01
※連載ヒロイン




「おっはよー、名前!」


「あ、おはようございます、メローネさ……え?」



10月31日の朝。


リビングへ足を踏み入れた名前の視界に、飛び込んできたのは――



「どう? どう? 似合ってる?」


「え、えっと……すごくお似合いなんですけど……それは?」


「ん? ああ、この衣装はインキュバスだよ?」



頭に角のようなものをつけ、背中には黒い翼。


下に何も履いていないように見えることはあえてスルーして、少女は首をかしげた。



「インキュバス、って夢魔で知られるアレですか?」


「そうそう! ……あれ、もしかして名前、今日が何の日か気づいてない?」


「今日……あ」



ちらりと一瞥したカレンダー。


そこには≪Halloween≫の文字がくっきりと刻まれていた。



「そっか……ハロウィンだから、メローネさんは仮装していたんですね」


お菓子用意しないと――後でキッチンを借りようと考え、にこにこ微笑んでいた彼女にメローネがほくそ笑む。


「と、いうわけで!」


「……え、これは?」


突如差し出された、二着の服。

その明らかに怪しい雰囲気を放つそれらに、名前は一歩引き下がる。


「いろいろ迷ったんだけどさー、名前に似合うのってやっぱスリット入り+ガーターベルト、さらに胸元が開いてる修道服か――」


「あ、あの、メローネさん? 私、仮装するつもりは――」


「おっと、仮装しないとは言わせないぜ。どうしてもセクシー修道服が嫌だって言うなら、もう一着……サキュバスの格好でもいいんだよ?」


おかしい。その選択肢は明らかにおかしい。



「え、ええっ」


「さあ! どうするどうする?」


オレはサキュバス推し!

と叫び、最低限の布しかないそれを押し付けるメローネに、目をぐるぐる回して困惑していると――




ドカッ



「ベネッ!」


「メローネさん!?」



衣装とともに彼が吹っ飛んで行った。



「ったく、油断も隙もありゃしねえ……名前も断りきる力をつけろ」


「プロシュートさん……」



ありがとうございます。そう口を開こうとして、彼の格好に少女は絶句した。


「お、狼さん……?」


金に輝く髪にその存在を示す、茶色い耳。


さらに、尻尾や手まで仮装していることから、本格的だと言わざるを得ない。



「ハン、どうした、名前?」


「い、いえ……皆さん、想像以上に楽しんでいらっしゃるなあって」


「……ま、オレもコスプレとやらに興味はねえが、狼に仮装すれば遠慮なく名前を食えると思ってな」


「え?」



今、何か不吉な言葉が――したり顔で言うプロシュートに、一瞬にして名前が青ざめたそのとき。



「兄貴ー!」


「おお、ペッシ! お前も、ずいぶん乗り気じゃねえかッ!」


自分より青ざめた――いや、青い男がやってきた。



「ペッシさん……それは」


「へへ、フランケンシュタインです」


照れ臭そうに頭を掻くペッシ。

ずいぶん可愛らしいフランケンシュタインだ。



「ははっ、お前らすげェな!」


「あ、ホルマジオさんも、おはようございま……きゃあ!?」


次に現れたのは、真っ白なホルマジオ、もとい包帯男。



「おい、ホルマジオ。名前を驚かしてんじゃねえ」


「悪ィ悪ィ! しっかし、これじゃあ暗殺やってる奴らとはきっと思われねえなァ」



それはそれでどうなのだろうか。


厳重に巻かれている包帯から口を覗かせ、笑った男にツッコミを入れるべきか名前が考えあぐねていると――





「許可しないッ、許可しないィィイ!」


今度は黒い物体が少女の胸へ飛び込んできた。



「い……イルーゾォさん?」


「名前ーっ!」



強くなる腕に困惑した様子で見下ろせば、視界を覆う黒いとんがり帽子。


どうやら、彼は魔法使いに扮しているらしい。


だが、なぜ泣いているのだろうか。



「あはっ、待ってよ、イルーゾォ! そんな全身真っ黒じゃなくて、こっちの短い奴にしろって!」


「きょ、許可しないッ!」



やはり、犯人はメローネだった。





「オイ、テメーら! 朝っぱらからうるせえんだよッ!」


いつもより騒がしいリビングに、目が覚めてしまったのだろう。


キレた状態で皆の元へ歩いてきたギアッチョ。


しかし――



「……」


「……何見てんだ、名前」


「ぎ、ギアッチョさん……それで寝ていらしたんですか?」


「ア?」


何をわけのわからないことを。それにしても今日は温かい――おもむろに自分の服装を見て、男は驚愕した。



「な、なんじゃこりゃアアアアアッ!?」


「あっはっは! やっぱギアッチョ、お前にはホワイト・アルバムだよな!」


「……ッメローネエエエエエエ!」


やはりこれも、メローネの仕業だったらしい。



低血圧のうえに、自分のスタンドを仮装扱いされたからか、誰にも手の付けられないギアッチョと爆笑し続けているメローネ。


そんな二人の追いかけっこ――というにはシュールすぎるそれを眺めながら、名前はあることに気付き周りを見回す。



「リーダーは、今日仕事らしいぜ」


「! そ、そうなんですか……」


「なんだあ? 名前、まさかリゾットの仮装を期待してたのか?」


「っ……///」



年長組――ホルマジオとプロシュートに囲まれ、萎縮しながらも小さく頷いた少女。


――リゾットさん。なんでも似合っちゃいそうなんだけどなあ。


「ったく、残念そうにしやがって。まあ、あいつは基本仮装とかしねえからな」


「名前のコスプレについてなら、喜んで話し始めんのになァ」


「……」



とても残念だが仕方ない。


このとき、こっそり落ち込んでいた名前は知る由もなかった。



自分の期待が、どのようにして返ってくるのかを――




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