甘苦マキアート
※リーダー夢
※連載「Uno croce nera...」のヒロイン
※甘
しとしとと降る雨が、アスファルトに染み込んでいく。
「名前、肩が濡れるだろう。もっとこっちに来るんだ」
「ふふ、私は大丈夫ですよ? 私より、リゾットさんの肩が現在進行形で濡れてしまっています」
いつもより人通りの少ない道に、黒い傘が一つ。
降水確率100%。
テレビが伝えたその予報に、キラキラとおもちゃを発見した子供のように深紅の瞳を輝かせた名前を見て、リゾットが≪デート≫を提案したのだ。
「……オレのことは気にするな。名前、君が風邪を引いてしまうのは困る」
「気にしないわけないじゃないですか! それに、私だってリゾットさんが風邪を引いてしまうのは嫌です!」
「ふむ……確かに、オレが風邪を引けばキスはおろか、抱きしめることすらできなくなってしまうのか」
「なっ////そういう意味じゃなくて……っもう、茶化さないでください!」
小雨とは言えない状況下において、横切る人すべての顔が浮かない中、二人だけはやけに晴れやかだった。
ちなみに、傘も持たずにアジトから飛び出そうとした少女を男がとっ捕まえ、今の――相合傘という形でなんとか収まりが着いたのは言うまでもない。
当然ながら最初は恥ずかしがっていた彼女も、吹っ切れたのか右手で傘の柄を持つ彼に身を寄せている。
服越しだが、左側と腕を回した肩からはっきりと感じる体温。
それを噛み締めながら、リゾットはふっと口元を緩めた。
「? どうされたんですか?」
「いや……名前が楽しそうで嬉しいんだ」
「!」
よしよしと肩に回されていた左手で髪を撫でられたかと思えば、不意にこめかみへそっとキスをされる。
雨音に交じる、リップ音。
「あ、うっ、〜〜っリゾットさん!」
「ん?」
彼の突然の行動に目を丸くし、慌てた様子で周りを見渡した名前。
――よ、よかった……誰もいない……。
一方、握る傘を水がかからない程度に後ろへずらした男は、ますます二人の空間を作り出そうとしていた。
「こら、名前。余所見をするんじゃあない」
「え? あっ、ごめんなさ……!」
振り向けば、想像以上に至近距離のリゾットの端整な顔が。
刹那、静かに息をのんだ少女は、動揺を携えたまま彼越しに一つの洋服屋を見とめ、すかさず両手で目の前の唇を塞いだ。
「んぐ……?」
「り、りりリゾットさんっ! あの店! あの店に、入りましょう?」
≪あの店≫。
自分の口元を包む、柔らかな手のひらの感触を捉えつつ、男がおもむろに視線を後ろへ移した。
そして、しばらくの間が空き、赤い瞳は再びこちらを上目遣いで見上げる彼女へと向く。
「……ふぐぐふんふ、ふぐふんふ?(今じゃなきゃ、ダメなのか?)」
「っ、はい! 今行きたいんです……!」
「……」
なぜ通じるのか――この際、その疑問は横に置いておこう。
≪お願いします≫、と珍しくおねだり――リゾットにとってはそう感じるらしい――をする名前に、もちろん≪キスをしたいから拒否≫という選択肢は選べるはずがなかった。
「わあ……!」
展示されたさまざまな衣服。
購入とまでは大抵いかないものの、店に足を踏み入れるのが嫌というわけでもなかった。
きょろきょろとディスプレイを眺める少女の横顔を、親のような眼差しで彼は微笑みながら見つめる。
すると、その視線に気が付いたのか、彼女は申し訳なさそうに眉尻を下げた。
「ごめんなさい……はしゃいじゃって」
「ふ……謝らなくていい。どれか、試着してみないのか?」
「え!? いっ、いいですよ! 買わないのにそんな――」
「これとこれだな」
遠慮がちに胸の前で両手を振る名前。
だが、その言葉に音を重ねるように呟き、男は真顔で服を幾枚か手に取ってしまう。
そして、唖然とする少女をそそくさと試着室へ連行した。
「えと……どう、ですか?」
「……」
数分が経ち、カーテンからひょこりと彼女は顔を出す。
首から下を覆う、自分が選んだ服。
正直に言おう。
「? リゾットさん、あの……」
「……可愛い」
「へっ?」
――とてつもなく可愛い。
おそらく、いや絶対に似合う――そう考えて持たせたモノを名前が着るだけで、それらは一段と輝きを増した。
ところがリゾットがかなりの確率でその言葉を紡ぐと知っている少女は、訝しげに眉根を寄せる。
