Vanigliaが香る


※リーダー夢
※同僚ヒロイン
※微裏甘?






懐かしい、よく流行ってたなあ、と思ってただつけただけだった。

別に他意は――なかったんだよ?




「ふう、乗っけてくれてありがとう。ギアッチョ、お疲れ」


「チッ、テメーもな」



仕事が終わり、アジトに戻った直後のこと。

ギアッチョが運転する車から降りた私は、いつも通り部屋に戻ろうと歩き出した。


けれども。


「……オイ」


「え?」


「今日、なんか違うくねえか? はっきりとわかんなくてよオオ、イライラするぜ……ッ!」



指先をトントンと鳴らして隣に並ぶ男。

ぶつぶつと呟かれていく文句に相槌を打ちながらも、私は質問の答えを必死に探す。



――違うところ、違うところ……うーん。


「何か……あ、下着は新調したよ?」


「へえ、下着を……って、そうじゃねエエエエッ!!」


「うわっ。もう、耳元で叫ぶのやめてよ」



この子のイライラスイッチには慣れたけど、大声だけはやめてほしい。

両耳を手で塞ぎつつじとりと彼を睨めば、ふとその大音量だった声が止んだ。



「?」


「……ケッ、甘ったるいと思えば……そういうことかよ」


「は? ちょっとギアッチョ、あんた何一人だけ納得して――」


「オイ名前! 今日はテメーが報告行けよ!」



私の言葉を遮って、ずんずんと先に行ってしまったギアッチョ。

……どういうこと?


「さっきまで自分が報告行くって言ってたくせに……」



わからない。

だが、報告をしなかったら大目玉を食らうのは(一応先輩である)私だ。


しょうがない、行くか――アジトのリビングに足を踏み入れながら頷いていると、ソファで酒を煽るホルマジオと目が合った。



「よォ、名前! 今、帰りか?」


「うん。って、ホルマジオ……あんた、とてつもなく酒臭いんだけど」


「おいおい、何年経っても失礼な女だなオメーはよォ……まあ、そこがイイところでもあっか。せっかくだし、報告終わった後でもちょっと付き合えよ」


「んー、そうだね。じゃあ、オススメ用意しといて」



軽く言葉を交わして、廊下に出る。

――ホルマジオ、選ぶお酒はピカイチだからなあ……楽しみ!


久しぶりに味わえるであろうお酒に心を躍らせながら、自分の部屋の前を通り過ぎた。


少しすれば、我らがリーダーの部屋がある。



――そういえば……なんでギアッチョ、私に報告押し付けたんだろ。


まあ、別に何か思惑があるわけではないだろう。

一人で自己完結に至った私は、目の前に現れた扉をノックもせずに、勢いよく開け放った。



「リーダー!」


「……名前。せめてノックはしろ」


「いいじゃない、別にリーダーがやましいことしてるわけじゃあないんだし……それとも何? ≪お取込み中≫だった?」


「……はあ」



視界に映る、パソコンと向き合った状態の彼。

――ほら。やっぱり≪仕事しか≫してないじゃない。


リーダーの口からこぼれ落ちるため息を無視して、おもむろに報告書を渡す。



「はい。今日の報告書」


「ああ……すまない。ご苦労だった」


「ん。じゃ、私戻るから」



自分の手から書類が消えたことを確認して、そっと彼から離れた。

ちょっぴり寂しいけど、感情は二の次。


≪公私混同はしない≫。


それは、リーダー――ううん、リゾットとそういう関係になったときから私が自分自身に与えた、戒めだ。

もっとも、最近は忙しいのか≪公≫が≪私≫に打ち勝っちゃってるんだけどね。


でも、顔には出さない。



――だって、付き合えただけでも……十分幸せなんだから。




「……待て」


「えっ」



突如掴まれた左手首。

慌てて振り返れば、回転式の椅子に座ったリーダーがこちらを見上げている。



「何? どうしたの、リーダー」


「……」


「? あのー」


「お前から……甘い、香りがするんだが」



思わぬ発言に、手を離してもらうことさえ忘れて、考え込む。

――甘い? 甘い、甘い……あれ、ギアッチョも同じこと言ってたような。


そのとき、私の頭に過ったある答え。



「あ、そっか。リーダー、これだよ、これ! 香り付きのリップクリーム!」


「リップクリーム……?」



首をかしげながら、リーダーがたどたどしく言葉を紡ぎ出す。

大の男のくせに少し――いや、かなり可愛い。


――まあ、確かに縁なさそうだもんね……あってもメンソ○ータムとか?



