レディー・キラーのご加護


※『心のパーセンテイジ』の続き
※裏




全身に伝わる心地よい振動。

鼻腔を擽る、甘い香り。



「ん……、?」


――何だろう。

静かな微睡みの中、薄らと瞼を上げた名前は、視界を覆う美しい金に小さく首をかしげた。



「? ああ、起きたのか……ったく、眠りこけやがって。酒弱えクセに一気飲みなんてすっから、そうなんだよ」


「……」


ちらりとこちらを見た蒼。

どうやら、自分は彼に負ぶってもらっているらしい。


「(温かい……)ぷろ、しゅーと……?」


「……オレ以外何に見えんだ。怠いなら眠っとけ……もう少しで家に着く」


「う、ん」



本当ならば、すぐにでも「大丈夫だから下ろして」と言うべきなのだろう。

しかし、飲み過ぎたカクテルのおかげか、この男に甘えたい気持ちが強い。


――私だって本当は……。


心の奥の奥。

酔っている今なら、打ち明けられるだろうか。


脳内を一つの悩みでぐるぐるさせながら、彼女は手招く睡魔に誘われ、そっと目を閉じた。









「――名前、おい名前。起きろよ」


「っ……ん」



しばらくして。

再び耳に届いた今度は急かすような声に、慌てて頭を叩き起こす。


すると、目の前に広がるのは振り返り苦笑を漏らすプロシュートと、見慣れない家の扉。


「悪いな。寝かせてやりてえんだが、さすがにお前を抱えたままじゃ鍵開けられねえんだよ」


「あ、……ごめ、ん」


「ふっ、別に謝れとは言ってねえだろ。……下ろすからな」



ゆっくりと地に着く両足。

ハイヒールということも忘れていたのか、妙な高さに少しだけふらつきながら名前は彼の背中を見上げる。


――細身のクセに、意外に大きいよね……それに。


いまだ脳髄はぼんやりとしているが、一つだけ理解した。

ここは、今もドアを開き、自分に対するエスコートをスマートにやってのけてしまう男の家なのだ、と。


「どうした? 早く入れよ」


「……お邪魔、します」



玄関へ足を一歩踏み入れる。


――あ、プロシュートと同じ香り……。

ふわりと掠めた香しいそれに、心臓はドクドクと脈打ってしまう。


――ばっ、バカみたい……でも。


自分の隣を横切ったプロシュートが、リビングへ案内しようとしているのか廊下を歩き出した。


――少しだけ甘えて……みよう、かな。



「最近はめったに帰ってこねえからな……ま、何もねえがゆっくりしてけよ。水でも飲むか? 待ってろ、冷蔵庫漁って――」


次の瞬間。

男は、己の背中が捉えた温かく柔らかな感触に、紡いでいた言葉を途切れさせる。


静かに視線を斜め下へ落とせば、服をクシャリと掴む小さな手が映った。


「……名前? お前、寝ぼけてんのか?」


「…………違う」


「(その間はなんだよ、その間は)」



ドクリ――らしくないが、まさにツンデレと呼べる彼女の思わぬ態度に、自分も動揺しているらしい。


実は、カウンターで熟睡する名前に見かねて≪お持ち帰り≫はしたものの、体調への配慮から襲うつもりはなかったのだ。

しかし、このままではその決心ですら崩されかねない。


――チッ、こっちの気も知らねえでくっつきやがって。



「おい。今日はもう寝ろ。ベッド貸してやっから」


「……や」


「あ?」





「いやって言ったの。……少しぐらい、甘えさせてよ」


「!」


せっかく、ちっぽけだが勇気を出しているのだ。

だからこそ、あしらわないでもらいたい。

あくまで冷静な――実はそれを装っている彼にムッと唇を尖らせた彼女は指の力を強める。


好きだったのだ。

この男が、自分に話しかけてくるより先に。


「私だって……っ私の方が、あんたが私に近づいてくるずっと、ずっと前から、あんたのこと好きだったんだから……!」