「……お世辞はいいんですよ? 私、こういうの着たことありませんし」
「オレが世辞など言ったことがあったか? すべて本音だ。嘘はない……今から脱ぐんだろう? 手伝おう」
「そんなバッサリ……って、え!?」
次の瞬間、彼女が制止する間もなく、彼は試着室へと入り込んでしまった。
狭い空間に二人。
焦燥と共に男の胸元へ置いた手からは、心地よい温度と鼓動が感じられ、ドキリとしてしまったせいで押し返すこともできない。
こちらを見上げては、さっと視線を落とす名前に、気を良くしたリゾットは当然――先程できなかった≪口付け≫をしようと試みる。
「……名前」
「〜〜っ////」
左耳を掠める吐息。
囁きかけるような声が、まるで≪いけないこと≫をしているような錯覚に陥らせた。
艶やかな髪から添わせるように、するりと頬を左手で包む。
そして、少しだけ開かれた桜色の唇を塞ぐため、徐々に距離を縮めていた――そのとき。
「あのお客様? ご試着、いかがですか?」
「!」
「っだ、大丈夫です……! すぐ出ます!」
カーテンの奥から届いた少しばかり困惑した声色に、ハッと我に返った少女が、目の前の彼を弱めにだが押した。
もちろん、恋人は不満げだがこの際無視だ。
再び一室に一人残った彼女は、顔を赤らめたままそそくさと服を脱ぎ始めた。
一件落着かと思われた出来事。
「今なら30%オフですが……」
「全部買おう」
しかし、名前の知らぬところで、試着した服すべてを男が即決で購入していたのは言うまでもない。
「……」
「リゾットさん……えっと、コーヒー冷めちゃいますよ?」
「ああ」
店から道へ出た後、もう一度相合傘をしていた二人はたまたま発見した喫茶店に立ち寄っていた。
だが、向かい合って座ったリゾットは、どこか落ち込み気味だ。
というより、自分の目論見を二度も阻まれ、いじけているのかもしれない。
その滅多に見られない姿に、甘いキャラメルマキアートをちびちびと飲みながら、少女の心はきゅんと音を立てる。
「ふふ……リゾットさん、可愛い……あっ」
「……名前(じとー)」
「う……ごめんなさい」
今更、本音という名の失言に気付いても、もう遅い。
テーブルを挟んでこちらを突き刺すじとりとした眼光から、あらぬ方へと視線を外した彼女。
何か別の話題を――漂う沈黙の中、しばらく逡巡していた名前は、一切減っていない白いカップに覆われた黒を目にして「あ」と声を上げた。
「ん?」
「いえ……いつも思っていたんですけど、ブラックって苦くないんですか?」
彼と共に時を過ごしてかなり経ったが、いつもブラックコーヒーを口にしている。
かと言って、甘いものが嫌いなわけでもない――むしろ好物らしい。
きょとんと首をかしげた名前に対して、男は二つのカップを見比べながら、ほんのりと口端を上げた。
「ふむ……まあ、名前のそれよりは苦いだろうな……飲んでみるか?」
差し出されたミルクも砂糖も入っていないコーヒー。
小さな渦巻きが生じている水面。
それを一瞥した少女は、≪苦いのはちょっと……≫と断ろうとして、あることを思いついた。
――うん、これで機嫌を直してくれたら……いいな。
計画を実行へ移すために、彼女がおずおずと口を開く。
「あのっ、まずはリゾットさんが飲んでください……ね?」
「? わかった」
何事だと小首をかしげつつも、ようやくブラックコーヒーを喉に通すリゾット。
その姿を視界に収めたと同時に、名前も空に近かったキャラメルマキアートを飲み干した。
そして、窓際に置いてあったメニューを反対側へ持ち寄り、おもむろに広げる。
「どうした? ケーキでも頼むのか?」
「えへへ、違います。ちょっと待っててくださいね」
「ん? 待つのは構わないが、一体何を――」
チュッ
「!」
刹那、近付いたかと思えば、すぐ離れてしまった瞼を閉じた少女の顔。
一瞬だけ、二人の世界にするかのごとく、客席や店員に向かって開かれていた大きなメニュー表。
唇に残るのは、慣れた苦さに混じった甘み。
「……」
「やっぱり……ブラックは苦い、ですね」
――でもこの味、クセになっちゃいそうです。
照れくさそうに眉尻を下げ、苦さゆえか少しだけ赤い舌を出した可愛い恋人。
