Androideに桃花を
※ギアッチョ夢
※メイドヒロイン
※甘
最近、組織から暗殺チームのアジトへと派遣されたメイド、名前。
当初は≪幹部からの命令された監視役では≫と内心疑っていた彼らだったが、どうやら自ら進んでここへやってきたらしい。
物好き――傍から見ればそう捉えられるのかもしれない。
しかし、刺客ではないと判断した男たちにとって、花とも言えるその少女は大歓迎だった。
ジャポネーゼらしい流れるような艶やかな黒髪。
幼くも見える、可愛らしい顔立ち。
仕事をてきぱきとこなす真面目さ。
特に問題なし。むしろ良好。
そう、長時間観察していたメローネは丸印を付ける、が。
「メローネ様、ギアッチョ様」
「!」
「やあ名前! 今日も可愛いね! できれば今夜、そのメイド服を脱がした――」
「コーヒーをお持ちしました」
「ハアハア……無視する名前もベネ!」
言葉を遮り、淡々とカップを自分たちの前に置く彼女。
その顔は笑っても、引きつってもいない。
――そう。
名前は常に無表情なのだ。
リゾットが天然発言をしても、何事もなく修正。
プロシュートが息をするように口説いても、頬が赤く染まることはなかった。
ちなみにメローネは――夜這いをかけようとして、あっけなく返り討ちにあったが、今となってはいい思い出である。
「では、私めはこれで」
「……テメーもたまにはここで飲めよ」
「(あ、ギアッチョがデレた)」
「いいえ、結構です。お気遣いありがとうございます。失礼いたします」
すぐさまリビングを出て行ってしまう少女。
その飛びつきたくなるような後ろ姿を見つめながら、男は残念そうに肩をすくめた。
「あーあ。惨敗だね、ギアッチョ」
「……うっせエ」
「でもさあ……ベリッシモもったいないよな、名前って」
小さく呟けば、眼鏡越しの鋭い眼光がこちらを突き刺す。
それが意図する≪感情≫に、メローネはますます笑みを深めて、ゆっくりと口を開いた。
「だってさ、笑えば絶対に可愛いじゃん。いや、今でもディモールト・ベネだけど……なんというか、今は人間というよりオレたちの世話をする≪アンドロイド≫みたいな感じ?」
「! テメー、メローネ……ッ!」
「おっと、怒んなよ。オレがしてるのはたとえ話!」
「……チッ」
一瞬にして温度が下がったリビング。
ヘラヘラと笑いながら言葉を補えば、舌打ちをしつつもギアッチョは己のスタンド――ホワイト・アルバムを戻す。
やはり、≪気になる子≫についてとやかく言われるのは、嫌なのだろうか。
「(ほんとわかりやすいよなあ、ギアッチョって)」
「オイ。何笑ってんだよ、気持ち悪い」
「……あは! 別に? ただ、どうすれば名前が笑ってくれるかなって考えただけだぜ」
「……」
どうすれば笑ってくれるのか。
黙り込んだギアッチョは、もやもやとする心に苛立つ余裕もなく、メローネが何の気なしに放り投げた議題について逡巡し始めていた。
「……オイ」
「? ギアッチョ様、いかがなさいましたか?」
翌日。
手際よく洗濯物を干す名前に、ギアッチョがムスっとした表情で近付く。
彼女は≪なんだろう≫と小首をかしげたが、その表情に色は一切ない。
一方、少女を見た途端なぜか心臓が暴れ出す理由もわからないまま、男は乱暴に背中から小さな紙袋を差し出した。
「あの……」
「安く売ってたからな……やるよ」
押し付けられた袋の中を覗き込めば、可愛らしい服が入っている。
第一の作戦、それは服のプレゼントだった。
余談だが、彼にこの案を提案したのはザ・色男のプロシュートである。
「メイドの身で頂けるなんて思いもしませんでした。ありがとうございます」
「お、おう(……笑っては、いねえな)」
「ですが……これ、私めには≪サイズが大きすぎます≫」
「……、はあアアアアアアアッ!?」
淡々と告げられた事実に、仰け反る男。
当然、買いに行ったのはギアッチョなのだが――
「クソッ! 俺をなめてんのか!? ≪号≫ってなんだよ! 号ってよオオオ……!?」
サイズを間違えた羞恥と返却されたショックで、仲間という名の周りに被害が及んだのは言うまでもない。
作戦失敗。
「ほらよ」
それからも、ギアッチョのある種涙ぐましいアプローチ――そう自覚しているかは別として――は実行された。
