Siesta!


※連載「Uno croce nera...」のヒロイン
※グレフル夢




一切日差しが入らないものの、温かな空気が包むある日のアジトで。


「……すう……すう」


「(ジーッ)」



プロシュートのスタンド、ザ・グレイトフル・デッドは、ただただある方向をいくつもの目で凝視していた。



「ん、っ……、すう」


その先には、ソファの上ですやすやと眠る名前が。


閉じられた瞼。

微かに震える睫毛。

テンポを刻む豊かな胸元。



「すう……、すう……」


「(ソロリ)」



彼女がなかなか目を覚まさないことを悟ったのか、彼はおもむろに己の触手を一本近付ける。

そして――



「っん……」


「(こちょこちょ)」


起きてほしいというかのように、少女の脇腹を擽り始めた。

リビングには他に誰もいないことから、当然止める者もいない。


グレフルの試みは続く。


「……(こちょこちょ)」


「ん、んん……っ」


「(こちょこちょこちょ)」


「っ……ふふ、くすぐ、た…………え?」



腹部を覆う妙な感覚。

それに少しばかり身を捩った名前は、薄らと瞼を上げて――表情を驚愕に変えた。


「ぐ、グレフルさん!?」


「(コクッ)」



立ち消える寝ぼけ眼。

相変わらず触手の先で腰から上を突かれ、ピクリと肩を揺らしながら、彼女が困惑した様子で起き上がる。


そして、彼のつぶらな瞳をしばらく見つめていた少女は、ある結論に辿り着いた。


「えと……もしかして、遊びたいんですか?」


「!(キラキラ)」


「(グレフルさん、可愛い……!)でも、ごめんなさい……今すごく眠くて……」


慢性的な睡眠不足。

ほぼ毎晩≪寝かせてもらえない≫名前にとって、朝昼はぐっすりと眠られる絶好の機会だ。


最近、仕事などでリゾットが渋々彼女を解放し、他に何もすることがない時には、お昼寝をするのが普通となってしまっていた。

もちろん、彼と出逢う以前にも教会で眠ってはいたが――今はある種、必要に迫られた睡眠と言える。



「……(ズーン)」


「あ、えっと……、そうだ! グレフルさん、一緒にお昼寝しませんか?」


「(バッ)」


視線だけでなく顔を落とすほど沈んでいた様子から一変、勢いよくこちらを見据えるグレフルに、少女はそそくさと隣に入れるほどのスペースを開けた。

すると、ソファの端をよじ登り、彼は彼女にぎゅうと抱きつく。


「ふふ……グレフルさんは甘えん坊さんですね(なでなで)」


「(上機嫌で両腕の力を強める)」



修道服越しの腰にしっかりと絡まる彼の逞しい腕。

コテン、と左側に座る(?)グレフルの目に髪が入ってしまわないよう、気を付けつつ頭を静かに預ける。



「ん……っグレフルさん……りぞっと、さんが、戻られたら起こして……ください、ね?」



≪暗殺≫ではないにしろ、仕事で出かけているリゾット。


できれば疲労に満ちているであろう彼を、一番にお出迎えしたい。

そんな穏やかな願いを抱きながら、名前は自分を引き寄せる睡魔に身を預けた。










「ただいま」


数十分後、リゾットはアジトに足を踏み入れていた。

しかし、その顔には彼女が想像した形とはかなりかけ離れた――大きな喜びが浮かんでいる。


なぜなら――



――はあ、やっとだ。やっと……名前に会える。


彼女と言葉を交わしたい。

早く彼女を強く抱きしめたい。

恥ずかしさで俯く彼女の頭をそっと撫でたい。

額、頬、唇、首筋――慌てる彼女のあらゆる場所にキスを贈りたい。


少女はおそらくソファで眠り込んでいるだろう。

仲間が目撃すれば引かれるほど緩んでいた頬を、リビングに入る直前で引き締め、彼はドアノブを回した。



「ただい――」







「お? よッ、リーダー。仕事お疲れさん」


「……」


「? あのさ、悪ィんだけどよォ……そこ退いてもらわねェとリビングに入れな……、ん?」



見慣れた背中にバシッと手のひらを押し付けたホルマジオは、微動だにしない自分たちのリーダーに首をかしげる。


そして、男の肩越しの光景を見て、理解した。



「あ、名前とグレフルじゃねェか……ハハッ、お昼寝中だなんて可愛い――」


ゴゴゴゴゴゴゴ



隣で広がり始める黒いオーラ。

その眼光は、一瞬で人を殺めてしまいそうなほどさまざまな感情が混沌としている。


衝撃的な状況に対し、ようやく脳が活動を再開したのだろうか。


ホルマジオの制止の声も聞かず、リゾットはソファへ近寄り――



「……名前から離れろ、ザ・グレイトフル・デッド」


気持ちよさそうに眠る名前から、グレフルをひっぺ剥がそうとしていた。

ちなみに、彼が今手袋をしているからか、老いることはない。


一方、昼寝はしないにせよ彼女をずっと見つめていたスタンドは、