想像もしなかった大胆なキスとあどけない表情に、驚きに見開かれた目は自ずと名前へと釘付けになった。
一方、彼女は感想を聞こうとこちらへ身を乗り出している。
「リゾットさんは、どうでしたか? 甘ったるいですか?」
「……確かに≪甘い≫、な……」
「だが、結構好みだ」
「! えへへ、よかった」
かなり現金だと理解はしている。
だが――彼女の優しさ、笑顔、声、行動。
そのすべてがまるで魔法のように、自分の中に蔓延っていた≪モノ≫すら忘れさせてしまうのだった。
甘苦マキアート
交ざり合って、想い深まる。
〜おまけ〜
目を伏せはにかむ名前と、珍しく表情が豊かな――嬉しそうに微笑んだリゾット。
そんな、甘くキラキラとしたひと時を過ごす彼らを、遠くの席から見つめる六人の≪輩≫がいた。
メ「あーッ、いいなあ! リーダー、名前からキスしてもらえるなんて! オレもしてほしい〜!」
プ「ハン、何寝ぼけたこと言ってんだ。リゾットが一人席を立った瞬間、オレはキスだけじゃなく名前ごと掻っ攫ってやるつもりだぜ」
ペ「あ、兄貴かっけええ!」
イ「いや、かっこいいとかじゃないだろ」
ギ「チッ(なんで俺まで……)」
イ「あ、今度はリーダーからキスしてる」
プ・メ「「……何ィィィィッ!?」」
ホ「しかもメニューで隠したまま、深いの始めてるぜ。ったく、二人はいつまで経ってもお熱いなァ!」
ギ「……帰りてエエ……(クソッ、リゾットも公衆の面前ですんじゃねえよ! つか、名前も、あ……あんな顔しやがって……ッ!)」
プシューッ
ホ「あ、ギアッチョの頭から湯気が出てんぞ」
ペ「え!? ちょ、大丈夫!?」
ホ「ハハ! こいつには刺激が強すぎたんだろ……しょーがねェな〜!」
終わり
お待たせいたしました!
リーダーと連載ヒロインでデートでした。
高確率でリーダーにしてやられているので、たまには……ということで書かせていただきましたが、いかがでしたでしょうか?
おはぎ様、リクエストありがとうございました!
感想&手直しのご希望がございましたら、お願いいたします!
polka
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※連載「Uno croce nera...」のヒロイン
※甘
しとしとと降る雨が、アスファルトに染み込んでいく。
「名前、肩が濡れるだろう。もっとこっちに来るんだ」
「ふふ、私は大丈夫ですよ? 私より、リゾットさんの肩が現在進行形で濡れてしまっています」
いつもより人通りの少ない道に、黒い傘が一つ。
降水確率100%。
テレビが伝えたその予報に、キラキラとおもちゃを発見した子供のように深紅の瞳を輝かせた名前を見て、リゾットが≪デート≫を提案したのだ。
「……オレのことは気にするな。名前、君が風邪を引いてしまうのは困る」
「気にしないわけないじゃないですか! それに、私だってリゾットさんが風邪を引いてしまうのは嫌です!」
「ふむ……確かに、オレが風邪を引けばキスはおろか、抱きしめることすらできなくなってしまうのか」
「なっ////そういう意味じゃなくて……っもう、茶化さないでください!」
小雨とは言えない状況下において、横切る人すべての顔が浮かない中、二人だけはやけに晴れやかだった。
ちなみに、傘も持たずにアジトから飛び出そうとした少女を男がとっ捕まえ、今の――相合傘という形でなんとか収まりが着いたのは言うまでもない。
当然ながら最初は恥ずかしがっていた彼女も、吹っ切れたのか右手で傘の柄を持つ彼に身を寄せている。
服越しだが、左側と腕を回した肩からはっきりと感じる体温。
それを噛み締めながら、リゾットはふっと口元を緩めた。
「? どうされたんですか?」
「いや……名前が楽しそうで嬉しいんだ」
「!」
よしよしと肩に回されていた左手で髪を撫でられたかと思えば、不意にこめかみへそっとキスをされる。
雨音に交じる、リップ音。
「あ、うっ、〜〜っリゾットさん!」
「ん?」
彼の突然の行動に目を丸くし、慌てた様子で周りを見渡した名前。
――よ、よかった……誰もいない……。
一方、握る傘を水がかからない程度に後ろへずらした男は、ますます二人の空間を作り出そうとしていた。
「こら、名前。余所見をするんじゃあない」
「え? あっ、ごめんなさ……!」