二つ目は、店のディスプレイ越しに美味しいだろうと直感した、お菓子。
「? ありがとうございます」
立て続けにプレゼントを贈られることに疑問を抱きながらも、ピンクのリボンでラッピングされた袋を受け取る。
だが、名前がニコリとすることはない。
むしろ――
「……ギアッチョ様、お茶を入れてまいりますね」
「は?」
自分よりこの手にあるお菓子を食べたそうな男に、譲ってしまった。
もちろん、彼の舌は満足したものの、進歩しない状況に心が満足するはずもなく――これまた作戦失敗。
「チッ……どうしろっつーんだよ」
再び、店巡りをする羽目になったギアッチョ。
アクセサリー。
髪飾り。
カバン。
など頭に浮かぶものはあったが、おそらく彼女のことだ。
高価であろうと遠慮するに違いない。
「大体、女が喜ぶモンなんてわかんねえしよオオオオッ!」
ブツブツと唱えられる文句。
しかし、≪少女の笑顔を諦め、プレゼント探しをやめる≫という選択肢はないのが、この男らしいところである。
「……ん?」
結局、勘が≪どれもダメだ≫と囁いたせいで収穫なしだった彼が、アジトへ戻ってきたそのとき。
ひらり。
自分の目の前に落ちてきた、一枚のハンカチ。
面倒くさいとは思ったものの、しゃがみ込みそれを拾い上げた。
「あ? なんだこの花」
そこには、薄紅色の花弁が刺繍されている。
巷で聞く≪サクラ≫だろうか。
まじまじと見つめてから、ギアッチョが首をかしげていると――
「あ」
「ッ! 名前……!」
アジトから飛び出してきた少女と鉢合わせになった。
心臓が掴まれたように、苦しみ始める。
しかし残念ながら、今日は何も用意できていない。
なんと話しかけるか――言いあぐねていると、名前自らこちらへ駆け寄ってきた。
「あの、それ……」
「……あ?」
「そのハンカチです」
彼女の視線、それは自分が左手で握る布にある。
つまり、少女の私物。
その事実を脳内が占めた刹那、目を見開いた彼は勢いよくハンカチを小さな手に押し込めていた。
「てッ、テメーのなのかよ……!」
「はい。……よかった、見つかって」
「!?」
次の瞬間。
少しだけ――本当に少しだけ、名前が≪安堵≫を見せたのである。
「ギアッチョ様、ありがとうございました」
「……たまたま拾っただけだ。気にすんじゃねえよ」
「……」
「……」
「それ」
「? はい」
再び表情は≪無≫になったものの、男の心に湧き上がる喜び。
だからこそ、プレゼントのきっかけを探そうと躍起になるのは当然だった。
「その花だよ、その花ッ! サクラってやつか?」
「あ……いいえ、桃です。イタリア語では確か≪Pesca≫という単語でしたね……桜とは少し雰囲気が似ていますが、違う花ですよ」
「……≪モモ≫、≪モモ≫……」
そして、教えてもらった単語を呟きながら、今来た道を戻っていくギアッチョ。
一体どうしたのだろうか。
そんな疑問を抱きつつもハンカチを手にアジトへ戻ろうとすると、不意に彼がこちらを振り返った。
「オイ! ちょっとそこで待ってろッ!」
「え?」
「いいか? ≪待ってろ≫よ!」
そして、男は理由も言わずにズンズンと歩いて行ってしまう。
少女はただただ首をかしげながら、ご主人の一人とも考えられる人の帰りを待つしかなかった。
数分後、何かを持ってギアッチョは帰ってきた。
その手には――
「え……」
「これでいいんだろ? ≪モモ≫ってやつはよオオオ……!」
満開とまでは言えないが、いくつもの花を付けた細い木の枝。
それを、彼は自分に差し出しているのである。
「……」
胸にほんのりと広がった温かさ。
だが同時に、気になることが一つ。
「これ、どこから……?」
「……ンなこと聞いてどうすんだよ」
「いえ、明らかに折られた≪跡≫のようなモノがあるので……どこか桃の木のある家からかな、と」
「バッ……!?」
やはり、図星らしい。
服の所々が土や埃で汚れているのに、まだ気付いていないのだろう。
その思いもしなかった――可愛い子どものような無邪気な行動に名前は、
「……ふふ」
と自然に笑みをこぼしていた。
「! オイ、今……」
「ギアッチョ様」
「?」
「実は私、この花が一番好きなんです」
部屋で大切に飾らせていただきますね。
