男に吸われる気分は」


「っは、ぁ……はぁ、やめてくださ――」


「オレは最高だ」


「ああっ!?」



ふわりと鼻を擽る愛しい彼女の香りを堪能しながら、リゾットは≪吸血鬼≫のように首筋を吸い上げた。


「ふ、ぁ……んんっ」


「ん……」



いやいやと示すかのように、弱弱しく首を振る名前。


しかし、彼は熟知していた。



本当に嫌ならば――この少女はそのような拒絶の仕方をしないと。


「はっ、はぁ、はぁ……ッリゾット、さん」


「名前……」



いいか?

確認の意味を込めて、彼女の熱に浮かされ始めた瞳を見つめる。


――まあ、たとえ今首を横へ振られても、やめてやれそうにないのだが。


名前のすべてに翻弄されている。


もちろん、それが嫌ではなくむしろ嬉しいのは、愛ゆえなのだろう。

明らかに変化した自分――それを客観的に見て、思わずリゾットが自嘲の笑みを浮かべていると――



「ッ……」


ぎゅう。



「! 名前……?」



上体を起こし、自分の首へ腕を回して抱きついてきた少女。


その予想外の行動に、彼は目を丸くすることしかできない。



「名前、どうした?」


「……さい」


「え?」





「だっ……抱いて、ください……!」


「!?」



少しだけ急くような声。


首元に当たる、欲のこもった息。


己の肌がはっきりと捉える、心配してしまうほど速い鼓動。



脳髄が、クラリとした。



――ああ、本当にこの子は――





「ひゃんっ」


「……無論、そうするつもりだ」




オレを、煽るのが上手い。




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