支離滅裂だ。

勢いよく喉を通した酒が、上手く想いを言葉にさせてくれない。


現れたときに感じるドキドキも、女性に囲まれているときに現れるもやもやも。

自分だけが恋に翻弄されているようで悔しい。

湧き上がる感情に導かれるまま、名前が特徴的なジャケットの柄をキッと睨み上げた刹那――



「ん、ぅっ!?」


唇を塞ぐ何か。

背中全体が感じた冷たく固い壁。


玄関に押し付けられキスをされている――彼女がそう気付いたのは、己の口内をプロシュートが舌で貪りつくしている頃になってからのことだった。


「はぁ、っん、ふ……ぁ、ぷろしゅ、と……、んんッ」


それから、どれほどの時間が経っただろう。

口端から伝う唾液をペロリと舐めた彼は、静かに名前の額へ自分のモノを重ねる。


「バーカ。オレは、お前がオレを認識する前から好きだったんだぜ?」


「はぁ、っは……え?」


「ま、その時には≪裏切り≫が決まってたからな……アプローチは避けた」


けど、お前の気持ちが聞けて、正直嬉しい。

「!」


そう囁き、今にもキスされてしまいそうな距離で笑う男。

嘲笑とも皮肉気とも違ったそれに、ハッと息を飲んでいると――


「っぁ、ちょ……あんた、何して、っ」


「何って名前、お前が誘ってくれたんだろ。それに応えねえほど、オレも腐っちゃいねえよ」


首筋に顔を埋められたかと思えば、シャツの上をゆっくりと這う両手。

身体は玄関と彼の間に挟まれ、捩ることすら許されない。


「!? そ、いう意味じゃな……ひゃんっ!」


「ハン、今さら嫌がっても無駄だからな。可愛い声出しやがって」


「や、やめ……っ、ぁ」


一つ一つ、ボタンが外されていく。

その丁寧な――いや、焦らすような手つきに、名前は口では拒否を示しておきながらも、小さな期待を抱いてしまう。


「……ふ、抵抗しねえのか?」


「ッ……それは、その……ぁっ、揉んじゃダメ、っん」



背に片手が回された瞬間、ボトリとシャツの上に落ちるブラジャー。

目尻に涙を浮かべ、荒い息をこぼす彼女にほくそ笑みつつ、プロシュートは繊細かつ大胆に愛撫を始めた。


手のひらの中で、容易く形の変わる白い乳房。

その柔らかさを堪能しながら、親指と人差し指で色づき始めた乳首を摘まみ上げる。


「っ、やぁあ!」


「ダメ? そう言いながら、尖らせてるじゃねえか。期待、してたんだろ?」


「ひぁっ、や、ぁ……んッ、はぁ、ちが、っ違うの……!」


「なんだ、違えのか。そりゃあ残念だ」



おそらく彼にはバレている――わかっていても、首を縦に振ることは矜恃がさせてくれなかった。

一方、男は顔を埋めていた首筋から鎖骨、そして胸元へ唇を滑らせていく。


「ぁっ、ん……っはぁ、はッ……な、に……?」


「クク、なんだろうな。明日、鏡見てみろよ」


「? ッひゃ、いじわ、る……あんっ」



教えてくれてもいいではないか。

そんな意味を込めて見下ろせば、いつの間にか片手がスカートの中に入りこもうとしている。


慌てて腿に力を入れようとしても、時すでに遅し。


「はぁ、はぁっ……や、ちょっと、待って……ッ!」


「待たねえ。待つわけねえだろうが」



パサリ

下着に重なるショーツ。


なぜ、今日に限って≪紐≫式のモノを穿いてきてしまったのだろう。

顔を真っ赤にしながらプロシュートを睨めつけていると、彼はクツクツと喉を鳴らした。


「いいじゃねえか、紐。オレは好きだぜ……名前にプレゼントするか迷ったぐらいには、な」


「〜〜っバカ! スケベ親父! 淫猥罪で訴えられ……ひぁっ!?」


「おいおい。歳もあんま変わんねえクセに、そりゃあねえだろ」



