Il mio cavaliere


※兄貴夢
※微切甘?



夜道を駆けていく足音。


――どうして今日に限って失敗なんか……!

路地裏で息をひそめながら、名前は今日遂行しなければならない仕事を思い浮かべていた。




要人の始末。

暗殺チームのリーダー、リゾットから請け負ったのはいつもと変わらない仕事だった。



「だが、その男はスタンド使いを雇っているようだ。……気をつけろ」


「大丈夫! 私だってスタンド使いだよ? 任せて!」


「……任せたぞ」



そんな大見得切って、なんだろうこのざまは。

ターゲットを遠くから確認できたことまではよかった。



でも――




「探せ! まだそのあたりに隠れているはずだッ!」



探知型のスタンドに発見されてしまうなんて。

まだ任務も始まってない。



「ッ……」



悔しい。


もう後先考えずに飛び出してしまおうか。

スタンドで対抗すればいい。


背中に立つ自分のスタンドを見上げて、月明かりが照らす道へ一歩踏み出したそのとき。




「!?」


左腕を勢いよく引き寄せられ、口を覆う何か。



「んんっ!? んーーッ!」


「名前」


「!」



聞き覚えのある声に――それまで必死に暴れていた身体は、自然と落ち着きを取り戻していた。



「プロ、シュート……」


「ったく、マンモーナが。何も考えずに飛び出すつもりか? え?」


「っ、それは……そんなことより! どうしてプロシュートがここに……!」



背中が捉えていた彼の胸元から慌てて距離を置けば、ハンといつものように笑うプロシュート。



「仕事だ仕事」


「仕事、なら……なんで」


「……ほら、行くぞ」


「わっ!?」



再び引き寄せられる腕。

手首をしっかり握る先を睨みつけても、ザ・グレイトフル・デッドを出した男はにっと笑うばかり。



「ちゃんと、走れよ」


「え? 何言って……ぎゃあっ!?」



路地裏から現れる二つの影。

鋭く駆け抜けていくそれに、要人の護衛たちが気付かないはずがない。


「居たぞッ!」


「始末しろ……!」



とんだ逃亡劇だ。

しかも、向かっている先は――ターゲットの家。



背後から容赦なく銃を放つ男たちに、名前は息を切らせながら足に鞭を打つ。


「はぁっ、はっ……プロシュート! わた、私は、いいから……ッ!?」


「うるせえ! 黙ってオレに守られてろッ!」


「!」


ジャケットの裏から拳銃を取りだし、プロシュートが後ろに向かって引き金を引いた。

しかし、たとえすべてが命中しても――追いかけてくる輩はまだ残っているのだ。



「チッ、キリがねえな……名前」


「っは、はぁ、は……な、に……ってちょ!?」


「文句なら後で聞くぜ!」



あっという間だった。

銃を自分の元へ戻したかと思えば、彼は私を両腕で抱き上げたのだ。



とっさにその首へ腕を回したのはいいけど、この状況ってつまり≪お姫様抱っこ≫なわけで。


「ぷ、ぷぷプロシュート……あ、あんた……!」


「おい、耳元で叫ぶな! 死にたくねえならな!」


「あんただって! 危険が増すんだから、私なんか放って仕事行きなさいよ!」



そうだ。自分は任務に失敗したのだ。

確かに私たちはチームメイトだけど、こうして守るなんて絶対にありえない。


なのに。




「バカ野郎ッ! 好きな女を守りきれねえで、何が男だ!」


「……え?」



プロシュートが、そんなこと言うから。



「ッく、おい名前。お前のスタンド、もう≪イケる≫な?」


「! 了解……!」


結局、私は彼に抱かれたまま、要人を始末したのだった。








「なるほど、そういうことか」


「……ごめんなさい。想像した以上に時間がかかっちゃった」


「いや、任務が完遂したならそれでいい」


「うん……」



一時間後。リーダーの部屋で、私は複雑な表情のまま報告を続けていた。

怪我の一切ない身体。

路地裏に隠れているときは、まさか無傷で帰ってこられるとは思いもしなかった。


――後でちゃんとプロシュートにお礼言わなきゃ……それに、あの言葉の真意も。



「ああ、そうだ。プロシュートには礼を言った方がいいぞ。あいつは今日、珍しく休みだったからな」


「……そっか、休み…………え!?」