ほんの少しだけ上げられている口元。
それを目にした瞬間、なぜか速くなった鼓動を必死に抑えつけながら、ギアッチョはぶっきらぼうに言葉を紡ぐ。
「〜〜っ枯らしたら! 容赦しねえからな」
「はい。……さすがにずっとは無理だと思いますが」
ようやく見られた、笑顔と呼ぶにはまだ程遠い表情。
できれば自分だけが少女の微笑を知っていたい――そのような≪らしくない≫考えを抱く己が、むず痒くて仕方がない。
しかし、かと言って嫌でもない。
こうして彼は、珍しく≪解決しなくてもいいと思える矛盾≫を見つけたのだった。
Androideに桃花を
どこまでも不器用で、どこまでも無垢な恋。
〜おまけ〜
「ところで、これはどのような意味で私めに?」
「は? 意味ってなんだよ」
アジトへ足を踏み入れてから、淡々とその≪意味≫とやらを尋ねる彼女に、当然ながら眉をひそめる男。
どうやら、花言葉を知っているというわけでもないらしい。
そう悟った名前は、静かに首を横へと振った。
「いえ……なんでもありません。この花にも、色々な意味がありますし」
「……花に意味、だア? 花は花だろうが」
「≪花言葉≫というものがそれぞれにあるんです。興味を持たれましたら、ぜひ」
「チッ……くだらねえ」
少女の前ではそう返しつつも、実は気になっていたギアッチョ。
「へえ、色々あんだな……モモは――――!?!?」
≪私は貴方の虜≫。
そんな彼が、パソコンで桃にある花言葉の一つを知り、次の瞬間にはコーヒーをデスクトップに向かって吹き出したのは――もう少し後のお話。
![](//img.mobilerz.net/sozai/1610_w.gif)
大変長らくお待たせいたしました!
ギアッチョで無表情メイドヒロインとの甘め夢でした。
どうしてギアッチョは純愛というか、ウブなイメージを抱いてしまうのですが、いかがでしたでしょうか?
リクエストありがとうございました!
感想&手直しのご希望がございましたら、clapへお願いいたします!
polka
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※メイドヒロイン
※甘
最近、組織から暗殺チームのアジトへと派遣されたメイド、名前。
当初は≪幹部からの命令された監視役では≫と内心疑っていた彼らだったが、どうやら自ら進んでここへやってきたらしい。
物好き――傍から見ればそう捉えられるのかもしれない。
しかし、刺客ではないと判断した男たちにとって、花とも言えるその少女は大歓迎だった。
ジャポネーゼらしい流れるような艶やかな黒髪。
幼くも見える、可愛らしい顔立ち。
仕事をてきぱきとこなす真面目さ。
特に問題なし。むしろ良好。
そう、長時間観察していたメローネは丸印を付ける、が。
「メローネ様、ギアッチョ様」
「!」
「やあ名前! 今日も可愛いね! できれば今夜、そのメイド服を脱がした――」
「コーヒーをお持ちしました」
「ハアハア……無視する名前もベネ!」
言葉を遮り、淡々とカップを自分たちの前に置く彼女。
その顔は笑っても、引きつってもいない。
――そう。
名前は常に無表情なのだ。
リゾットが天然発言をしても、何事もなく修正。
プロシュートが息をするように口説いても、頬が赤く染まることはなかった。
ちなみにメローネは――夜這いをかけようとして、あっけなく返り討ちにあったが、今となってはいい思い出である。
「では、私めはこれで」
「……テメーもたまにはここで飲めよ」
「(あ、ギアッチョがデレた)」
「いいえ、結構です。お気遣いありがとうございます。失礼いたします」
すぐさまリビングを出て行ってしまう少女。
その飛びつきたくなるような後ろ姿を見つめながら、男は残念そうに肩をすくめた。
「あーあ。惨敗だね、ギアッチョ」
「……うっせエ」
「でもさあ……ベリッシモもったいないよな、名前って」
小さく呟けば、眼鏡越しの鋭い眼光がこちらを突き刺す。
それが意図する≪感情≫に、メローネはますます笑みを深めて、ゆっくりと口を開いた。
「だってさ、笑えば絶対に可愛いじゃん。いや、今でもディモールト・ベネだけど……なんというか、今は人間というよりオレたちの世話をする≪アンドロイド≫みたいな感じ?」