「そうそう。懐かしいからつけてみたんだけど……確か、バニラの香りなんだよね、これ」


「バニラ……そうか」



納得してくれたらしい。

よかった。

ゆっくりと頷き、黙り込んだ彼の様子を見計らって、手首を大きな手から抜こうとするが――まだ抜けない。


――なんで!? 私にはお酒が……っお酒が待ってるのに……!



「ちょ、リーダー! いい加減、離し――」


「……美味そうだな」


「は?」



何言って――そう告げようとした私の視界を覆うのは、立ち上がったリーダーの端整な顔。

そして、唇が鮮明に捉える、しっとりとした柔らかさ。



「んっ、リ、ダー……やめ、んんっ!」


「名前……ん」


「は、ぁっ……ん……ふっ、ぅ」



後頭部と背中に回される無骨な手。

チームを取りまとめる大きなそれに勝てるはずもなく――私はただただキスを受け入れるしかなかった。



「はっ、はぁっ……バカ、何すんのよ……!」


「オレたちは恋人同士だ。当然の行為だと思うが?」


「!? っ////」



瞳に優しさを滲ませた彼を押しのけようとすれば、さらに強くなる両腕。

途切れ途切れの息だけでなく、自然と熱くなる頬。

この人は、私を一体どうしたいんだ。



「逃げるな」


「〜〜逃げてないっ」


「その、オレの胸板に手を強く当てていることが、逃亡を図っていることと同じだと言っているんだ。名前……なぜ逃げる?」


「ッ、それは……今が仕事中で! 貴方が上司で私が部下だから……んっ」



あっという間に、再び塞がれる唇。

こうなった原因の≪甘い香り≫の面影も、もはやそこにはない。

彼にキスされすぎたせいで。



「そうか。まったく部屋に来なかった理由はこれか……」


「っ、は……はぁ……そう! 仰る通りです!」


「だが、お前は今こうして……オレを誘う甘い香りを纏ってきた。つまり、≪そういうこと≫だろう?」


「はあ!? 私はっ、ただ報告をしに来ただけであって、リーダーの仕事の邪魔をするつもりで来たんじゃ……っんん!」


三度目のキス。

ううん、もうキスというより食べられてる、と言うべきなのかもしれない。

何をするんだ――そう鋭く睨み上げても、リーダーはただ嬉しそうに口元を緩めるばかりなんだから。



「名前、名前を呼ぶんだ。オレの名前を」


「っ! それは……」


「……名前」


「〜〜ッ、リゾット。……これでいいんでしょ!?」



言わなければ、解放してくれそうにない。

やけくそ気味に彼の名前を口にして、顔を上げると――



「十分でもあり、不足でもあるな」


「は? 何言っ――わ!?」



ボスン


背中に感じる妙な固さ。

視界にはもちろん、リゾットと天井。


――このムード……明らかにヤバい。



「ずいぶん長い間、名前に触れていないんだ。離してやれる……はずがない」


「!?!?」


彼のスイッチを押してしまったらしいリップクリーム。

別に他意はなかった――



「名前……好きだ」


「! わ、私も……リゾットのこと、好き」



けど、久しぶりに甘い時間を過ごせたから、まあいいってことにしようかな。






Vanigliaが香る
思わぬところに、幸福は落ちている。




〜おまけ〜



「オイ、ホルマジオ。何してんだよ、テメーは」


「ギアッチョか。いやァ……名前にオススメの酒、用意したんだけどよォ」


「……アイツなら、たぶん今日は戻ってこねえぞ」


「はァ? どういう……」


「リゾットの奴、顔には出さねえけど、名前と居たがってからなア……クソッ、どうして俺がアイツらの関係気にしなきゃならねえんだよッ!!」


「ほォ……ったく、しょーがねェな〜〜! ギアッチョ、飲もうぜ!」


「……今日だけな! 今日だけは、オッサンの酒に付き合ってやるよ!」




翌朝、リビングで酔いどれ状態の二人が発見されたのは、言うまでもない。









お待たせいたしました!
キリリクでリーダー夢でした。
シチュエーションなど、こちらで決めさせていただきましたが……よろしかったのでしょうか?


らっく様、リクエスト本当にありがとうございました!
感想&手直しの希望がございましたら、教えてくださると嬉しいです!
polka



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