Boys⇔Girls


※暗チ
※タイトル通り、ヒロインを含め男女逆転しております
※ギャグ





「ん……、っ」


カーテンの隙間から射す朝特有の白い光。

それに少しだけ眉をひそめた名前は、のそりとベッドから起き上がった。


素肌が捉える滑らかさと居心地の良さ。

――正直出たくないが、仕事もある。



朝日の反射する姿見に、なんとか布団から抜け出した彼女が近付く。


少し跳ねた髪。



「もう……いつも、ここ跳ねる……」


手櫛ですばやく整えてから、寝間着から着替えようと裾を掴み、柔らかい素材のそれをおもむろに引き上げる、が。



「……ん?」


何かがおかしい。

寝ぼけ眼のまま服を元へ戻し、サッサッと身体を擦ってみた。



しばらくして、ようやく脳みそが悟った違和感。


そこには、申し訳程度にだがあったはずの――


「は? え?」



≪胸≫がない。


「え……ちょ、どういうこと? ……、まさか」



誰か説明してほしい。

混乱する心を必死に抑え付けながら、恐る恐るズボンの中へ右手を入れてみる。


すると――

「ひっ!?」



普段はないモノが、内腿の間にある。


ほんの一瞬指先で触れてみただけだが、確かに≪アレ≫は存在していた。

皮膚が覚えている妙な温かさがより彼女に現実味を与える。





つまり、自分の性別は変わってしまったのだ。



「……っ、きゃあああ!?」



バンッ


「名前!? どうしたんだい!? まさか、変質者!? そういう変態さんには、この変態バスター・メローネさんにお・ま・か――グフッ!」


「ノックぐらいしろ! この変態…………って、あれ?」


普段通りに、手元にあった目覚まし時計(5つあるうちの1つ)を投げつける。


しかし、なんということでしょう。

瀕死のゴキ○リのように仰向けで、足をピクピクさせている彼には、ほんのり盛り上がった胸元。


明らかに、筋肉ではない。



「な、なんじゃこりゃあああ!?」


よくよく考えれば、耳に届く己の声もいつもより低い。

名前は動かなくなった変態を気にすることなく、ただただ悲鳴に近い叫び声を上げた。











それから、何事だと駆けつけたのは――



「ぷ、プロシュート……あんた」


「あ? あー、お前も変わったみてえだな」



ピシッと決まったスーツ。

口調は変わらないものの、いささか高いアルトのボイス。

自分には出せそうにない大人の色気。


その姿はまさに≪姉貴≫。


――少し……ほんの少しでも綺麗と思った自分、殴りたい。



「……って、私≪も≫? まさか、他のみんなも転換しちゃってるわけ?」


「ああ。リビング行ってみろよ……すげえことになってるから。つか、せめて≪語尾≫は改めろよ、名前」


「変えようとすらしてないあんたにだけは言われたくない。あれ? あんたは行かないの?」


ふと過った疑問に促されるまま口を開くと、彼(彼女)は面倒くさそうに後頭部を掻いた。



「よっぽどショックだったのか知らねえが、ペッシが部屋に籠ってそのまま出てこねえんだよ……だから説得だ」


「ふーん……ま、頑張って」


「ハン、そんな冷てえ態度じゃモテねえぞ」


「別にモテたくない。というか、早く元に戻りたい」



そんな軽口を交わしてから、指示通りにリビングへ向かった名前。


「あ、名前」


「……イルーゾォ」



ドアの奥へ足を踏み入れるや否や、出くわしたのは黒髪ゆえか童顔となっているミラー少年(少女)。


「な、何」


「なんというか……全然変わらないね、あんたは」


「それ、どういう意味だよ!」


「いや……うん」



ポジティブに見れば、スレンダー。

ネガティブでは――むしろ親近感すら感じてしまいそうだ。


「そういう名前は……より男前になったね」


「……指へし折られたい?」


「いや、遠慮しとく」









「よ! 名前じゃねェか! ……って、お前も変わってんだな」


「ホルマジオ……」


「ん?」


「(なんで私より大きいの)……とにかく前を閉めて。露出狂になっちゃうから」



かなりある二つの膨らみ。

それを鋭く睨みつけてから、名前はホルマジオに近寄り、開かれた仕事着の端と端をぴったりと合わせた。


そして、相変わらず首をかしげている彼越しに、垣間見えたのは――


「ぎ……ギアッチョ?」


「……」


ズンズンと大股でやってきたギアッチョ。

外見はあまり変わらないが、言うなれば雰囲気と顔立ちが妙に甘い。



「可愛い。あんた細身だから、意外に女装とかできるかも。どう? 今度の任務さ、私の代わりに――」


「だあアアアアッ! うっせえんだよ! テメーは……っ」


「?」


「(クソッ! コイツはなんで男前になってんだよオオオオ!)」



一人身悶えている彼を「大丈夫か」と心配しながら、きょろきょろと名前が周りを見渡すと――ソファに腰を下ろす大きな後ろ姿が視界に映った。



「ねえ、リーダー。リーダーもまさか女の子に……」


「? どうした、名前。その≪絶望≫を浮かべた表情は」



そのとき、彼女は眼球がリゾットの胸元を捕らえるより先に後悔していた。


≪ナイスバディ≫。

ムキムキとは違う豊満な体つきに、自然と声は荒げられる。



「〜〜っリーダーのバカ! 間抜け! スカポンタン! 長年このアジトで同じものを食べてるのに、どうしてホルマジオやリーダーだけ大きくなるわけ!?」


「は? 名前、何があったと言うんだ。話の脈略がない上に、その容姿でその仕草はミスマッチというかなんというか……」



いわゆるとばっちり。

それを受けていることすら自覚しないまま、男(女)が憤る名前へ手を伸ばそうとすると、激しい物音を立てて現れたメローネによって突如阻まれる。



「名前! 胸の悩みならオレに任せてくれ! オレが念に念を込めて毎日揉んであげ――ガハッ」


「退け、変態メロン」



復活したかと思えば、再び撃沈。

いつの間にかリゾットの隣に座っていた彼女(彼)のまた隣に、変態を蹴飛ばしたプロシュートがふんぞり返る。


組まれた美脚がちらりとズボンの裾から覗き、ひどく眩しい。



「変態の駆除、ご苦労様。で? ペッシの様子は?」


「ダメだ。反応すらしねえ……チッ、面倒かけやがって」


「そんなに応答しないんなら、ドアも今みたいに蹴飛ばしたら? むしろ、短気なあんたならすぐしてそうなんだけど」


「……名前。その扉を誰が直すと――」


「ハン! オレは≪マンネリ≫が嫌いなんだよ。前にしたことはもうしねえ。今回はあくまで≪交渉≫で行く」


「(ホッ)」


左側から聞こえた、リゾットの妙に艶やかなため息に≪女としての敗北感≫を燻らせつつ、プロシュートの小さな愚痴に相槌を打つ。

新鮮さを求めるその心意気やよしだが、問題は明らかに切迫している状態だ。


とにかく解決しなければならない。



「これって、何かのスタンド攻撃? 目的がいまいち見えないけど」


「いや、それはない。名前も知っているだろう……アジトにいくつものトラップが仕掛けてあると」


「だよねえ……うーん」


できる限りリーダーの顔のみを見つめるようにして、会話を淡々と続けていく。

身内はできれば、疑いたくはない。


――1番あり得るのはメローネだけど……さ。


先程のケリが効いたらしい。

今も変わらず床で寝そべる男(女)を一瞥し、容赦なく叩き起こそうか考えていると――



「まァまァ! そう焦る必要はねーって!」



きつかったのか、胸辺りのボタンを弾けさせたホルマジオが朗らかに笑ってみせた。

だが、彼女(彼)の顔にはやはり≪焦燥≫が浮かんでしまう。


「焦るなって言われても……それとも何か案でもあるの?」


「ん? ははッ、そうだなァ……酒でも飲んで寝たら、コロッと治んだろ!」



「「「「……」」」」


当然ながら、静まるリビング内。



それを打ち破ったのは、名前が漏らした苦笑交じりのため息だった。


「なんて楽観的……ま、今日ぐらいいっか。リーダー、いいでしょ?」


「……そうだな。ただし、≪今日だけ≫だからな」


「よし。じゃ、私おつまみ作ってくる。みんな先に飲んでなよ」


「きゃー! 名前ったらおっとこまえー! さあさあ! オレも料理手伝うから! 早くべろんべろんに酔って野獣のようにオレを抱いry」


「私から半径2メートル以内に近付くな、この痴女。というか、復活早すぎ……」


「ベネ……! ハァ、そのいつも以上の冷めた瞳と情を捨て去った声色ッ! ハアハア、ベリッシモ、イイ……!」



その後、もう一度トライした兄貴(姉貴)の努力によりようやくペッシ(大柄な女の子)が顔を出し、暗殺チームは皆が皆揃って昼間にもかかわらず大酒を食らったらしい。











Boys⇔Girls
結局何が原因だったのかわからず――それはアジトにある七不思議の一つになっています。




〜おまけ〜



「っ、ん……、ハッ!?」


瞼をカッと開いてから、そそくさと手を胸の前で動かす。

すると、捉えた柔らかさ。



≪戻った≫のだ。


「はあ、よかったー……」



不便をしたわけではないが、さすがに一生となれば苦しいものがある。

おそらく夢だったのだろう、いや、そうに違いない。


これからはもっと自分の身体を労わろう――と不可思議な誓いを立てながら、名前は上体をゆるりと起こし背伸びをした、が。



「ハン、やっと起きたか。≪モテ男≫の名前さんよお」


「……はい?」


左下から聞こえた低音ボイス。

勢いよくそちらへ振り向けば、同じ布団から顔を覗かせ、ニヒルな笑みを浮かべるなぜか裸のプロシュート。


さらに――


「ふあーあ……あ、おはよ、名前。昨日は……≪良かった≫ぜ?」


「!?」


右下には、にやにやと嬉しそうに笑うメローネが。

こちらもまるで当然と言うかのように、衣服を纏っていない。



急停止する思考・判断能力。


――これも夢だ、これも夢だ、これも夢だ……夢夢夢。



「……、……おやすみ」


バタン


もう一度左右に居る男二人を見回してから、彼女は≪現実逃避≫という名の二度寝をすることにした。




終わり









お待たせいたしました!
性転換した暗チのギャグでした。
男たちの恐ろしい奔放さと、ヒロインの小さな葛藤と諦めが、少しでも伝われば幸いです!


ノア様、リクエストありがとうございました!
感想&手直しのご希望がございましたら、よろしくお願いします。
polka



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