刹那、男の指が容赦なく秘部を弄り始める。

クチュリクチュリと響く下半身に、名前が微かな抵抗をしてもそれは執拗に追ってくるではないか。


人差し指と中指が蠢く膣壁を、ゆっくりと攻め立てていく。

「ぁ、っぁ……やら、そこっ、擦らな、でぇ……っ」


「ハン、悪いな。≪スケベ親父≫のオレは、お前の快感に浸る顔が見てえんだよ」


「(気にして……)ッぁ、はぁ、っ……あっ、んん」



溢れ出す愛液を陰核に塗りたくられ、ガクガクと震える足。

プロシュートのもたらす愛撫が、すべての神経を過敏にさせていた。


「はッ、はぁ……ぷろ、しゅーと……っぁ、やぁ、っ」


トロリとした蜜が、内腿を流れ落ちる。

感じ入っていることを証明するそれに彼が口端を吊り上げていると、何かに掴まっていないと立っていられなくなったのか、彼女がぎゅっと両腕辺りのジャケットを握った。


「ぁっ、ん、っ……わた、しっ……もう……!」


熱に浮かされた瞳。

その二つの眼から溢れる≪欲情≫に、プロシュートは身体の芯が痺れるのを悟った。


「……無自覚ほど怖えモノはねえな」


「っはぁ、は……、? どう、いう……ぁっ!」


「わからねえならわからねえでいいが……他の奴の前ですんなよ?」


ま、させねえけどな。

小さく呟き、自己完結してしまった男に小首をかしげた瞬間、おもむろに左足を持ち上げられる。


「!」


そして、ズボンから露わになった一物に、慌てて視線を外そうとしても、≪逃げるな≫と言うかのように顎をもう片方の手で固定されてしまう。


「ひ……っ」


「腕、回しとけ」



捲れ上がるスカート。

ひやりと冷たさを感じたかと思えば、次にやってきたのは花弁が捉える部分的な熱。

それだけで焦がされてしまいそうだ。


コツン、ともう一度合わされた額に名前はそっと頷き、目の前の彼へ縋り付く。


すると――


「っぁ……ん、んん……ッ!」


膣内をゆっくり押し拡げていく、硬さを帯びた性器。

その脈打つモノに、揺蕩う躯体を委ねることしかできない。



「く、ッ……名前、力抜け……!」


「はぁっ、あん、たのが……お、きいん、でしょ……ぁっ、はぁ、っ……や、ぁああ!」


「チッ……煽んじゃねえよ、ッ」


煽っていない。

ふるふると首を懸命に横へ振っても、聞く気はないと律動を始めるプロシュート。

嫌でも響き渡る水音と、皮膚と皮膚がぶつかり合う音にただただ欲と羞恥が掻き立てられていく。


「ぁっ、ぁっ……やらぁ、っは、ぁ……はげし、のダメ、ぇ……ッ」


「ふ……腰くねらせといて、よく言うぜ」



玄関に散らばる衣服。

肩口で押し殺される嬌声。

さまざまな体液に塗れた結合部。


その上にある腫れ上がった肉芽を、思い出したかのように指先で擦れば、ビクンと名前の腰部が跳ねた。


「ひぁ、っ、やぁあっ!」


「ずいぶんナカが締まったな……クリ弄られんの、好きか?」


「っ……ぁ、ちが……はぁっ、は、ちが、のぉッ」


「ククッ、拒絶しておきながら、ますます肉襞を収縮させてんじゃねえか。名前はほんと天邪鬼だなァ、おい」


ねっとりと耳たぶを食まれ、舌先で転がされる。

男の激しく、鋭い打ち付けに、彼女は喉を枯らしてしまいそうなほど喘いだ。



「っぁ、はぁッ……や、ぷろしゅ、と……あん、っ!」


小刻みに震える膣が肉棒を根元まで飲み込んだ途端、グチュリとそのモノで最奥まで突き上げられる。


クラリ

遠退いては引き戻される感覚。

快楽に絆される中で、しばらくして垣間見えたのは≪限界≫。



「ぁっ、ぁ、いや、っん、イっちゃ……ぁ、っあああ……!」


「ッく……名前――」


全身が、脳髄ですら快感に引き込まれていく。