「(ツーン)」


と明らかな拒絶を示し、少女の身体へ回している腕により力を込めた。

当然ながら、男がそれで諦めるタマではない。


「退けと言っているんだ……いい加減にしないと……ッ(ググググ)」


「おいおい。嫉妬深すぎんのも、どうかと思うぜ? しょーがねェな〜!」



繰り広げられる攻防戦。

大人げないリーダーと恐ろしいほど頑固なスタンドを一瞥して、ホルマジオがあからさまにため息をついた、そのときだった。


「んっ……、……ぁ、リゾットさん。おかえり、なさい」


「名前……すまない、起こしてしまったな。だが安心してくれ……すぐに終わる(グググググ)」


「(ギュウウウッ)」


「?」



≪終わる≫?

なんのことだろうか?


きょとんと首をかしげた彼女は、嫌々と言うかのように抱きついてきたグレフルを見て、ハッとした。


「り、リゾットさん……! グレフルさんをいじめちゃダメです!」


「いじめているわけではない。何を思って名前を抱きしめているのか、その詳細を尋ねようとしているだけだ」


「そんな……グレフルさんはただ遊びたかっただけですよ……ね?」


「(コクコク)」



リゾットの手をすかさず止め、手袋に覆われた両手をそっと包みながら彼を見上げる。

その自然となる上目遣いに胸を射抜かれつつ、男はこれでもかと言うほど眉をひそめた。



「……遊ぶだけならば、抱きつかなくてもいいはずだ」


そして、グレフルと反対側に腰を下ろしたかと思えば、するりと名前の身体を抱き寄せてしまう。

両腕が捉えた体温、感触に心を占めていく彼女への想い。


それから、少女をいまだ離そうとしないスタンドに向かって、リゾットは淡々と言い放った。



「それに、遊びはプロシュートにでも付き合ってもらえ。……断固として、名前は渡さない」


「(リゾットを睨みながらますますギュウウウ)」


「んっ……ふ、二人とも……あの、っ苦し……!(あたふた)」



臨戦対応の二人(一人と一体?)。

その後、周りから紫煙を纏い始めたグレフルに、傍観していたホルマジオもさすがにヤバいと思い至ったのか、本体(プロシュート)を呼びに行ったらしい。



「ったく。こっちは朝帰りで参ってんのによお……って、ザ・グレイトフル・デッド! お前、また名前に――」


「『メタリカ』ァッ!」


「グッ!?」


「プロシュートさん……!?」



当然、何も知らずにやってきた兄貴が、とばっちりともいえる攻撃を食らったのは――言うまでもない。










Siesta!
お昼寝タイムはお静かに。




〜おまけ〜



「(ちょんちょん)」


「あ、こんにちは、グレフルさん! ……どうしました?」


「……(ソファに座っている名前の足を指差し、首をかしげ)」


「えっと……お膝、ですか?」


「(パアアア! コクコク)」



輝く眼と上下に動く首。

そんな彼のわかりやすく、喜びがこもった反応に、自分まで嬉しくなった名前はすぐさま修道服を整え、安らぎに満ちた笑みを浮かべた。


「ふふ、いいですよ。はいどうぞ」



すると、のそのそとソファへ登ったグレフルが、彼女の太腿に頭を乗せる。


「(腰に抱きつき)」


「可愛いなあ……グレフルさん(なでなで)」



だが、その優しい雰囲気と少女の微笑みに、あの男が平然といられるはずもなく。



「名前」


「あ、リゾットさん……どうされたんですか?(にこっ)」


「(ああ、なんて愛らしいんだ…………いや、これでは普段の二の舞だ。ここは心を鬼にして)選んでくれないか」


「? あの……何を、ですか?」


「……今すぐ、ザ・グレイトフル・デッドをその柔らかな膝から叩き起こすか、今日は夜通しオレと身体を重ねるか……二つに一つだ」


「え……!?」



究極の二者択一。

真顔で答えを迫るリーダーと混乱した様子で二人を交互に見つめる名前に、それを眺めていた仲間はひっそりとため息をついた。



結局、叩き起こすのを憚られた彼女はいつものごとく――いや、それ以上に激しく甘く、耽美に捕食されてしまったようだ。

そして、リゾットとグレフルの攻防戦はそれ以降も続いたらしい。












お待たせいたしました!
キリリクでグレフルさん夢でした。
遊びたいのか、甘えたいのか、好きなのか……すべてあるのかもしれませんが、アプローチをしてもらいました……!
そしてリーダーが当然と言うかのように出張りましたが、すみません……彼は連ヒロちゃんの恋人兼過保護なセ○ムなのです(笑)。


凛様、リクエストありがとうございました!
感想&手直しのご希望がございましたら、お願いいたします^^
polka



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