「! テメー、メローネ……ッ!」
「おっと、怒んなよ。オレがしてるのはたとえ話!」
「……チッ」
一瞬にして温度が下がったリビング。
ヘラヘラと笑いながら言葉を補えば、舌打ちをしつつもギアッチョは己のスタンド――ホワイト・アルバムを戻す。
やはり、≪気になる子≫についてとやかく言われるのは、嫌なのだろうか。
「(ほんとわかりやすいよなあ、ギアッチョって)」
「オイ。何笑ってんだよ、気持ち悪い」
「……あは! 別に? ただ、どうすれば名前が笑ってくれるかなって考えただけだぜ」
「……」
どうすれば笑ってくれるのか。
黙り込んだギアッチョは、もやもやとする心に苛立つ余裕もなく、メローネが何の気なしに放り投げた議題について逡巡し始めていた。
「……オイ」
「? ギアッチョ様、いかがなさいましたか?」
翌日。
手際よく洗濯物を干す名前に、ギアッチョがムスっとした表情で近付く。
彼女は≪なんだろう≫と小首をかしげたが、その表情に色は一切ない。
一方、少女を見た途端なぜか心臓が暴れ出す理由もわからないまま、男は乱暴に背中から小さな紙袋を差し出した。
「あの……」
「安く売ってたからな……やるよ」
押し付けられた袋の中を覗き込めば、可愛らしい服が入っている。
第一の作戦、それは服のプレゼントだった。
余談だが、彼にこの案を提案したのはザ・色男のプロシュートである。
「メイドの身で頂けるなんて思いもしませんでした。ありがとうございます」
「お、おう(……笑っては、いねえな)」
「ですが……これ、私めには≪サイズが大きすぎます≫」
「……、はあアアアアアアアッ!?」
淡々と告げられた事実に、仰け反る男。
当然、買いに行ったのはギアッチョなのだが――
「クソッ! 俺をなめてんのか!? ≪号≫ってなんだよ! 号ってよオオオ……!?」
サイズを間違えた羞恥と返却されたショックで、仲間という名の周りに被害が及んだのは言うまでもない。
作戦失敗。
「ほらよ」
それからも、ギアッチョのある種涙ぐましいアプローチ――そう自覚しているかは別として――は実行された。
二つ目は、店のディスプレイ越しに美味しいだろうと直感した、お菓子。
「? ありがとうございます」
立て続けにプレゼントを贈られることに疑問を抱きながらも、ピンクのリボンでラッピングされた袋を受け取る。
だが、名前がニコリとすることはない。
むしろ――
「……ギアッチョ様、お茶を入れてまいりますね」
「は?」
自分よりこの手にあるお菓子を食べたそうな男に、譲ってしまった。
もちろん、彼の舌は満足したものの、進歩しない状況に心が満足するはずもなく――これまた作戦失敗。
「チッ……どうしろっつーんだよ」
再び、店巡りをする羽目になったギアッチョ。
アクセサリー。
髪飾り。
カバン。
など頭に浮かぶものはあったが、おそらく彼女のことだ。
高価であろうと遠慮するに違いない。
「大体、女が喜ぶモンなんてわかんねえしよオオオオッ!」
ブツブツと唱えられる文句。
しかし、≪少女の笑顔を諦め、プレゼント探しをやめる≫という選択肢はないのが、この男らしいところである。
「……ん?」
結局、勘が≪どれもダメだ≫と囁いたせいで収穫なしだった彼が、アジトへ戻ってきたそのとき。
ひらり。
自分の目の前に落ちてきた、一枚のハンカチ。
面倒くさいとは思ったものの、しゃがみ込みそれを拾い上げた。
「あ? なんだこの花」
そこには、薄紅色の花弁が刺繍されている。
巷で聞く≪サクラ≫だろうか。
まじまじと見つめてから、ギアッチョが首をかしげていると――
「あ」
「ッ! 名前……!」
アジトから飛び出してきた少女と鉢合わせになった。
心臓が掴まれたように、苦しみ始める。
しかし残念ながら、今日は何も用意できていない。
なんと話しかけるか――言いあぐねていると、名前自らこちらへ駆け寄ってきた。
「あの、それ……」
「……あ?」
「そのハンカチです」
彼女の視線、それは自分が左手で握る布にある。
つまり、少女の私物。
その事実を脳内が占めた刹那、目を見開いた彼は勢いよくハンカチを小さな手に押し込めていた。
「てッ、テメーのなのかよ……!」