振り向けば、想像以上に至近距離のリゾットの端整な顔が。
刹那、静かに息をのんだ少女は、動揺を携えたまま彼越しに一つの洋服屋を見とめ、すかさず両手で目の前の唇を塞いだ。
「んぐ……?」
「り、りりリゾットさんっ! あの店! あの店に、入りましょう?」
≪あの店≫。
自分の口元を包む、柔らかな手のひらの感触を捉えつつ、男がおもむろに視線を後ろへ移した。
そして、しばらくの間が空き、赤い瞳は再びこちらを上目遣いで見上げる彼女へと向く。
「……ふぐぐふんふ、ふぐふんふ?(今じゃなきゃ、ダメなのか?)」
「っ、はい! 今行きたいんです……!」
「……」
なぜ通じるのか――この際、その疑問は横に置いておこう。
≪お願いします≫、と珍しくおねだり――リゾットにとってはそう感じるらしい――をする名前に、もちろん≪キスをしたいから拒否≫という選択肢は選べるはずがなかった。
「わあ……!」
展示されたさまざまな衣服。
購入とまでは大抵いかないものの、店に足を踏み入れるのが嫌というわけでもなかった。
きょろきょろとディスプレイを眺める少女の横顔を、親のような眼差しで彼は微笑みながら見つめる。
すると、その視線に気が付いたのか、彼女は申し訳なさそうに眉尻を下げた。
「ごめんなさい……はしゃいじゃって」
「ふ……謝らなくていい。どれか、試着してみないのか?」
「え!? いっ、いいですよ! 買わないのにそんな――」
「これとこれだな」
遠慮がちに胸の前で両手を振る名前。
だが、その言葉に音を重ねるように呟き、男は真顔で服を幾枚か手に取ってしまう。
そして、唖然とする少女をそそくさと試着室へ連行した。
「えと……どう、ですか?」
「……」
数分が経ち、カーテンからひょこりと彼女は顔を出す。
首から下を覆う、自分が選んだ服。
正直に言おう。
「? リゾットさん、あの……」
「……可愛い」
「へっ?」
――とてつもなく可愛い。
おそらく、いや絶対に似合う――そう考えて持たせたモノを名前が着るだけで、それらは一段と輝きを増した。
ところがリゾットがかなりの確率でその言葉を紡ぐと知っている少女は、訝しげに眉根を寄せる。
「……お世辞はいいんですよ? 私、こういうの着たことありませんし」
「オレが世辞など言ったことがあったか? すべて本音だ。嘘はない……今から脱ぐんだろう? 手伝おう」
「そんなバッサリ……って、え!?」
次の瞬間、彼女が制止する間もなく、彼は試着室へと入り込んでしまった。
狭い空間に二人。
焦燥と共に男の胸元へ置いた手からは、心地よい温度と鼓動が感じられ、ドキリとしてしまったせいで押し返すこともできない。
こちらを見上げては、さっと視線を落とす名前に、気を良くしたリゾットは当然――先程できなかった≪口付け≫をしようと試みる。
「……名前」
「〜〜っ////」
左耳を掠める吐息。
囁きかけるような声が、まるで≪いけないこと≫をしているような錯覚に陥らせた。
艶やかな髪から添わせるように、するりと頬を左手で包む。
そして、少しだけ開かれた桜色の唇を塞ぐため、徐々に距離を縮めていた――そのとき。
「あのお客様? ご試着、いかがですか?」
「!」
「っだ、大丈夫です……! すぐ出ます!」
カーテンの奥から届いた少しばかり困惑した声色に、ハッと我に返った少女が、目の前の彼を弱めにだが押した。
もちろん、恋人は不満げだがこの際無視だ。
再び一室に一人残った彼女は、顔を赤らめたままそそくさと服を脱ぎ始めた。
一件落着かと思われた出来事。
「今なら30%オフですが……」
「全部買おう」
しかし、名前の知らぬところで、試着した服すべてを男が即決で購入していたのは言うまでもない。
「……」
「リゾットさん……えっと、コーヒー冷めちゃいますよ?」
「ああ」
店から道へ出た後、もう一度相合傘をしていた二人はたまたま発見した喫茶店に立ち寄っていた。
だが、向かい合って座ったリゾットは、どこか落ち込み気味だ。
というより、自分の目論見を二度も阻まれ、いじけているのかもしれない。
その滅多に見られない姿に、甘いキャラメルマキアートをちびちびと飲みながら、少女の心はきゅんと音を立てる。
「ふふ……リゾットさん、可愛い……あっ」
「……名前(じとー)」
「う……ごめんなさい」
