甘え上戸の彼女


※ジョルノ夢
※甘
※原作後設定





「あれ……ジョルノ?」


仕事で用があったため、ボス――ジョルノの部屋へと訪れた名前。

しかし、ドアをノックしても返事がない。


勝手に入るのはどうかと思ったものの、自分たちのボスに何かあってはいけない。

迷いに迷った彼女は、静かに扉を押した。


すると、こちらへ向いている黒い椅子の背。


「ジョルノ……?」



その上から覗く美しい金に、できる限り音を立てないよう近付いて――


「!」



息をのんだ。

視界に映ったのは、穏やかな寝顔。


疲れているのだろうか。

いや、かなり厳しい職務だ。


疲れていないはずがない。



「まったく、いつ狙われるかもわからないのに……ボスって自覚あるのかな」


当然、口から漏れ出すため息。

周りへ視線を動かしてから、今だけは年相応のあどけない顔を一瞥する。


そして、少しの間考え込んだ名前は、おもむろにその場を離れた。


「……」


しばらくして現れた彼女の両腕には、一枚の毛布。


「……、お疲れ様」



机へそっと回り込み、相変わらず熟睡する自分の恋人へ近寄った――そのとき。



グイッ


「わ……!?」



抱えていた毛布ごと引き寄せられてしまった。

もちろん、犯人の膝に座り込んだ名前は恨みがましげに、唇を尖らせながら睨み上げる。


「……起きてたなら言ってよ」


「クス、すみません。今ちょうど起きたところだったんです」


「(絶対嘘だ……)」



にこにことこちらに向かって微笑むジョルノ。

だが、たとえ囁かれても、彼女の胡散臭そうな眼差しは変わらなかった。


なぜなら、今なお己の腰をしっかり抱きとめている――というより捕まえている男の両手が証明している。



「名前……もしかして、疑っていますか?」


「むしろ疑わないと思う? ジョルノを信じて何度騙されたことか。自然と、≪疑うこと≫を覚えるよ」


「……ぼくの恋人は本当に用心深いですね。もっと気を許して……というより甘えてくれていいのに」


「(ふいっ)」



目の前を覆う胸元から顔をそらすと、上から届く苦笑。


甘えること。

それができれば苦労はしない。


そろそろ解放してほしい――そんな想いで彼をもう一度見上げる。



「……ねえ」


「ん? どうしたんですか?」


「私、仕事のために来たんだから……このまま話すわけにもいかないでしょ?」



もしも、誰かに目撃されたりしたら、一瞬で変な噂が広まるに違いない。

心を占める羞恥と焦燥で言葉を連ねれば、なぜかジョルノが首をかしげた。


「? いいじゃないですか、このまま話しても。ぼくたち、上司と部下の前に恋人なんですよ?」


「いや、だからこそ――」


「それに、この場を見られたら名前に寄り付く男が消えてくれます」


「……」



鈍感なのかわざとなのか。

彼の場合、おそらく後者だろうが、なぜ胸中――この体勢が恥ずかしいという気持ち――を悟ってくれないのだ。


それと、男など寄り付かないから安心してほしい。

ますます不満げに眉をひそめた名前が、≪いいから離して≫とおもむろに顔を上げた瞬間。



「んっ」


唇を覆う温かさと柔らかさ。

キスをされている。


そう脳内が自覚をしたときには、すでに恋人の唇は離れ、音を紡ぎ出していた。



「ふふ……あと、キスもしやすいですよね」


「〜〜っもういい……!」



近くにある胸板をグッと両手で押しつつ、足を床に着ける。

しかし、一組織をまとめるボスが彼女の逃亡を見逃すはずもなく。


「待ってください。ぼくはもっと名前といたいんです」


「ッ、仕事あるんでしょ?」


「今日の分はもう終わりました。名前の仕事も誰かに押し付けて……頼んでしまえばいい」


「(今、完全に押し付けるって言った……)いや、でも」


「ね? 久しぶりに二人で過ごしましょうよ」



懇願の入り混じった視線。

それに根負けしてしまうのは、いつも自分だ。


ひっそりと今日何度目かのため息をついた名前は、渋々だが首を縦に振った。


「……、わかった。少しだけね」










「んー……ジョル、ノ……」


「なんですか? 名前」



数十分後。

ソファには、頬を赤らめた彼女と一切顔色が変わっていない男。


さらに言えば、先程までのクールさが嘘のように、名前はジョルノへと自ら寄り添っていた。


「ジョルノ……ジョルノー……」


「名前。ぼくはここにいますよ」


「うん、しってる……でも、名前よびたかったの……えへへ」



彼女がすぐ酔ってしまうのは、もちろん知っている。

だからこそ、≪久しぶりに飲みましょう≫と誘ったのだが――


「(これは、想像以上にやばいですね)」



すりすりと自分にくっつき、あまりにも甘えたな名前に不覚にもドキリとしてしまう。


「……少し酔わせすぎちゃいましたか」


「んー……? わたし、よってないよ……?」


「いいえ、酔ってますよ」



こんな可愛い姿、絶対に誰にも――苦難を共にした仲間にさえも見せられないな。

改めて、酒は自分と二人だけのときにさせようと誓いながら、にへらと笑ってみせる彼女の腕を優しく引いた。


刹那、ポスンと音を立てて、己の膝へ名前の後頭部を沈みこませる。


「! うわっ……もー、じょるの?」


「……名前」



いわゆる膝枕。


無理やりだが寝かしつけ、人工の光で時折輝く艶やかな髪をそっとなでつつ、愛しい名前を呼んだ。


すると、嬉しいのか恥ずかしいのか。


くすぐったそうに彼女は微笑む。



「じょる、の……じょるの……ぼん、じょるの……」


「クス、珍しくダジャレですか?」


「んーん……ただ……」


「ただ?」



そこで言いよどむ恋人に、顔を近付けてジョルノは聞き返した。


トロンとした瞳。

色っぽい吐息。

紅潮した顔。


あえてそれらを感じないようにしていると――突如、名前が自分の腹部へ抱きついてくるではないか。



「!」


「ただ……だいすき、だなあって/////」



そして、この告白である。


「……」


「じょるのー? もしかして、ねちゃった?」


「いえ、寝ていませんよ。……まったく貴方って人は……反則でしょう」


「?」



きょとん。

こちらを見上げつつ、小首をかしげる名前。


少しばかり≪敗北感≫を味わった彼は、すかさず彼女の額へ口付けた。



「ぼくも、名前が大好きです」


「! えへへ、うれしい」


「(普段もこれぐらい甘えてくれてもいいんですけどね……)」



だが、クールな部分も含めて、自分は名前を愛しているのだ。


――明日が、ある意味楽しみです。

覚えていないであろう彼女を、どうやってからかおうか。


仕事を完全に忘れ、恋人でいっぱいになっている数年前ではありえない己に対して嘲笑を浮かべてから、それを微笑みに変えたジョルノは相変わらず甘えてくる名前のこめかみにキスを贈るのだった。











甘え上戸の彼女
翌朝、すべて忘れてしまうのが、玉にキズ。







お待たせいたしました!
ジョルノで酔うと甘えるヒロインとの日常夢でした。
最後までジョルノかミスタ、どちらにするか迷った挙句、ボスにさせてもらいました……いかがでしたでしょうか?


とら様、リクエストありがとうございました!
感想&手直しのご希望がございましたら、お願いいたします!
polka



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