「はい。……よかった、見つかって」
「!?」
次の瞬間。
少しだけ――本当に少しだけ、名前が≪安堵≫を見せたのである。
「ギアッチョ様、ありがとうございました」
「……たまたま拾っただけだ。気にすんじゃねえよ」
「……」
「……」
「それ」
「? はい」
再び表情は≪無≫になったものの、男の心に湧き上がる喜び。
だからこそ、プレゼントのきっかけを探そうと躍起になるのは当然だった。
「その花だよ、その花ッ! サクラってやつか?」
「あ……いいえ、桃です。イタリア語では確か≪Pesca≫という単語でしたね……桜とは少し雰囲気が似ていますが、違う花ですよ」
「……≪モモ≫、≪モモ≫……」
そして、教えてもらった単語を呟きながら、今来た道を戻っていくギアッチョ。
一体どうしたのだろうか。
そんな疑問を抱きつつもハンカチを手にアジトへ戻ろうとすると、不意に彼がこちらを振り返った。
「オイ! ちょっとそこで待ってろッ!」
「え?」
「いいか? ≪待ってろ≫よ!」
そして、男は理由も言わずにズンズンと歩いて行ってしまう。
少女はただただ首をかしげながら、ご主人の一人とも考えられる人の帰りを待つしかなかった。
数分後、何かを持ってギアッチョは帰ってきた。
その手には――
「え……」
「これでいいんだろ? ≪モモ≫ってやつはよオオオ……!」
満開とまでは言えないが、いくつもの花を付けた細い木の枝。
それを、彼は自分に差し出しているのである。
「……」
胸にほんのりと広がった温かさ。
だが同時に、気になることが一つ。
「これ、どこから……?」
「……ンなこと聞いてどうすんだよ」
「いえ、明らかに折られた≪跡≫のようなモノがあるので……どこか桃の木のある家からかな、と」
「バッ……!?」
やはり、図星らしい。
服の所々が土や埃で汚れているのに、まだ気付いていないのだろう。
その思いもしなかった――可愛い子どものような無邪気な行動に名前は、
「……ふふ」
と自然に笑みをこぼしていた。
「! オイ、今……」
「ギアッチョ様」
「?」
「実は私、この花が一番好きなんです」
部屋で大切に飾らせていただきますね。
ほんの少しだけ上げられている口元。
それを目にした瞬間、なぜか速くなった鼓動を必死に抑えつけながら、ギアッチョはぶっきらぼうに言葉を紡ぐ。
「〜〜っ枯らしたら! 容赦しねえからな」
「はい。……さすがにずっとは無理だと思いますが」
ようやく見られた、笑顔と呼ぶにはまだ程遠い表情。
できれば自分だけが少女の微笑を知っていたい――そのような≪らしくない≫考えを抱く己が、むず痒くて仕方がない。
しかし、かと言って嫌でもない。
こうして彼は、珍しく≪解決しなくてもいいと思える矛盾≫を見つけたのだった。
Androideに桃花を
どこまでも不器用で、どこまでも無垢な恋。
〜おまけ〜
「ところで、これはどのような意味で私めに?」
「は? 意味ってなんだよ」
アジトへ足を踏み入れてから、淡々とその≪意味≫とやらを尋ねる彼女に、当然ながら眉をひそめる男。
どうやら、花言葉を知っているというわけでもないらしい。
そう悟った名前は、静かに首を横へと振った。
「いえ……なんでもありません。この花にも、色々な意味がありますし」
「……花に意味、だア? 花は花だろうが」
「≪花言葉≫というものがそれぞれにあるんです。興味を持たれましたら、ぜひ」
「チッ……くだらねえ」
少女の前ではそう返しつつも、実は気になっていたギアッチョ。
「へえ、色々あんだな……モモは――――!?!?」
≪私は貴方の虜≫。
そんな彼が、パソコンで桃にある花言葉の一つを知り、次の瞬間にはコーヒーをデスクトップに向かって吹き出したのは――もう少し後のお話。
![](http://img.mobilerz.net/sozai/1610_w.gif)
大変長らくお待たせいたしました!
ギアッチョで無表情メイドヒロインとの甘め夢でした。
どうしてギアッチョは純愛というか、ウブなイメージを抱いてしまうのですが、いかがでしたでしょうか?
リクエストありがとうございました!
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