今更、本音という名の失言に気付いても、もう遅い。
テーブルを挟んでこちらを突き刺すじとりとした眼光から、あらぬ方へと視線を外した彼女。
何か別の話題を――漂う沈黙の中、しばらく逡巡していた名前は、一切減っていない白いカップに覆われた黒を目にして「あ」と声を上げた。
「ん?」
「いえ……いつも思っていたんですけど、ブラックって苦くないんですか?」
彼と共に時を過ごしてかなり経ったが、いつもブラックコーヒーを口にしている。
かと言って、甘いものが嫌いなわけでもない――むしろ好物らしい。
きょとんと首をかしげた名前に対して、男は二つのカップを見比べながら、ほんのりと口端を上げた。
「ふむ……まあ、名前のそれよりは苦いだろうな……飲んでみるか?」
差し出されたミルクも砂糖も入っていないコーヒー。
小さな渦巻きが生じている水面。
それを一瞥した少女は、≪苦いのはちょっと……≫と断ろうとして、あることを思いついた。
――うん、これで機嫌を直してくれたら……いいな。
計画を実行へ移すために、彼女がおずおずと口を開く。
「あのっ、まずはリゾットさんが飲んでください……ね?」
「? わかった」
何事だと小首をかしげつつも、ようやくブラックコーヒーを喉に通すリゾット。
その姿を視界に収めたと同時に、名前も空に近かったキャラメルマキアートを飲み干した。
そして、窓際に置いてあったメニューを反対側へ持ち寄り、おもむろに広げる。
「どうした? ケーキでも頼むのか?」
「えへへ、違います。ちょっと待っててくださいね」
「ん? 待つのは構わないが、一体何を――」
チュッ
「!」
刹那、近付いたかと思えば、すぐ離れてしまった瞼を閉じた少女の顔。
一瞬だけ、二人の世界にするかのごとく、客席や店員に向かって開かれていた大きなメニュー表。
唇に残るのは、慣れた苦さに混じった甘み。
「……」
「やっぱり……ブラックは苦い、ですね」
――でもこの味、クセになっちゃいそうです。
照れくさそうに眉尻を下げ、苦さゆえか少しだけ赤い舌を出した可愛い恋人。
想像もしなかった大胆なキスとあどけない表情に、驚きに見開かれた目は自ずと名前へと釘付けになった。
一方、彼女は感想を聞こうとこちらへ身を乗り出している。
「リゾットさんは、どうでしたか? 甘ったるいですか?」
「……確かに≪甘い≫、な……」
「だが、結構好みだ」
「! えへへ、よかった」
かなり現金だと理解はしている。
だが――彼女の優しさ、笑顔、声、行動。
そのすべてがまるで魔法のように、自分の中に蔓延っていた≪モノ≫すら忘れさせてしまうのだった。
甘苦マキアート
交ざり合って、想い深まる。
〜おまけ〜
目を伏せはにかむ名前と、珍しく表情が豊かな――嬉しそうに微笑んだリゾット。
そんな、甘くキラキラとしたひと時を過ごす彼らを、遠くの席から見つめる六人の≪輩≫がいた。
メ「あーッ、いいなあ! リーダー、名前からキスしてもらえるなんて! オレもしてほしい〜!」
プ「ハン、何寝ぼけたこと言ってんだ。リゾットが一人席を立った瞬間、オレはキスだけじゃなく名前ごと掻っ攫ってやるつもりだぜ」
ペ「あ、兄貴かっけええ!」
イ「いや、かっこいいとかじゃないだろ」
ギ「チッ(なんで俺まで……)」
イ「あ、今度はリーダーからキスしてる」
プ・メ「「……何ィィィィッ!?」」
ホ「しかもメニューで隠したまま、深いの始めてるぜ。ったく、二人はいつまで経ってもお熱いなァ!」
ギ「……帰りてエエ……(クソッ、リゾットも公衆の面前ですんじゃねえよ! つか、名前も、あ……あんな顔しやがって……ッ!)」
プシューッ
ホ「あ、ギアッチョの頭から湯気が出てんぞ」
ペ「え!? ちょ、大丈夫!?」
ホ「ハハ! こいつには刺激が強すぎたんだろ……しょーがねェな〜!」
終わり
お待たせいたしました!
リーダーと連載ヒロインでデートでした。
高確率でリーダーにしてやられているので、たまには……ということで書かせていただきましたが、いかがでしたでしょうか?
おはぎ様、リクエストありがとうございました!
感想&手直しのご希望がございましたら、お願いいたします!
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