そのとき視界の端が捉えた――肌に汗を滲ませ、官能と苦悶の狭間で想いを吐き出す彼に、確かな≪愛しさ≫を感じながら名前はするりと意識を手放した。









「――ハッ!?」


開かれる眼。

目の前に広がるこれまた見慣れない天井。

上体を勢いよく起こし、彼女がきょろきょろと周りを見渡そうとした、そのとき。


「Buon giorno、名前。よく眠れたか?」


「! お、おはよ、う」


同じベッドの上、隣には楽しげに口端を上げるプロシュートが。


つまり一線を越えたのだ、この男と。


「クク、どうした。口をぽかんと開けて……覚えてんだろ? 昨日のこと」


「〜〜っ/////」


必死に布団の端を手繰り寄せながら、上へ下へと視線を彷徨わせる。


そして、自分へ向けられる優しいまなざしに行き着いた名前は、

「せ……責任、取りなさいよね……っ」


と、強がりに似た言葉をぽつりと紡ぎ出していた。



「……ハン、上等だ。喜んで取ってやるよ、お前の言う責任をな」


「ッ」



おかしい、お酒はすでに抜けきったはずなのに――顔が熱い。

そんな自分に勘付かれたくなくて、そっぽを向いた彼女にますます笑みを深めたプロシュートは、すかさずベッドから起き上がりその頬と同じぐらい赤い唇を奪うのだった。










レディー・キラーのご加護
素面でも出せる、≪素直さ≫を願って。




〜おまけ〜



「ほらよ」


甘い口付けが止まり、おもむろに差し出されたのは彼がいつも着ている仕事用のジャケット。


「な、何?」


「この部屋、寒いだろ? これでも着とけよ。ま、オレに襲われてえなら、そのままの格好でいてもいいけどな」


「! そんなのまっぴらごめんよ……っ、……ありがと(いそいそとジャケットを着て)」


「……」



彼シャツならぬ彼ジャケット。


名前の華奢な身体を包む、自分の服をプロシュートがまじまじと見つめる。


指先まで隠してしまいそうな袖。

際立つ色から伸びる白い太腿。

所有欲を刺激する姿。

一方、彼女はその視線に気付かぬまま、そろりとベッドから立ち上がった。



「ねえ、シャワー貸してもらってもいい? やっぱりこのまま帰るのも気が引けるし……ちょっと、聞いてる?」


「……イイな」


「は?」


「お前のそれ、すげえそそられる」


「……、正しいイタリア語でお願いしま――きゃあ!?」


突如、背中と膝裏に差し込まれた両手。

宙に浮いた己の両足。

横抱きされている――そう悟った瞬間、それまでの大人しさが嘘だったかのように男から逃れようと彼女は暴れ始める。


「やだっ、お、下ろして! 下ろしなさいってば……!」


「却下。昨日、≪負ぶってやる≫って言ったときは二つ返事で抱きついてきたじゃねえか。素直になれって」


「な……!? 〜〜ッ知らない! 私覚えてない!」


「ほーう……ならじっくり時間をかけて思い出させてやるまでだ。どうせ仕事も、行くだけ行ってサボんだろ?」


「!?!? いっ……いやああああ!」



こちらを突き刺す肉食獣のような目に悲鳴を上げれども、ここは彼の家。

助けも何も期待すらできぬまま、名前は降ってくるキスの雨と共に浴室へ消えたのだった。


二人がいつ、どのような状態でそこから出てきたのか――それは誰も知らない。











お待たせいたしました!
『心のパーセンテイジ』の続きでした。
お酒の後ということもあり、裏的展開にさせていただきましたが、いかがでしたでしょうか?


じゅん様、リクエストありがとうございました!
感想&手直しのご希望がございましたら、ぜひお願いいたします!
polka



prev next
13/39
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -