THE happening!!


※イルーゾォ夢
※甘裏




それは、ある蒸し暑い夜更けのこと。


「あー……喉乾いたな」



じめじめと肌を覆う感触に目を覚まし、イルーゾォはのそりとベッドから起き上がった。

そして、おもむろに自分の世界を歩き始める。



「……んー……ねむ、い」


聴覚も視覚も頼りにならない、暗闇と呼ばれる空間。

そんな状況下にもかかわらず、いくつもあるアジトの鏡の中で、もっともリビングに近いものを探す。


熟睡していたゆえかぼんやりと脳は霞み、まるで雲に乗って漂っているかのような感覚。



「……」


そう、はっきりと意識が覚醒しているのならば、あのようなことは起きなかった。




このとき、彼は≪寝ぼけて≫いたのである。



「ふあーあ……ここか」


もう夜中だ。

仕事から帰ってきたであろう仲間も、おそらくリビングにはいない。


今日は誰が任務なんだったっけ――そんなことを考えながら、目の前に現れた鏡を潜り抜けると、


「え? イル?」


「?」



視界を埋め尽くすのは、ちょうどボトムを脱ぎ終えた、上下ともども下着姿の恋人――名前。


鮮やかな布から覗く予想以上に豊満なバスト。

滑らかな脇腹から腰にかけてのSライン。

くっきりと浮き出た鎖骨やくびれ。

青白い月光が照らす細い肢体。



「……あれ、名前?」


「うん、私だけど…………もしかしてイル、寝ぼけてる?」



きょとんとする彼女の周りにはシンプルだが清潔感のあるベッドや書類の重ねられた机、もはや服の入る余地のないクローゼットが広がっている。




つまり、ここは名前の部屋だ。



「……、……え!?」


その事実を悟った途端、イルーゾォの脳は嫌でも目が覚めた。


「ご、ごごごめん! すぐ! すぐに帰るから……!」


恋人と言えど、まさか間違えて部屋へ入ってしまうなんて。

しかも着替え中。


決して劣情を抱いてしまい、慌てて離れようとしているわけでは――ない。



「ちょっ、ちょっと待って!」


「ぐッ!?」



だが、今出てきたばかりである姿見の端に手をかけた瞬間、後ろから勢いよく襟首を掴まれた。

当然ながら、仰け反る身体。



「ッ、名前、苦し……!」


「イル……私って、そんなに魅力ないの?」


「うぐ、締まる! 首締ま……っ、は?」


「お願い、答えて……っ」



解放されたと同時に振り返れば、あくまでも神妙な顔をした彼女のまなざしがこちらを射抜いている。

首から下は、あえて見ない。


少し、いやかなり顎を上げつつ、何を言っているのだと眉根を寄せた男は静かに口を開いた。


「なんでそう思ったんだよ。名前は可愛い(それに着やせするタイプだよな……)」


「……だって」


「だって、何?」



言いよどむ名前。

しかし、俯いた旋毛にイルーゾォの視線を感じ取ったのか、ぽつりぽつりと微かに震えた唇で言葉を紡ぎ出す。



「だっ、て……イル、全然……抱いて、くれないから」


「!?」


「≪一ヶ月以上ないのは、名前に魅力がないからか、イルーゾォが不能だからだ……あいつが不能だったらオレに鞍替えしろ≫って、プロシュートとメローネに言われて……」


「はあああッ!?」


「(ビクッ)」



――あいつら……三日ぐらい鏡に閉じ込めてやろうか……スタンドが持つかわかんないけど。


しかし何年仲間として時を過ごしても、失礼な奴らだ、本当に。

持続力が著しく低い己のスタンドを思い浮かべながら、ぶつぶつと彼らへ恨み言を心の中で口にする。


一方、珍しく般若のように怖い恋人の表情を目にして、名前の顔には「怒らせてしまったか」と焦燥が浮かんでいた。



「で……でも、イルーゾォが≪不能≫ってことはないでしょ? その、一回は、してるわけだし……私たち」


「そりゃあ……って、それがなんでお前の魅力なしにつながるんだよ!」


「わっ、私だって悩んだんだよ!? 服とか下着とか、いろいろ見直してみたり……!」



言われてみれば、この頃彼女は露出が多かった気がする。

その分、メローネがハアハアと息を荒げる機会が増え、自分自身も己の欲を必死に抑え付けていた。



すなわち、悪循環。


「……名前は名前。そのままでいいってオレは思うよ?」


「うん……」


「名前?」









「なら、今からでも遅くない、よね?」


「え――」



刹那、寝間着越しに捉える柔らかい感触と、重なった二つの唇。

イルーゾォは肩にそっと手を置かれ、名前にキスをされていた。


「んっ」


背伸びをしながら、彼女は懸命に舌を差し込もうとする。

緊張しているのかふるりと小刻みに揺れる睫毛。



ゾクリ

鋭いナイフが食い込んだかのように、刺激される身体の芯。

鈍い毒が侵していく己の脳髄。

少し前に覚えた喉の渇きなど、もう他のモノに書き換えられてしまっている。



ヤバい――そう直感した。



――ああ、このままじゃ――





止まらなくなる。



「! んっ……ふ、ぁ、はぁっ、はぁ」


「……は、ッ……名前」



ひどく肌触りの良い腰を引き寄せ、口腔を呼吸すら忘れて貪っていく。

名前の目尻に浮かぶ涙を確認したイルーゾォは、歯列の裏をゆっくりなぞってから、唇を離した。

そして、恋人と自分とをつなぐ銀色の糸に満足感を覚えながら、彼女をくるりと後ろへ向かせれば――



「はっ、ぁ……イル……、っ」


「久しぶりに触ったけど……やっぱり柔らかいね、名前の胸」


背後からブラジャーに右手を入れ、揺蕩う乳房を揉みしだき始める男。

先程までとは一変して、鏡の中にいるときのようにほくそ笑む彼に、名前はただただ翻弄されることしかできない。


「! ッぁ、そ、なことな……っ! 耳、やぁっ」


「嫌? でもオレ、ちゃんと覚えてるよ? 耳が弱いってことも」


「ぁっ、あん……噛んじゃ、ダメ、ぇ!」



赤らんだ耳たぶを食まれ、色づいた乳首を指と指の関節でグリグリと挟まれる。


「はぁっ、はッ、はぁ……もう、っわた、し」


ガクガクと快感に震える肢体。

心が求める官能の奥深く。


淫靡とも言える彼女の瞳に、イルーゾォがおもむろに右手をショーツへ忍ばせた。



「!」


「濡れてるね……まあ、名前から誘ったんだし、当然か」


「ッ……イ、ル」



≪早く一つになりたい≫。

その想いも込めて彼を一瞥すれば、秘部を擦っていた指先が抜かれ、ベッドへと誘導される。


ドサリ


「ぁ……」


「……名前」



いともたやすく取り払われてしまう下着。

二つの体重でギシッと軋んだ音が、より二人の感情を煽った。


鳴り止むことのない激しい鼓動。

肩から落ちるイルーゾォの美しい黒髪。

自分と同じ≪欲情≫が映り込むまなざし。


――嬉しいのだ。

彼と、身体を重ねられることが。


「っひゃ」



内腿に両手が添わされ、男の前で露わになる自分の蕩けた秘境。

きっと、ヒクヒクといやらしく誘い込んでいるに違いない。


すでに溢れ出す愛液。

己を主張する小さな陰核。

月明かりでテラテラと光る濡れた花弁。


その淫猥さにイルーゾォは思わずゴクリと唾をのみ、膣口へ人差し指と中指を伸ばした、が。


「イル……はぁ、っもう……シて?」


彼の動きは、こちらを見つめる潤んだ瞳と急かすような声によって止められた。

極上の誘い文句。

しかし、一ヶ月以上に渡って性交をしていないこともあり、当然だが不安もある。


おそらく痛いだろう――そんな思いから、男は窺うように白いシーツへ寝そべる彼女を凝視した。



「え? でも、久しぶりだから慣らさないと――」







「イルを……早く、感じたいの」


「ッ――」




≪魅力がないのでは≫と不安そうにしていた名前。


そんなわけがない。

ありえない。断言できる。



なぜなら――


「ゆっくり、挿入れるから」


「う、んっ……ぁ」



――ほら、お前の一言でこんなに……ドキドキしてる。

自分の寝間着を脱ぎ去ったイルーゾォは、紅潮した彼女の上に跨り、熱を帯びる性器をそっと秘部へ宛がう。



そして、


「はっ、はぁ……イル……っぁ、ああああ!」


「ッ、名前……!」


白い喉を晒し、名前は己の体温より確かに熱いモノを深く、深くへと受け入れた。

痛みは一瞬で消え――容赦なく押し寄せる甘い痺れ。



「ぁっ、ああっ、はぁ……イル、イル……ッ!」


「く、ッ……名前、気持ちいい?」


「や、ぁあああ! ソコ、っあん……やら、ソコ突いちゃやあ!」


蠢く肉襞が肥大する肉棒に蹂躙され、膣壁だけでなく子宮口まで支配されていく。

朦朧とする意識。

だが、同時にそれを優に超える強い刺激。



「ひぁっ、はッ、ぁっ、あ……わたひ、イっちゃ……っ」


予感する≪絶頂≫。

震えるナカに、イルーゾォはさらに律動を激しくする。


淫らな結合部。

部屋を覆い尽くす肉と肉の打ち付け合う音。



≪瞬間≫は、迫っていた。



「名前、ッ名前……くッ」


「ぁ、やぁッ……あつ、いの来ちゃ……、っぁあ!」



これでもかと言うほど脈打つ彼の性器。

ドクリ、と子宮に溢れ出す熱い想い。

快感でひそめられた眉と、歓喜の織り交じった瞳。

蒸し暑さで、ひどく汗ばんだ肌。



「――――」


それらすべてをただただ享受しながら、彼女はビクンと肢体を震わせ、一段と高い嬌声を上げていた。











「ね、イル……」


「ん?」


「……、私ね? 今、すごく幸せ」



身体の火照りゆえか、心の羞恥ゆえか。

頬を赤らめた名前が、小声で想いの丈を恋人へとぶつける。

その、安堵を滲ませた愛らしい表情に、イルーゾォはおもむろに口元を緩めた。



「うん……オレもこんなに幸せでいいのかってぐらい、幸せ」


「ふふ、同じだね」


「……名前」



微笑み合い、どちらからともなく唇を寄せる。

交わったかと思えば、決して外されることのない互いの視線。


そして、情事後特有の微睡みに導かれるまま、彼らはゆっくりと瞼を閉じた。





翌朝、二人で裸のまま寝ている姿をたまたま起こしに来たプロシュートに目撃され、しばらくの間アジト中でネタにされてしまったらしい。










THE happening!!
それで深まる≪絆≫もある?









お待たせいたしました!
キリリクでイルーゾォ裏夢でした。
鏡だし、こういうハプニングもありかな、と思い書かせていただきましたが、いかがだったでしょうか……!


リクエストありがとうございました!
感想&手直しのご希望がございましたら、お知らせいただけると嬉しいです。
polka



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