――≪仕事≫だ仕事。




次の瞬間、その場を飛び出した私は、ノックもせずにプロシュートの部屋の扉を開けていた。


バンッ



「プロシュート! 休みってどういう……っ」


「……名前」


「ちょっと、その傷……!」



視界に映ったのは、上半身裸の状態でベッドに座る男。

でも、それ以上に――彼の腕にぐるぐると巻かれた包帯と滲む赤が私に衝撃を与えた。


「ハン、血なんてほぼ毎日見てんじゃねえか。だから、悲鳴上げるほどのことでも――」


「そうじゃない! そうじゃないの……これ、走ってるときに、でしょ?」


机に放り投げられているジャケットを一瞥すれば、銃弾が掠めたような破れた痕。

そこから視線を戻し、二の腕にそっと触れれば、プロシュートは少しだけ眉をひそめる。



「それに、リーダーから聞いた。今日、休みだったんでしょ?」


「……クソ。リゾットの奴、とんでもねえことばらしやがって」


「……やっぱりほんとなんだ」



嬉しさ、より心を占めるのは辛さ。

自分のせいで好きな人が傷付いた――それが何より嫌だった。



「おい、名前。何シケた面して――」


「ごめん……本当にごめんなさい。私が、もっとターゲットのこと調べてからいけばよか……んっ」



刹那、言葉を紡いでいた自分の唇を覆う柔らかい何か。

それはさっきのもの、つまり手のひらとは違うもので――


「……もう、謝んじゃねえよ」


「っ、でも」


「言っただろ? 好きな女を守りきるって」


「!」


「オレは名前をこうして守り切れた。その代償がこの痛くも痒くもねえ傷なら、喜んで受け入れてやる」



私の声を塞いでいたもの――唇をペロリと舐めた彼は優しく、そして誇らしげに笑っていた。


「プロシュート……」


「それによ、オレはお前の口から謝罪より、もっと聞きてえ言葉があるんだが?」


「っ……ありがとう」



ぽつり。そう呟けば、一瞬驚くように目を見開いてから、プロシュートが深いため息をつく。



「ったく、そうじゃねえだろ? オレがこんなにもわかりやすく口説いてんだから――」


「……プロシュート」


「いくら恋愛経験の少ねえマンモーナでも……あ?」


「あのね」










Il mio cavaliere
油断した彼に抱きついて、「好き」って私は告げるの。




〜おまけ〜



というわけで、私たちはめでたく付き合うことになったんだけど……。


「ほら名前、早くスプーン差し出せって」


「な、なんで≪あーん≫しなきゃいけないの?」


「おいおい。怪我負ったのが利き腕だから仕方ねえだろ?」


「〜〜っわかってるけどさ……!」



私の腰を引き寄せて、口を開けるプロシュート。

その嬉々とした様子に、まさかこれを狙ってたんじゃ――って変に疑ってしまう。



「ん、うめえな……メシ終わったら、風呂頼むぜ?」


「え!?」


「なんだその反応は? お前が言ったんだろ? 申し訳ないから≪何でも≫するって」


「〜〜!(この、生ハム……!)」


「だから……下の世話も頼むぜ?」




コ イ ツ。

本当なら殴り飛ばしたいけど、しばらくの我慢だ。


プロシュートの怪我が治ったら、表の世界のようなとは言えなくても、今よりマシな恋人生活が送れるんだし――




「あ、それと。お前の荷物、リゾットに言ってこっちに運んでもらうからな」


「へっ?」


何、言ってるの?

ぽかんとする私を放って、にやにやと口元を緩める男。


「アジト内で同棲、これは刺激的な生活になりそうだ……いや、刺激的な性活にしてやる」


「……」


「名前?」






「やっぱり別れる!!!」


しかし、利き腕はたとえ使えなくても、彼は百戦錬磨の色男なわけで――私はあっさりと食べられてしまうのだった。







お待たせしました!
3223番キリリクで、兄貴に守られるヒロインでした!
もっとアクションを追求したかったんですが、今の私にはこれが精一杯でした……精進致します。
ちなみに、タイトルは「私の騎士」という意味です。


うなぎ様、リクエストありがとうございました!
感想&手直しのご希望があれば、ぜひお願いします。
polka



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