終焉のハジマリ


※短編『隠れたがりの私と、』の続き
※相変わらずリーダー病んでる?
※裏








「……さあ、オレたちの家に着いたぞ……おかえり、名前」


「ッ……ただ、い、ま……」



横抱きにされたまま、視界に映るのは見慣れた空間。

電気のない、薄暗さがより名前の身体を恐怖で震わせる。



「ん? どうした、そんなに震えて……ああ、そうか。あの男に嫌な目に遭わされて、怖かったんだな? 大丈夫だ……アレはもういない。オレが消してやった」


「……っ」



あの人は何も悪くない――そう言えたらどれだけ楽なのだろう。

しかし、本当のことを告げるということは、少女にとっては同時に自分を追いつめるということだった。


この地獄より、≪死≫は楽なのだろうか。

恐怖の対象である男の胸元で、そっと目を伏せる。


すると、リゾットは本当に嬉しそうに笑うのだ。


「名前……そうか、≪喜んで≫くれたのか。まったく……もっと顔に出していいんだぞ? まあ、引っ込み思案のお前も愛おしくて仕方がないが……そうだ。風呂に入ろう。この≪汚れ≫を早く取らなければ、名前が可哀そうだ」



連ねられていく言葉。

昔はもっと無口で、口下手な人だったはず――そこまで考えてかけて、名前は小さく首を振る。


≪どこで間違ってしまったのだろう≫。


それを思い返し始めれば、堪えに堪えていた心が潰れてしまいそうだった。









いつも通り、彼と一緒に入る浴室。


「ああ……あんなモノの血が付いて……名前にとても似合っていたが、仕方ない。この服は捨てよう」


「正直に言うと、まだ許せないんだ。オレの名前を汚したこと……その罪は重い。こびりついた血、匂い、空気……触れたモノすべてを丹念に……丹念に洗い流してやるからな?」


「名前の肌は柔らかくて、甘い……この白いうなじも、華奢な肩も、なぞると小刻みに震える背中も、オレを受け入れる腰も、滑らかなココも……すべてだ。すべて、オレをこんなにも魅了する……」



男の口から次々とこぼれていくそんな戯言を、必死に聞き流す。

全身――本当は触れてほしくない場所もねっとりと弄られながら、早く終わってほしいと下唇を噛むことしかできない。


耳を塞げば、背後から自分を抱き寄せ、大きな手で泡をいやらしく擦り付けてくるリゾットを、嫌な意味で刺激しかねなかった。





もちろんそれは、食事のときにも言えることだ。


「……ごちそう、さま」


「ん? はあ……名前、言っただろう。ちゃんと食べろ……ほら」


「! んっ……んん!」



無理矢理口を開けさせられ、流し込まれる何か。

そのまま嚥下した名前の姿を見て、スプーンを手にしたリゾットはひそかに口端を吊り上げる。


「そうだ……いい子だな。今日はかくれんぼで疲れただろう。そのことも考慮して、食べやすいモノにしたんだ……美味いか?」


「ッおいし……い」


「ふ……それを聞いて安心した」


俯く頭にそっと温かな手が乗せられ、ゆっくりと髪をなで始める。

珍しい、と思った。

何もない――ただただ美味しい食事。



≪普通≫だからこそ、助長されてしまう彼への恐怖。


かくれんぼ。

そう言いつつも、心の中で静かな怒りを燃やしている。


この人は、そんな男だ。



いっそ、≪毒≫でも仕込んでくれたら――どれだけそう考えただろう。



しかし、リゾットがそれらに混入していたのは、まさに別の≪毒≫と呼ぶべきモノだったのである。









「……ん、っ……?」



いつの間にか眠ってしまっていたらしい。

食事をした後の記憶がない。


寝ぼけ眼のまま、目を擦るために手を伸ばそうとして――名前はありありと感じる≪違和感≫にギョッとした。



「っぁ……ああ……いや、いやっ!」


いつも眠るベッドの鉄柵に繋げられた手首。

見下せば、一糸まとわぬ自分の身体と、開かれた状態で結ばれている足首。



ギシッ、ギシッ


必死に身を捩らせても、ベッドの脚が軋み、ただ繋がれた箇所に痛みが増すだけ。



痛い。


怖い。


助けて。




――そのときだった。




「ああ、クスリが切れたのか。名前……おはよう」


「っ!」


こちらを覗き込む男。

その手には、今まで読書でもしていたのか、数センチにも及ぶ本が収まっていた。


一見、恋人のワンシーンに似ている空間。

だが自分を眠らせ、こんな体勢にしたのは、この男――リゾット自身だ。



「おね、がい……っ離して……!」


「ん? なぜ、そんなことを言う。名前の裸はこんなにも美しいのに……」


「! ひあぁっ」



ベッドの脇に座ったかと思えば、遊ぶように弾かれる胸の突起。

頭から足にかけて――全身に走った甘い痺れに、少女は一瞬何が起こったのかわからなかった。



「は、っはぁ……な、に?」


「……≪こちら≫は継続中、か。名前、辛いか?」


「っ……つら、くなんか……」



疼く性感帯。

それを懸命に堪えながら、半開きの唇から荒い息を漏らす。


何を仕込まれたか――理解できたからこそ彼の思うようにはなりたくなかった。


一方、リゾットは彼女のその反応すらも予想通りだと言うかのように微笑し、おもむろに乳房を掴んだ。



「! ぁっ、揉んじゃ……あん!」


「辛くないんだろう? なら、いつも通りの愛撫をするだけだ……ん? 乳首がもう赤くなっているぞ」


「やぁっ! はぁ、っは……やらっ、やらあッ!」



突起を口に含まれ、チュパと生々しい音を立てられる。

強すぎる刺激に、抵抗も忘れ嬌声を上げる名前。


そして、自然と揺れ始めた少女の腰を一瞥して、笑みを深めた男は己の指と舌の動きを速めた。




「あっ、あっ、ああっ……らめ! イっちゃ、わたしっ、イっちゃ……っひぁああ!」



押し寄せる快感。

それに委ねざるをえない状況で、名前は一層身体を跳ねさせ、力なく果てる。


しかし、休む暇を与えないと言うかのように、そのまま愛撫を続けるリゾット。

もちろん、下半身には≪まだ≫手を付けていない。


「!? いやッ、いやぁっ……も、イきたくな……ぁあっ!」



自分によって植えつけられた快楽。

プシュッと液体を噴き、目を虚ろにさせる愛しい少女に、二度目、三度目、四度目――と彼は連続と呼べる絶頂を強引に迎えさせた。





その後、数えきれないほど胸を弄られ、イかされてしまった名前は、男に足首の傷痕をねっとりと舐められていた。


「はっ……はぁ、はぁ……っも、いやぁ……あんっ」


布が擦れてできた赤い傷でさえ、今や性感帯となって自分を攻め立てる。

自由が利かない状況下で、責苦と言える愛撫を享受するしかない。


そして、その的は白いシーツに大きなシミを作ってしまうほど感じ入った秘部に移ろうとしていた。



「……名前。こんなに愛液を溢れさせて……まるで乱れたあまりに粗相をしてしまったかのようだな」


「! ぁっ、ちが! ちがう、のぉ……!」



力の入らない首を必死に横へ動かす。

だが、己の辱める言葉で目の前にある花弁はますます潤っていくではないか。


自分が開発した――その事実を確信するだけで、喜びに震えるリゾット。

そして、ズボンの下で自身が張り詰めるのを感じながら、まだそのときではないと叱咤し、彼は雌の香りが強まる秘境へ顔を近付け――



「ひぁあっ! やっ、したッ! 掻き回さ、なっ、でぇ!」


相変わらず狭い膣内へ舌を差し込み、愛液を容赦なく吸い上げる。

ジュル、ジュルと音をわざとらしく立てれば、掴んでいる足はビクリと揺れた。


「ふ……入れたモノまでわかるようになるとは……名前もずいぶん淫乱に育ったんだな」


「っひ、ぁっ、あっ……いんら、ん……じゃない、ぃっ!」


「……どうだか」


「っぁ、ぁあああッ!」


指で時折刺激される陰核。

意図せずとも高くなる喘ぎ声。

また、イかされてしまうのか――ふわりとする頭の中で、名前が覚悟を決めたそのとき。



「っ、はぁ、ぁっ…………え?」


不意に快感が消えた。

きゅうと瞑っていた目を薄らと開ければ、リゾットがベッドから離れようとしている。

それを凝視していると、男はいつもと変わらない優しげな笑みで今の彼女にとっては残酷な言葉を吐いた。



「今日はこれで終わりだ。ずいぶん胸だけで達してしまったようだしな……名前も、疲れただろう? ゆっくり休むといい」


「!?」



――試されている。

彼は、自分が≪どうしてほしいか≫を理解しているのだ。


――思惑通りになりたくない。

――絶頂を迎えたい。

――彼に囚われたくない。

――イきたい。



「……ッ」

迷いで揺れているであろう目。

そこからふっとリゾットが赤い瞳を外した瞬間、名前は己の矜恃も忘れて口を開いていた。



「ぁっ……待って!」



「……どうした?」


「っ、あ、熱いの……くださ、いっ」



ドアノブを掴んでいた手。

それを静かに離し、彼が口元を吊り上げる。


「熱い? それではよくわからないな」


「! ぁ、えと……っ」


「……誰の何を、誰のどこに欲しいんだ?」




「〜〜っ、り……リゾットの、あつ、いモノ……名前の、ナカに……っぁ」


「名前が言うなら、仕方ないな」



服をあっという間に脱ぎ捨て、ベッドへ乗り上げた。

久方ぶりに呼ばれた己の名前も、快感に絆されたと証明する卑猥な誘い言葉も、羞恥に塗れた表情も――たまらない。

熱に浮かされた目を見下ろしながら、顔の横へ両手を置く。

そして、膨張した性器の先端を、ヒクヒクと震える花弁に焦らすように擦り付けた。


「名前……ッ」


「ぁ、っひぁああ!」



グチュリ

潤滑油のような愛液に導かれるまま、狭いナカを侵していく。


「はぁ、っはぁ……ぁあっ、あっ、ん」


肉襞が捉える≪熱≫。

打ち付けられることで生まれる淫靡な音。


「っ、ぁ……?」


しかし、彼の肉棒がイイ点を掠めるたび嬌声を漏らしていた名前は、ある≪違和感≫に気が付く。






いつもは二つの肉を隔てている、≪壁≫がないのだ。



「! っぁ、やっ、いや……やぁああ! ぬいッ、ぬいて、ぇ!」


「どうした? ……ああ、≪ゴム≫のことか。名前が自ら誘ってくれたんだ。もう、オレたちには≪必要ない≫だろう?」


「!? そう、じゃ――」


「それに。抜いてほしいと言うなら、追い出してみたらどうだ……こんなに締め付けて」


「ひっ、ぁ、っあん!」



そんな挑発を吐きながらも、追い出させてくれる気はまったくない。

より身体を密着させ、膣内や子宮口を突き、耳の中を舌でねっとりと蹂躙し――リゾットは囁き続ける。




「名前、名前、ッ名前」


「っいや! おねがっ、ナカ……ナカは、ダメぇっ……!」



――逃がすつもりはないのだと。


結合部から漏れ出す歪な音に重なる、名前の悲鳴。

彼女のことはよく理解している。



ここから時折抜け出すのは、自分に構ってほしいだけ。

何をするにつけても嫌と言うのは、自分が他のモノに目移りしないため。

そして、今日は名前にとって――≪一ヶ月に一度訪れる大切な日≫。



「ッく、名前……出す、ぞ……!」


「ひぁっ、な、ナカはらめ! やら……いやっ、ぁっ、あっ――いやぁあああッ!」



直接注ぎ込むかのように、最奥で吐き出す白濁液。

ドクリ、と爆ぜる熱いそれに、ただただ少女は泣きじゃくりながら受け入れることしかできない。



「ひっ、ぅ……ぐすっ……ひっく」



すべて、計画通り――彼の手のひらで転がされていたのかもしれない。






「……楽しみだな、名前」



己の下腹にそっと手を置き、静かに呟いたリゾットのあくまでも純粋な笑みが、そう語っているような気がした。








終焉のハジマリ
――本当のオワリは、いつ?









お待たせいたしました!
短編『隠れたがりの私と、』の続編で裏でした!
なんというか……このような終わり方でよかったのか、むしろ続きがありそうで怖いですが、捧げさせていただきます。


カリン様、リクエストありがとうございました!
感想&手直しの希望がございましたら、ぜひとも教えてくださいませ。
polka



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